賢い少年。

「日本だって戦争をしていた時代があるんだよ。もう随分前のことになるんだけどね。しかも、負け戦とわかっているのに、若い者たちの命が国によって奪われたんだ。“国を護るため”と称してね。実際は、犬死だよ。ある青年──いや16歳だから少年か──なんて、爆弾を積んだだけの“回天”という人間魚雷に乗せられて、特攻を命じられたんだ。“国の言うことは絶対”というくだらない妄想にとりつかれた、大人たちによってね」と、老人は安楽椅子に座りながら、曾孫に話をして聞かせていた。


 その面影には、若かりし頃の精悍な顔立ちが残っているが、表情は穏やかな笑顔だ。


「おじいちゃん、その少年はどうなったの?死んじゃったの?殺されちゃったの?」心配そうに曾孫は質問する。


「そうだね。賢い少年で、他の大人たちとは違い、状況は把握していたが、どんどんと戦況は悪化し、ついに少年が乗った母艦にも特攻の司令が届いたんだ。だから、少年もついに人間魚雷に乗せられてしまった。そして“敵”を攻撃。敵の船を完全に撃沈して、海に沈めてしまったんだ」と老人は語った。


「じゃあ、その少年は死んじゃったんだね」と悲しい表情を浮かべる曾孫。


「記録上、その少年は“死んだこと”になった。ただね、さっきも言ったように少年は賢かったし、人間魚雷を遠隔操作できる技術も持っていたんだ。少年は“見たこともないアメリカとやらに対しては敵意は無いが、自分に対して死ねだとか殺せだという大人は敵だ”と認識した。だから少年は、母艦と大人たち全員を沈めることで証拠も全て消し去った。今は、人生で最良の時間を過ごしていると思うよ」と、曾孫の頭を撫でながら言った。

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