~epilog~

「ルータ……起きなさい、ルータ」

 身体を揺さぶられ、寝ぼけ眼で顔を上げ、声をかけてくる人物を見上げるルータ。

「あ……お母さん? どうしたの?」

「全く、どうしたの? じゃないでしょ! 納屋の中なんかで寝て! 探すのに苦労したわよ! 本当に、少しは女の子らしくしなさい!」

 あはは、と笑いながら頭をかくルータ。

「何でこんなところで寝てたの、ルータ?」

「何だか……自転車が呼んでる気がして……」

「全く……」

母親は呆れる反面、どこか嬉しくも思っていた。

「ねえお母さん! 私もお母さんみたいに、この自転車で旅に出る! ねえ、良いでしょ?」

 そう言われた母親は、少し驚きながらも、優しく微笑み、ルータの頭を優しく撫でる。

「良いわよ。でも、その前にいっぱい覚えることが有るわよ。それに……」

 そこで言葉を切った母親を、不思議そうに見つめるルータ。それを優しく見つめる母親。

「旅に出る前にあなたに渡す物も有るしね。その時になったら、お母さんの宝物をあなたにあげるわ」

「宝物?」

「そう、お母さんの大事な宝物」

 納屋の外から誰かが呼ぶ声が聞こえる。

「お~いルーミス! ルータは見つかったか?」

 そう声をかけられ振り返る母親。

「ああ、あなた。こんな所にいたわ」

「ははは、本当にルータはいつもどこかにいなくなるな」

 そう言って、納屋の中に穏やかな笑みで姿を見せる父親。

「お父さん! 私、自転車で旅に出るの! 良いでしょ?」

「ああ、良いとも! でも……地図の見方はちゃんと覚えていくんだぞ! 父さんはそれでえらく苦労したからな……」

 昔を思い出すような遠い目をする父親。

「それは大丈夫だよ! 私お母さんに似たから! じゃあ、私遊んでくるね! あ、お母さん! 自転車借りるね!」

 そう言って、自転車に跨がると颯爽と納谷を飛び出し、丘の方に向かっていくルータ。

「あ、ちょっと待ちな……もう、全く!」

 ルーミスは走っていくルータの背中を両手を腰に当てて見送る。

「ははは、まあ良いじゃないか」

「もう! タリスがそうやっていつも甘やかすから!」

「おっと、そろそろ畑仕事に行かなくちゃ」

 タリスはそう言って、そそくさとその場を逃げ出す。

「本当にうちの連中ときたら!」

 ルーミスはそう言った後、ふと空を見上げる。

 そこにはいつもと変わらない太陽が光を投げかける。

「今日も、良い天気ね」

 穏やかな光に包まれ、ルーミスはいつかと変わらないこの空を見上げる。ルータも、もうすぐ十五歳になる、そうすればあの時のルーミスのように旅に出ることになる。その時、いつかルーミスが見たような空を、ルータも見ることになるのだろうか? そしていつかこの空の下で、少し大人になったルータを待っている人と、一緒に過ごす事になるのだろうか。そんな事をルーミスは空を見ながら考えていた。

 風が優しくルーミスの頬を撫でる。そして遠くにやった意識を現実に戻す。

「さて、帰ってご飯の用意しなくちゃ」

 ルーミスはそう言うと、家の方に向かって歩きだす。



Fin

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いつかこの空の下で…… 流民 @ruminn

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