燃えゆく米。

 目の前で広がっていく炎を前に、村民たちは唖然として動くことができない。汗水を垂らし、毎日毎日丹精に育て上げた米が、焼かれていく。数年ずっと凶作が続き、ようやく豊作に近い出来を迎えた秋だったというのに。


「おい!何をしているんだ。早く火を止めろ」。村を統治する領主を始め、侍たちが叫ぶ。


 その声に、村民たちは我に返ったように動き出し、消火活動に乗り出そうとする。しかし火勢は強力で、もはや何をしても手遅れだということは明らかだった。


 女性や子どもの村民たちの中には、声を上げて泣くものも。呼応するかのように、泣き声が広がる。若い男たちはみなうなだれ、老人たちは震えていた。みな、目の前で拡大していく炎を前に、為すすべが無いのだ。


 ──真夜中の寄り合いで、村民の老人が口を開いた。

「うまくいったぞな。これで今年の年貢はゼロじゃ。侍の奴らは飢え死にするしかねえ」


「我々には蓄えてきた木の実や、アワヒエがありますし、山には数年かけて作った隠し畑や、鶏小屋もある。キノコやゼンマイなんかも撮れるし、魚を釣ったり動物を狩ったりもできますからね」

 若い衆が、泣く演技をした子どもの頭を撫でながら応える。


「侍の取り分6割、我々の取り分が4割と決まっているのに凶作の際、武力で脅して全部奪っていきやがったからな。抵抗して殺された、太助の仇もとれたってもんだ」


「そうですね長老。他国では3公7民(侍3割、農民7割)で、農民の取り分の方が多いところだってある。6公4民なんて割合がそもそも高すぎです」


 武士は食わねど高楊枝。高すぎるプライドの侍たちは、農民たちに対して施しを求めることは無い。万が一求めてきても、誤った知識を伝えれば自滅していく。


 侍たちは命がけで領土と領民を守り、その分領民から年貢を徴収するのが本分だ。奪うだけの存在では無いのだから、当然だ。


 さて、次に来る領主はちゃんとしてるだろうかねえ?時は戦国。民もしたたかなのだ。

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