~瞳、紅くもゆる頃~ 3話
翌朝、カンカンと鉄を叩く音で目が覚めるルーミス。秋が深まった陽は、まだそれほど高い位置には来ていない。
ベッドから起き上がり、仕事場への扉を開けるとそこには、炉の前でまっ赤に焼けた鉄に大きなハンマーを打ち付けるラムジットの姿。
ハンマーを打ち付けるたびに小さな火花が飛び散り、そのいくつもの火花を体に浴びながら熱い炉の前で汗を掻きながら一心不乱に鉄を叩く。
思わずその姿に見とれてしまうルーミス。
暫くの間ラムジットの姿を見続け、ようやく仕事がひと区切り着いたのだろう、ラムジットは立ち上がり腰に手をやり首を回す。
「ラムジットさんおはよう」
声を掛けられたラムジットはルーミスの方を振り返る。
「よく眠れたか?」
「ええ、とっても」
そうか。そう言うとラムジットはルーミスの寝ていた部屋に入り、水瓶から柄杓で水を掬うとそのまま水を飲み乾す。そしてまた炉の前に座り、また鉄を炉の中に入れ、それが赤く熱せられる様子を観察し、頃合いを見て炉の中から取り出すと、またハンマーで赤く熱せられた鉄を叩く。
またしばらくその姿を見ていたルーミスだったが、ラムジットが話しかけてくる。
「腹が減ったら台所に有る物を適当に食っておけ」
「ラムジットさんは?」
「わしはまだいい」
ラムジットはそう言うとまた鉄を叩き、鉄の形を成形していく。
ルーミスはラムジットの仕事場を出て台所に行き、朝食の材料を探す。
何とか食べれそうな物を見つけ出すが、調味料の類は塩と胡椒くらいしか見当たらない。
「これじゃあね……」
ルーミスは取りあえず朝食の準備をする為に、自分の鞄の中から家から持ってきた調味料を取り出し、料理を始める。
それ程料理が得意な訳ではないが、それどもラムジットの料理よりはましなものがルーミスには作れた。そして、料理が出来上がった頃ラムジットの鉄を叩く音も止み部屋の中に入って来る。
「ああ、ちょうど今ご飯が出来たから呼びに行こうと思ってたところ」
ラムジットは部屋の中に漂う何とも食欲を誘う匂いに、少し驚いた様子だったが、黙って自分の席に座る。
ルーミスはテーブルの上に今出来たばかりの食事を置き、それをラムジットと自分に取り分ける。
ラムジットは自分の皿に盛られた料理を一口食る。
その姿を見つめるルーミス。
「うまい」
ほっとした様にルーミスは自分の皿に乗った物を食べる。
「私それ程料理得意な訳じゃないんだけど、旅をしてるうちに自然と覚えていって、今ではようやくちょっとはましなものが作れるようになったの」
ルーミスの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ラムジットは皿に盛られた料理を黙々と食べ続ける。
ルーミスもその姿を見ながら自分の皿の物を食べる。
穏やかな朝食。ずいぶん久しぶりにこんなに穏やかに朝食を食べている事に気が付いたルーミスは自然と笑みがこぼれる。
「どうしたんじゃ?」
「え? ああ、なんだかちゃんとした朝ごはんを誰かと一緒に食べるの久しぶりだったから」
「そうか。ところでルーミス。お前の乗っていた自転車じゃが、あれを直すには随分時間がかかる」
ラムジットはそう言ってようやく自転車の事を思い出すルーミス。
「ああ! そう言えば!」
そう言ってルーミスは外に飛び出ると、そこには車輪が曲がり、フレームの少しいがんだ自転車の姿が有った。
その無残な姿にルーミスは途方に暮れると共に、悲しくて涙がこぼれ落ちる。
ラムジットがルーミスの泣いている後ろに立ちルーミスに声を掛ける。
「心配するな。わしならちゃんと元通りに直してやれる」
「ほんと!?」
「ああ、これぐらいの物、簡単に直してやる」
今まで泣いていたルーミスは、今度は満面の笑みでラムジットに微笑む。
「だが、今は仕事が立て込んでおるし、修理するための材料が足らん。暫く待っておれ」
「うん! 解った。ラムジットさん、本当にありがとう!」
「ただし、タダという訳にはいかん」
「もちろん! そんなにお金は無いけどちゃんと払います」
「いや、金はいらん。そのかわり……」
そこで言葉を止めるラムジット。
「そのかわり?」
「わしの仕事の手伝いと、毎日の飯を作れ。ルーミスが作る飯はわしが作る飯よりはるかに旨いからな」
どんな事を言われるのか少し不安だったルーミスだが、それくらいの事ならと喜んで引き受けた。
「じゃあ、早速じゃが仕事を手伝ってくれ」
はーい。そう言うとルーミスはさっそくラムジットの仕事場に駆け出して行った。
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