戦場の絆。
「お前が撃ち殺すんだ。このガキを」と上官は告げ、言葉を続ける。「おいインテリルーキー。ここは我々の植民地であるにもかかわらず、この村は敵に協力したのだ。連帯責任で、村ごと皆殺しにするのは当たり前だということはわかっているよな?」と。上官も含め、それを聞いた小隊の5人全員が下品に笑う。インテリルーキーと名指しされた若い兵士は、小隊全員から“腰抜け”と呼ばれており、人殺しなど到底できないだろう、とわかっていたからだ。
若い兵士の軟弱さは、“戦争は悪である”と吹聴していることからも見てとれた。あまつさえ、小隊の中で唯一現地語を理解してしゃべることができ、小隊全員が“原住民”と呼んで差別の限りをつくしている植民地の住民たちとも交流をしていたのだ。戦時中であるにも関わらず“個人の思想を重んじない全体主義は危険だ”などと、賢しげにしゃべる若い兵士に、上官や小隊全員が“インテリルーキー”とあだ名をつけ、バカにしていた。
「もちろん、理解していますよ。敵は殺さなければなりません」と、徴兵制度により登用された若い兵士は、頬を赤らめて答える。そこには、“もう、腰抜けとは言わさせない”という決意が見てとれた。若い兵士は、こちらをにらみつける少年に怒声を浴びせかけて、現地語で自らの意志を伝えた。現地語を理解して話せるのは若い兵士だけなのだ。
──刹那、兵士はフルオート状態にして持っていた銃を少年に投げ渡し、自らも腰の拳銃を手にして、振り向きざまに少年と共に一瞬で小隊全員を撃ち殺した。
死体を前にして、若い兵士は「私は腰抜けなんかじゃない。敵は殲滅しないと」と、呟く。
少年はニッコリと笑い、“アリガトウ”と兵士に礼を言った。その後、自分の村に迎え入れ、村民たちは「英雄だ」と歓迎。全体主義に染まり、自分の頭で考えることを放棄してしまった同世代の若者が続々と死んでいく戦争の中で、若い兵士は自らの意志と行動で手に入れた環境の中、平和な時間を終戦まで過ごしたのだった。
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