第12話 春子さんは花盛り。

花びん、花びんにお花、、、お花はどこ、、、お花のない花びんなんて不憫すぎるわ。

回転木馬。最終コーナーでついに、第三宇宙速度を。

球根とにんにくは何がちがうの。え? なんにも違わない? やっぱりな。

あれ、引っぱられる。引っぱられてしまうわ。しまうわ。しまうま。しまうまの回転木馬。たてがみがひどくちくちくする。くるぶし、くるぶしに刺さります。

ありんこ。アイスキャンディほおばってる。トリュフまぶして。

生意気な。だれか、はかいこうせんをうってください。

はかいこうせんを…。


朝。

朝だ。

朝。朝。朝。

朝かぁ。

はかいこうせん、、、しまうま。ああもう他は思い出せない。きいい。

今日もお従兄さまに頂いた夢日記用日記帳はまっさらなまま。

はぁ。

とりあえず、体温だけはつけておこう。これも女の子のお勤め。ご苦労さまです。

純水をおでこに垂らして、計測開始。どれどれ。ふむ、完全蒸発まで、8秒。

絶好調だな。

うーーーん、と伸び。

「つば美ちゃん。眼鏡。」

手乗りヤクルトのつば美ちゃん。小さな翼をけなげにけなげに、いっしょうけんめい羽ばたかせて眼鏡を背中に載せてやってくる。

このつらそうな姿が、本当に可愛らしいのです。

一句浮かびました。

好きなこの つらそな姿で どんぶり飯。

あたしったら、あたしったら、はたしないわ。げへへ。

「ありがとつばちゃん。」

眼鏡をかけたあたしは、はっきり言っていいですか。無敵ですよ。

こんなにも縁無し眼鏡が似合うレデーは、そんじょそこらにいやしません。大得意であります。

つば美ちゃんの翼をにこにこ撫でで、アルミ紙のキャップをひん剥いて、一息で飲み干す。

つば美ちゃん、ぽとりと床に落ちそうになる前に空中でキャッチ。ナイスキャッチ。勉強机に置いておく。

つば美ちゃん、学校から帰ってくる頃にはなぜだかいつも蘇っていて満タン。どういう原理かはわかりません。たぶんきっと、Lカゼイシロタ株さんががんばってるのだわ。


ダイニングではとも君がおはようも言わないで、バターにはちみつをかけたパンをかじりながらテレビの星座占いに夢中。


みなみのかんむり座のあなたは、目的の駅の近くになってから席に座れるでしょう。

ポンプ座のあなたは、プラスマイナス、ギリギリプラスになるでしょう。

ろ座のあなたは、わりと盗聴されるでしょう。

ろくぶんぎ座のあなたは、、、


あーあーくだらない。まぁでも元服前ですしね。お子様にはたくさん夢を見る時間が必要とも言います。

あたしはね、断然ごはん派ですよ。それに豆腐のお味噌汁とヌンヌンの踊り食い。それさえあれば、ご機嫌です。

「あら、はるこ。今日は早く出るんじゃなかったの?」

「おん?」

「日直って言ってなかった?」

「げええ! そうだった! 御免!」

かきこみご飯にお味噌汁を流し込んで、ヌンヌンを一息で吸い込みます。

言っておきますけどね。普段はこんなお行儀の悪いことはしないのですよ。

「行ってきま!」


玄関を出ると、あわや正面衝突。ぎりぎりです。

「はるこお姉さんおはよう。今日は早いんだね。」

はす向かいの鳥谷さんのところの拓海くん。やわらかくてかわゆらしい小さな生き物。

「おはろーたっきゅん。お姉さんにおはようの口づけは?」

「そ、そんなはしたのないこと。朝からしてはならないんだよっ。」

ならば夜ならしてくれるというのか。ういやつめ。ナデナデナデナデナデナデナデナデ。

ああん、撫で足りないけど時間がないわ。

あたしはかわいそうなシンデレラ姫。8時15分までに職員室にチョークを取りにいかないと、かぼちゃにされてしまうの。

「それじゃたっきゅん。今日も一日てきとうにがんばろうね。シーユーインヘル!」

シーユーインヘル!

たっきゅん、体いっぱい大きく手を振ってくれて、元気がでる。

でも一年もしたらこんな振り方してくれなくなるかもしれない。

振る手の大きさは無垢の大きさ。そのうちたっくんもきっと汚れてしまって、手首だけで手を振ることを覚えてしまうわ。

急にかなしくなってしまって、あたしったらワープゾーンを通りすごしてしまった。

こりゃあいよいよ遅刻かもしれんな。

ああん。なきっつらに、ハチは寄ってきますね。

ふん。いいですよ。道はひとつじゃないのです。進路変更、北北西!今日は自転車登校とする!


切符代は310円。あぁ、先ほどまでの意気揚々は露と消え、げんなりです。

このお金でいったい何ができたか? 間違いなくハーゲンダッツが買えましたね。

もしもハーゲンダッツを買えていたならば、あたし学校から帰って部屋で一人、窓を開けて、緑色の夕焼けを見ながらしみじみ味わったに違いないわ。

その時間を尋常なく楽しみにして、家に帰るまで一日中機嫌がよくて、すれ違う人みんなを見つめてにっこり笑いかけたに違いないわ。

何しろあたしは素敵な眼鏡をかけているので、あたしの微笑みを受け取った人もきっと機嫌がよくなるに違いないわ。

するとその人たちは一日中優しい気持ちになって、誰も彼もに親切をふりまいたに違いないわ。そして世界は平和になったのです。

たった310円で、世界は救われた。

あーあ、世界は平和になるチャンスを失いましたね。

改札前に、なんだかオロオロしている様子のご老体。

かわいそうに、切符の買い方が分からないのだわ。

でも、ごめんなさいまし。わたくし急いでいますの。なんせ日直がアレなもので…。

ええい、こまっているお年寄りを見捨てるなど女子高生の名がすたるわ!

とびきりお澄ましして声をかける。

「おじいさん? おまこりですか?」

かんじまった! おまこりとは、いったいなにもの。

「やぁ、これは可憐なお嬢さん。実は、どうやってこの乗り物を利用すればよいか分からず困窮を極めていてね。」

んま。ご老体ったら、可憐だなんて。

仕方ないから助けまくってあげるわ。

「おじいさんは運がよいです。あたしは、ここの使い方に関しては、はっきりいってプロです。どちらに行かれるのですか? 導いて差し上げます。」

「どうもご親切にありがとう。まずは立川に行って、次に有明。最後につくばみらいに行きたいんだ。」

「一日でずいぶん色々なところに行くのですねえ。」

「久しぶりの地球でね。古い友人たちに会いに行くんだ。」

「それは感心な行いです。どれどれ。ぜんぶで1180円ですね。」

「昨今のこの星の事情に明るくないのだけれど、これで足りるかな?」

おじいさん、取り出したのは七色に光る、石ころ。

とてもキレイ。でも、石ころは石ころ。石ころは石ころ以外のなにものでもありません。

「ちっちっち、おじいさん。地球では何をするにもこういう、お銭というものが必要なのですよ。物々交換の時代は終わったのです。」

「それは、困ってしまったなあ。」

おじいさん、身なりがよくて、物知りそうな顔をされているのに何んにもごぞんじない。

でも、いささか可哀想です。

あん、やめて。そんな顔であたしを見ないで。そういう顔にあたしは弱い。

「ああん、もう! 仕方ありませんね。じゃあその石ころを、あたしが1180円でお買い上げします。そうすれば、解決ですよ!おともだちも、待ちぼうけを喰らいません!」

ぷんすか。

「助かるよ。本当にありがとう。」

「どういたしますよ、もう!」

ぷんすか。

しかし女子高生に二言というものはありません。あたしは断ちょうちょの思いで大金をはたいて切符を買い、一緒に改札を通ってあげました。

「いいですか、おじいさん。もう少ししたら自転車がきます。2回自転したら降りてください。立川に着きます。立川から有明は4回。有明からつくばみらいは7回半。2、4、7回半、ですからね!」

「2、4、7回半だね。よく分かったよ。」

はあ。まだまだ今月は始まったばかりなのに、世界はこんなに明るいのに、あたしの財布は闇に包まれました。さよなら世界平和。永遠に。

「それじゃあおじいさん。あたしは向こうの発射台なので、ここでお別れです。」

「ありがとう、親切で可憐な優しいお嬢さん。お礼をさせておくれ。何か欲しいものはないかい?」

「おじいさんたら、自転車代も持っていないのに、かっこうつけてはいけませんよ。」

「まったくそのとおり。でも、言ってごらん。」

「ならば言いましょう。あたしはハーゲンダッツを欲します。ハーゲンダッツのシチリアレモンパイ味を欲します。」

「ハーゲンダッツ。それはいったい、何なのかな?」

「おじいさん! 切符の買い方や、自転車の乗り方はまだしも、ハーゲンダッツを知らないのはお恥ずかしいことですよ! ハーゲンダッツというのは、たいへん美味しいアイスのことで、有史以来最高の発明と噂されている尊い食べ物のことです。」

「そうなんだね。いや、君には教えられてばかりだな。わかった。ハーゲンダッツの、レモン…」

「シチリアレモンパイ味です! 見つけたらおじいさんも、食べた方がせいぜい身のためですよ!」

「忘れないよ。」

「ごらんなさい、おじいさん。自転車がやってきましたよ。」

「ありがとう。短い間だけど楽しかった。君に会えてよかったよ。」

「いいってことよ。おともだちと、楽しんでくださってね。」

「うん。そのつもりだ。お礼とは別に、これを君に。さよなら、素敵なお嬢さん。またいつか。」

おじいさん、初めてのくせして颯爽と手慣れた風に自転車にお乗りになって、あっというまに打ち上がっていった。

気付けば手のひらに収まっていたのは、小さな円い鏡。

受け取っちまったもんは仕方ない。ありがたく頂きます。

それはころころと小さな花々の細工が施された可愛らしい銀の鏡。達人のしごとに違いない。気に入りました。

おじいさん、おじいさんなのにハットを被ってとってもおしゃれだった。金縁眼鏡も加点です。別れ際に可愛らしい贈り物までくれるなんて、女殺しってやつですね。

50歳若くて、1180円を持っていたら、きっとぐっときてしまっていたわ。

あたしの自転車もやってきました。


平日の朝の自転車ってあんまり、好きではないわ。いつも顔をしかめた大人たちでいっぱい。空気まで塞ぎこんでしまってる。

この人たちとて、好きでそうしているわけではないのだ。なぜなら休日の朝の自転車は、こんな顔をしてる人、いない。

せめてあたしだけは、平日であっても姿勢をただしてすこやかにします。

今日はお気に入りの、透き通った水色の小さな石のついた髪留めでお下げを留めてる。

もしも顔をしかめた誰かがふと顔をあげて、あたしのお気に入りの髪留めを見つめて、しかめっつらを緩めて、素敵な髪留めですね、などと言ってくれたら、その殿方のところにお嫁さんに行ってあげるのも、やぶさかではない。

なのに誰も気にも留めやしてくれないから、あたしときどき髪を前にやって、自分で自分に素敵ですねと言ってあげる。

到着しました。時刻は8時8分。やっべえ。


やっぱり日直には遅れてしまったけれど、かぼちゃに変えられてしまうのだけはかんにんして頂けた。これも日々の行いの賜物ですね。

「きみを見ていると、怒る気をなくします。まるで犬ころみたいだ。」

ですって。あたし流石にどたまに来たけれど、あえてにっこり笑って、にゃーん、って言ってやった。

それでも収まりつかないからチョーク箱と日誌をもって渡り廊下をどしどし歩いてたら、となり組の日直の一條めが後ろから、地面が揺れてらぁ、なんて無礼を言うから額に向かってチョークを一閃。亜光速。泡を吹いて倒れる。ざこっぱちめ。

しかし額に跳ね返ったチョークが中庭の池に落ちてしまった。ピンチ。

案の定、女神様が髪に藻をへっつけながら現れて、あなたの落としたチョークはどちら? なんて聞いてくる。面倒なので、落としたのは一條くんですおほほ、といって、一條の持ってるチョークをこっそり一本拝借。暴言の罪はたいへんに重いのだよ。

女神様は一條を池に連れ帰ってしまわれたけど、見なかったことにします。暴言の罪はたいへんに重いのだよ。


やはり思いますけれど、関係代名詞っていう名前はよろしくない。なにしろ、関係代名詞、っていうことばを見ても意味が何一つとしてわからないのだから。

その単語を構成するひとつひとつの言葉を見ても、意味が分かりかねる言葉はよい言葉とは言えないね。その点、言葉ということばは、よい言葉だと思わないかい。

とお従兄さまもいってらっしゃった。

そのときはお従兄さまの横顔に鼻息を荒くしていたので何を言っているのか意味不明だったけれど、今なら少しは、分かります。

お従兄さま、久しく会っていないわ。ハンケチとか、ボールペンとか、貰っておけばよかった。いつもは大事に鞄の奥とか、ポーチのポケットにしまっておいて、哀しい朝とか、さみしい帰り道にここぞと取り出して、頬ずりして、ぐふふ、と笑うのだ。

そんなお従兄さまは、あたしなんて、それこそ犬ころくらいにしか思っていないのだろうけれど。

体力とか体調とかとは別に、ひとには電池みたいなものがあるのだと思う。

いくら体が元気でも、その電池が放電して空っぽになってしまうと、やっぱり、元気ではいられない。

お従兄さまにしか充電できない電池が、あたしにはある。へっ。歳が離れてたって関係ねえや。まずは犬ころを卒業して、人として扱っていただかなくてはね。レデーとして扱って頂くのはそれからそれから。

急いては事をし損じる、というよいことばもあります。

そうだ、のりづけ言葉、というのはどうかしら?


「部活見学どこいくー?」「決めてないなりー」「運動系にする? 文化系にする?」「わたし茶道部興味あるー」「ありだな」「わたしは男子サッカー部見るー」「なんでよ」「こわっぱ。人生のうちで女子マネージャになれるのは、女子高生のうちだけだけなんだゾ」「大学生でもなれるじゃん」「はん。女子大生でマネージャだなんて、不純な動機でなってるやつしかいないわよ。」「ほう。ヤスベエねえちゃんは不純じゃないと?」「純粋です。純粋に学校一見目よき男たちを嫐ったり弄んだり。」「そんな悪ぶって、ほんとは宝仙先生にほの字なくせに」「殺すわよ」「殺されたくねえ」「ヤスベエねえ、青龍偃月刀をしまって」「ほらほらヤスベエねえ、牛乳プリンだぞ~」「やん、あまい」


きゃあきゃあ騒いで、今日は文化系の部活をひやかすことに。

「まず茶道部でしょ」「天文部は」「きゃあ、夏休みの合宿先の星がきれいな山の上でみんなが寝ちゃった後に何か起きちゃいそう」「きゃあー」「きゃあー」「ほかー?」「刀剣鍛冶部ー」「料理部ー」「カブリ数物連携召喚魔法部ー」「合掌部ー」「飼育部ー」「還元楽団ー」「偶像崇拝研究会ー」「けっこうたくさん、面白そうなのがあるもんね。」「だわね。あと2時間もないからちゃっちゃといこうぜ!」「おー」

ほんとうのところ、別に部活に入りたいわけじゃないんですけどね。部活はともかく、かしましいのは楽しいので、だから万事オーケーなのです。

「じゃあまずはご近所の合掌部から」「おー」「マテ、オマエタチ…」

池からずるりと現れたのは、一條めです。なんだか身体中が赤く光ってて、目は白く光ってる。生きていて何より。

「ハルコ、オマエガ、メガミニ、ウソヲツイタセイデ、オレハ、コンナカラダニ、サレテシマッタ…」

なんですか。あたしを下の名前で呼び捨てしやがって。ほんとうに無礼者。

(ちょっとお聞きなすった?はるこ、ですって)(やんやん。二人は愛し合っているのかしら。)

「みなさん。冗談は体重だけにしてちょうだい。一條、きやすく呼び捨てなんて、しないでほしいものだわ」

「オレハ、モウ、一條、デハナイ。」

「あら失礼あそばせ。あなたはどこの馬の骨の者?」

「オレハ、ネオ一條、ダ」

「ぷぷぷ。それじゃネオ一條さん、ごきげんよう。みんな、まぬけは放っておいてちゃっちゃといこーぜ!」

「ネオ一條ハ、メガミノ、ドレイ。メガミノ、モクテキハ、チキュウ、ホウカイ。オレハ、モウ、カラダヲ、オサエラレナイ!」

「あら、おだやかじゃないこと」「どうしましょう?」「助けてさしあげる?」「哀れだからさしあげましょうか?」「よし一條。そこになおれ。一息でやってやる。」「そのかわり一條、今月いっぱい、わたくし達全員に日替わりでスイーツをおごるんだゾ」

「オレニ、サワルナ! オレハ、ハカイシャデアリ、ドウジニ、バクダン。オレヲトメヨウトスルト、オレハバクハツシ、チキュウモ、ホロブ。ワカルカ? モウ、チキュウハ、ツンデシマッテイルンダ…。」

「ゆっこ。どう? ほんとっぽい?」「ぽーい」「めんどうな男ね」「こじらせ男子ね」「一生独身に違いないわ」「助ける方法は?」「中性子レベルで一撃滅殺、かな?」

「オワリ、オワリダ…、ナニモカモ…、ゼンブ、ゼンブオマエノセイダ、ハルコ!」

「わあ、この男、女のせいにするのね。」「情けない男。」「こじらせ男子ね。」「おとといきやがれという話だわ。」

はあ。面倒なことになってしまった。今日はなんだか、意地悪な日。

でも九割九分九厘ネオ一條の自業自得とはいえ、私の責任も一厘だけは認めましょう。なにせ私は、潔ぎのよい女をめざしていますので。

「みなさん。あたし、やってやりますわ。」

「バカガ! モウ、オワリダト、イッタダロウ! ナニヲシテモ、チキュウハホウカイ、スルノダ! モウ、ドウスルコトモ、デキナインダ…」

「だまらっしゃい! 地球崩壊が恐くて女子高生やってられるか!」

「はるるん! よく言ったわ!」

「ヤスベエねえは、あたしと息を合わせて一撃滅殺! ゆっこはゼロ磁場制御! アンパン婦人はこの甲斐性無しの超回復!」

「がってんしょうちのすけ!」「一條! スイーツ忘れんなよ!」

「ヤメロ…、ムダダ、ハルコ…」

「だから、呼び捨てに、するんじゃねー!」


「中途半端な時間になっちゃったねー」「部活見学、行くー?」「疲れちゃったよね」「今週いっぱい見学できるし、帰ろっか」

「さんせー」「ちょっとお腹すいたね」「だったらさ、ラーメン食べて帰ろうよ」「最高かよ」


ワープゾーンを出ると、たっきゅんを発見。こちらを見て、また体中で大きく手を振ってくれる。

あたしも大きく手を振って、振りながら近づいて、たっきゅん捕獲。

しめしめと、手を繋ぐ。恋人繋ぎはしませんよ。まだ私たちには早すぎます。

「たっきゅん、少し汚れているね?」

「調べものをしてたんだよ。小学生も楽ではないのです。」

「なまいきー、かわいいー」

「はるこおねえさん、素敵な髪留めをしているね?」

「た、、、たっきゅん…!」

「ぼくはその色、とても好きだよ。」

「な、なまいきいって!」


玄関を開けると、つば美ちゃんがぱたぱた、お出迎え。部屋までついてくる。

制服をぬいで、畳んで、髪留めを外して下着のままひといき。

ラーメンのせいかしら、喉がかわいて仕方ない。

キッチンに下りて冷蔵庫を開けると、まあ! ハーゲンダッツのシチリアレモンパイ味があるわ。きっとお母さんが買ってきてくれたんだ。

こりゃもう、夕飯のあとまで我慢なんて、できませんな。

部屋に戻って窓を開けると、ふわり、カーテンが揺れる。

電灯を消して、はしたなく下着姿で、終わりかけの夕焼けを見ながら、ハーゲンダッツをいとしく食べる。

夕焼けの街が好き。なにしろ、昼間とちがって茜いろに一色。シンプル。シンプルイズビースト、ですね。

あら、さっき畳んだスカートがなんだか光ってる。まさぐってみると、今朝おじいさんと交換した石ころ。七色の光。それを円い小鏡が四方八方に反射して、まるで花のよう。

窓枠に置いてみる。大変おつですね。

あ、お従兄さま。お従兄さまはとても博学だから、これがどんな石なのか知っているかもしれない。

ほんとは綺麗であればもう十分で、正体なんかさほど興味はないのだけど、これなら、正体の捜査にかこつけて自然に連絡できる。やったぜ。へっへっへ。

あらお母さんが呼んでる。きっと夕飯の準備だわ。


「ポンプ座のあなたは、プラスマイナス、ギリギリプラスになるでしょう。」


本当に、すべりこみでギリギリプラスな日になってしまった。

当たらない占いよりも、当たる占いの方がたちが悪い。まったく馬鹿にしてやがる。


「いまいくー」


明日は占いなんて、聞いてやるもんか。

あーぁ。宝くじでも当たらないかなぁ。

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