第18話

 さて、ではこれから、テキサスホールデムと呼ばれるスタイルのポーカーのルールを、ざっくりと説明しようか。


 ポーカーの役については、一般知識として説明しない。「テーブルを囲むプレイヤーがそれぞれチップを賭け、勝者がそのチップを得る」というカジノ系ギャンブルの基本もことさらに説明しない。適宜ググってくれたまえ。


 また、欧米で発展したゲームであるポーカーは、用語は基本的に英語だ。ここは慣れていただくしかない。なるべくわかりやすく進めていくのでご容赦願いたい。



 まず、カードの山から各自一枚を引く。これは、最初のディーラーと席順を決めるための手順だ。


 本物のカジノなら専門のディーラーがつくのだろうが、僕らにそんな人数の余裕はないから、プレイヤーがディーラーを兼ねる。


 ポーカーにおけるディーラーとは……単語通り、カードを切って配る役回りだ。それ以上の役目はないと思っていい。


 ただし、ディーラーは戦略的には最も有利な立場にある。チップを賭ける順番がほぼ最後になり、他のプレイヤーの行動を見てから自身の振る舞いを決められるからだ。


 ポーカーでは、誰がどのタイミングで何をするか、各プレイヤーの行動の把握と観察が重要だ。隣に誰が座っているか、という情報も、プレイの行方を大きく左右する条件となりうる。だから、面子が変わらない我がポーカー部では、日ごとに席順をランダムにする必要があるのである。



 その日は、飛鳥さんが♢K、僕が♠A、桐原さんが♡6、和尚が♢10、城市先生が♣2 を引いた。


 ポーカーの一般的なルールでは、スート(トランプのマーク。すなわち、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの四種)で強弱を決定しない。数字の大小のみで決め、エースがいちばん強く、2がいちばん弱い。


 したがって、僕>飛鳥さん>和尚>桐原さん>城市先生である。



 引いたカードがいちばん強かった者が、最初のディーラーになる。つまり、僕だ。

 以降、引いたカードの強かった順に、時計回りに座ることにしている。もちろんこれも、後方窓際から動かない飛鳥さんの定位置から相対的に、であるが。





 ―――窓の外の運動部の声は、より賑やかさを増してきた。ランニングのかけ声、サッカーボールの跳ねる音、テニスボールを打つ音、スパイクがコンクリートの犬走を蹴立てていくカツカツと響く音……。


 中学の頃から、そういうのは日常の一部のように思っていたけれど、冷静に考えると、いろいろな音声が無秩序に入り乱れる、実にカオティックで奇妙な空間だ。これも「異世界」なんじゃないかって、そんなことをちらと思った。



 ……はて、空手部のランニングの声が聞こえないな。いつもなら真っ先に、この教室の窓の真下を、道着に裸足という出で立ちで、奇声に近いかけ声を発しながらやかましく通過していくはずなのだが。

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