~瞳、紅くもゆる頃~ 1話

「え!? ほんと!」

 村を出て六ヶ月、ようやくタリスらしき人物を見たという人の話を聞いた。

「ど、何処で? ね、ねえ何処で見たの?」

 かなり慌てた様子のルーミスに気圧されるように答える村人。

「どこって、この村でしばらくテントを張ってて……なんだか村に馴染んでたな~」

「それって、いつの事?」

 腕を組んで暫く考える村人、そこに別の村人が通りかかる。

「どうかしたのか?」

「いや、このお嬢ちゃんがさ、人を探しているらしいんだけど。それがさ、ちょっと前まで村に旅人いただろ? タリス。あいつの恋人らしいんだが……」

 そこでまた否定するルーミス。

「恋人じゃない!」

 その否定もあっさりと村人に言われる。

「え? 違うのか? だって、タリスのやつ、故郷にルーミスって言う恋人がいるって。なあ?」

「おお、そんな事言ってた、言ってた」

 いったいどんな事をタリスは言っていたのか……

 ルーミスは赤くなりながら村人に話しかける。

「と、とにかく。そのタリスはいつまでいたの?」

「えーと……確かあれは……そうそう、今年の麦の種まきをやりだす頃だからもう半年位前かな?」

「それで、その後どこに行くか聞いてない?」

 急かす様に村人に聞くルーミス。

「うーん、確か故郷への帰り方を聞いてたからな~、もう今頃あんたの村に着いてるんじゃないか?」

 しかしもう一人の旅人がそれを否定する。

「いや~、あいつならまだその辺うろついてるんじゃないか? だって、あいつかなりの方向音痴だったじゃないか。前に狩りに一緒に来た時、あいつはぐれて三日間帰って来なかったことが有るだろ。あんな子供でも迷わないような森でだぜ?」

「とにかく、この村から北の方に向かって行ったよあいつは」

「ありがとう!」

 ようやくタリスの向かった方向が解った。それを聞いたルーミスは村人二人に礼を言って、急いで自転車にまたがり自転車をこぎ出す。

「タリスに会ったらよろしく言っておいてくれ!」

「気をつけてな~」

 村人二人が走り去るルーミスに声を掛ける。

「わかった~、伝えとく~。ありがと~」

 半年前にこの村を出たのだ、いくら急いでもそんなすぐ近くにいる訳ではない。

 しかしルーミスは急がずにはいられなかった。村を出て、山道の急な下り坂を駆け下りていく。もうすぐ、後少しでタリスに会えるかもしれない。その思いはルーミスの身体を軽くし、どこまででも自転車で走り続けれるかのような力を与えてくれた。

 早くタリスに会いたい。その気持ちでいっぱいで、周りの景色は殆ど眼に入っていなかった。

 急な下り坂をほとんどブレーキも掛けずに駆け降りる。しかし、ルーミスはこの時自転車の異変に気が付いていなかった。そう、ブレーキがほとんど利かなくなってきている事に。

「え? うそ! なんで? ブレーキがーーーー、利かないーーーーーーーー」

 下り坂を凄まじいスピードで駆け降りていく、何とか止めようと必死に両足を地面につけてスピードを殺すが、それくらいでは自転車は止まりそうにない。

 右手には壁のようにそそり立つ絶壁。そして左手には、それ程高いわけではないが、落ちたら無事ではすみそうにないような崖。

「誰かーーーー、助けてーーーーーー」

 目の前に迫りくるカーブ。ルーミスは両足を目一杯地面にこすりつける、しかし迫りくる急カーブを曲がろうとハンドルを切り、体重を倒して曲がろうとするが、曲がりきれそうにもない。そしてルーミスは……

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