~瞳、紅くもゆる頃~ 4話

 ラムジットの仕事を手伝うようになって少し過ぎた。

最初は慣れない仕事に手間取ったルーミスだったが、だんだんと仕事に慣れていき、いろいろとラムジットに仕事を手伝わされるようになってきた。

 しかし、いつまでたっても自転車を修理してくれようとはしなかった。そして自転車の事をラムジットに話すと……

「あのー、ラムジットさん」

「なんじゃ?」

「自転車なんですけど……」

「ああ、もう少し待っておれ。今人に自転車の修理に使う部品を頼んでおるから」

 決まってこう返す。確かに仕事は忙しかった。しかし、全く自転車に手が掛けられない程という訳でもないようだったのに、なぜかラムジットは自転車を修理しようとはしなかった。その事を不思議にも思ったが、それ程深く考える事もせずにまたしばらく時間が過ぎて行った。

 そんなある日、ルーミスはラムジットに連れられて森の中に鉄鉱石と石炭を取りに行った。森はもうずいぶんと紅く色付き、まるで山全体が燃えているかのように、鮮やかな色を湛えていた。

 歩く度に落ち葉を踏み、かさかさと音を立て森の中に入ってく二人。ルーミスは色付く木々を眺めながらラムジットの後に続く。

 その時、何かの気配を感じたラムジットは、ふと歩みを止める。

「どうしたの? ラムジットさん」

 かさかさと音を立てて何かが近づいて来る。

「く、熊?」

 一瞬そう思ったルーミスだったが、音のする方から出てきたのは人間で、ルーミスはほっとして息を吐き出した。

 しかし、その人物をよく見るとラムジットよりもかなり年が下に見えたが、眼光は鋭く、薄ら笑いを浮かべた口元は見た物を不快な気持ちにさせる。そして何か、えもいわれぬ不気味な雰囲気を漂わせていた。その男を見てルーミスはある意味、熊よりも凶暴な生き物に遭遇したような気持ちなった。

「ラムジット。久しぶりだな」

 その男はラムジットに声を掛けるが、ラムジットはそれを無視する。

「なんだ? もともと無口な奴だったが挨拶も忘れちまったか?」

「何の用だ?」

 短く答えるラムジット。

「なんだは無いだろ? 久しぶりに会いに来たんだ」

「ルーミス、先に帰っておれ」

「え、でも……」

「いいから帰っておれ!」

鋭くルーミスに言い放つラムジット。

「う、うん……」

 その様子が気になりながらも、ルーミスはラムジットを置いて家に向かう。

「誰なんだろう?」

 明らかにラムジットの事を知っているような人だったが、いつもと違うラムジットの様子にルーミスは少しの不安を覚えた。そんな事を考えながらも、ルーミスは家に着き、ラムジットが帰ってくるまでの間夕食の用意をしていた。

 夕食の用意が出来、ラムジットが返ってくるのを待っていたルーミスだったが、なかなかラムジットは帰って来ない。

「何してるんだろラムジットさん……」

 ラムジットが帰ってきたのはすっかり食事が冷め切り、辺りはもう真っ暗になってからだった。

「お帰りなさい」

 黙って自分の部屋の中に入って行くラムジット。明らかに様子が変だったが、扉越しに声を掛けるルーミス。

「ラムジットさん、ご飯用意できてるよ」

「お前一人で食べなさい」

「せっかく作ったんだから食べようよ」

「いらん!」

 強く言い放つラムジット。

 ラムジットの言い方に腹を立てたルーミスは、「後でお腹空いても知らないからね!」と、言い放ち、一人冷めた晩御飯を食べ、その日は早く眠りに付いた。

 その深夜、何かごそごそと音が聞こえ目が覚めるルーミス。

「ラムジットさん? お腹すいたんでしょ?」

 しかし、部屋には誰もいない。そして自分の部屋を出ようとしたが、工房から何か物音が聞こえたので部屋を出ず、少し開いた扉から工房の様子を伺う。

 そこにはラムジットの姿が有り、ルーミスは声を掛けようとしたが、どこかいつもと違う、殺気だったような何かを感じ、声を掛ける事をためらった。

 ラムジットは壁に掛けられた剣を鞘から抜出し、その剣をじっと見つめる。剣は煙突代わりの天窓から射し込む月の光に照らし出され、青白く光っている。

 ラムジットの顔は明らかにいつもの顔とは違い、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。

 その様子を見てルーミスはラムジットに声を掛ける事は出来ず、またベッドに戻った。


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