ターンアラウンドマネージャー(事業再生屋)の本懐。
「うちの社員は使えない連中ばっかりなんですよ。正社員だから首を切ろうにも切れやしない。私が採用したならともかく、先代のお荷物を抱えるのはやってられないよ。こんな連中の解雇もできないなんて、どうなってるのかねえ、日本の法律は。ねえ、渋沢さん?」とゴルフのパターを振りながら、ターンアラウンドマネージャーの私に、山上太郎が声をかける。
山上は先日、製造業の会社を親から引き継いだばかり。それまでも“役員”として入社していたが、父親の急死により、社長に就任することになった。事業再生をするほど、悪化はしていないが、“転ばぬ先の杖”と考えたようで、私に招集がかかったのだ。
「まあまあ。最初はどうしても社長業は難しいところもありますよ。それに、社員さんといっても、200人もいらっしゃるんですから、全員をご存知なわけでもないでしょうし」と、私はやんわりととりなす。曲りなりにも、クライアントだ。多少のヨイショもする。
「そうだな。私が知っているのは幹部連中だが、酷いもんだぞ。“このままではいかん。新しいことをするぞ”と号令をかけても、何も動かん。そこで、渋沢さんにお声掛けしたわけです」と。渋沢は、渡されたPL/BSなどの資料を読みつつ、応える。「社長。でも、既存のビジネスで十分に利益はでていますよ。単なる下請けではなく、独自の技術がありますし。あ、大企業からのオファーを受けて新しい部品を開発したり、オリジナル商品をリリースもしてるじゃないですか」と、驚きの声を上げる。
そして「とりあえず、社員の皆さんにもお話を聞くことにします」。「頼むよ。君の評判は聞いている。事業再生における人員削減や無駄なコストの排除において、辣腕をふるうとね。期待しているよ」と山上は笑顔で返す。
そうなのだ。私の仕事は、単にPLやBSをイジって終わるようなことは無い。大胆に無駄を省き、利益を押し上げる。その無駄には人員も含まれる。他所よりも高いフィーをもらっている以上、綺麗事では済まされない。特にリストラについては、高い評価を得ている。私は、幹部全員に“まるで取り調べのようだ”とも称されるくらい、厳しく話を聞いた。
──1ヶ月後、山上は退任した。私が、社員たちに「自らが経営権を握る、EBOをしませんか?」と提案し、それを幹部が承認したからだ。
そう。私の仕事は、無駄な人員を省くこと。今回は、社長が一番の「無駄」だったのだ。
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