生物の届け物

「うーん」

 博士は研究室の中で、うなったきり黙ってしまった。

 博士の前には、五メートルほどの透明なケースが。


「どうですか…?」

 おそるおそる、研究助手が博士に声をかける。博士が、一向に腕を組んだまま動こうとしないからだ。


「しかし…なぜ、偶然の産物にしてもなぜこのようなものが…もう少し美しい生物であってもよかったろうに…」

 博士は独り言のようにケースを覗きこんだまま、口を開き、そしてため息を何回もついた。


 ケースに入れられたそれは、生き物であり、時々唸り声を上げていた。

 その生き物の姿は…博士と助手にとって、美しいとは言いかねた。いや、むしろ醜いと形容した方が正しかった。


 彼らにとって、その動物が生まれたのは、まったくの偶然。

 助手が、博士に言われて、生物の遺伝子の逆進化についての実験をしている時、それは生まれた。


 たまたま、助手は実験中に眠り込んでしまい、起きた時には、試験管の中ではすでに、何らかの生物の基ができあがっていた。それから博士に連絡をとり、その生物を急速に培養液で育てたのだ。


「この生物…どうやら多少の知能があるようです…」

 助手が博士に言った。

「…そうか…どの程度のものだ?」

「……それが、非常に原始的な知能スタイルでございまして…おそらく放っておけばお互いを殺しあうような生物で」


「…そうか、原始的とはいえ知能がある以上は、このまま処置してしまうわけにもいくまい…かと言ってこのまま放っておくわけにもいかんし…」


 博士は雇い主でもある、政府に事の次第を報告し、相談をした。そしてしかるべき方法が取られることになった。


 その方法とは…。


 生物が生きていくことができる環境を持つ、他の惑星にその生物を逃がすことである。その生物の醜さが、あまりに酷かったからだ。更に、一匹だけでは哀れであるとの配慮から、もう一匹の同じ生物を作り上げた。


 そして。彼らの生きていける環境である惑星へと届けられた。


 数日後、助手が博士に聞いた。

「あの生き物は、どうなっているのでしょうかねえ」

 博士は忌まわしい記憶を掘り起こされたことに対して、不機嫌な声で答えた。

「知らん…おそらく適度以上の繁殖を繰り返してでもいるのではないか?」とため息をつく。


「あの二本足で歩く生物を捨てた星。確か“地球”とかいったな」と四つある頭を、八つの手で抱え込み、呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る