真のプロレタリア革命。

「労働者階級こそ、株式投資をすべきだ」と熱く語る若き投資家・相葉あいばの言葉に、新聞記者・藤堂人志とうどう ひとしの心は驚き、震えた。新聞記者といっても、一般紙ではなく、投資家専門の新聞を発行する小さな新聞社だ。ただ、小さいとは言っても、明治時代から続く老舗の新聞社ということもあり、兜町の記者クラブに属してはいる。


 仕事柄、藤堂は数多くの投資家に会って話を聞く。もう10年もやっていると、投資家にはいくつかのパターンがあることに気付くようになる。たとえば成金タイプ。丁半博打であっても1000名が参加すれば、500名が勝ち、その次の勝負も250名は勝つ。その後、絞っていっても1000人中「5連続で勝利」という人間が1名以上は出てくる。


 投資・投機におけるロジックも「じゃんけんの勝ち方」の域を出ておらず、こうして成金になったタイプは長い目で見ると、財産をキープできずに一気に落ちていくことがほとんどだ。一方で、一見するとお金持ちには到底見えないような質素な生活を主とし、お金を使わないタイプもいる。このタイプは、本物の財産家。投資ロジックもしっかりしており、リスクも取りつつ、着実に資産を増やしていく。


 藤堂が驚いたのは、10年以上の記者歴の中でも、相葉が初めて見るタイプの投資家だったからだ。目は気力に溢れているが、佇まいは落ち着いている。話す内容も「労働者は資本家に圧倒的に負けている。しかし、唯一勝てるのが投資だ。企業を運営している経営者よりも、株主のほうが立場は上。巨大企業ほど株式上場しているので、その会社の株を持っていれば、実質的にはその会社の経営者よりも勝てるポジションになる。もちろん、小さな株数では会社を動かすまでには至らないのが現実だが、株主になることで資本家たちに対し、ただ使われているだけではなく“使っているのだ”という感覚を持つことができることは大きい」と、相葉は力説する。


 投資家のほとんどが、資本家階級のため、労働者側の立場で発言するのを聞くことは珍しい。仮に聞くことができたとしても、安全圏から見た憐憫の情からの発言であることがほとんどだ。しかし、若き投資家は“私も労働者階級である”という当事者目線で、語っていたのだ。藤堂も会社員であり、給与も高くはない労働者階級である。2人は、意気投合した。


 ある日、藤堂はとある大企業の大きな不正を見つけた。それを文章にしたところ、記事になる前に圧力がかかり、上司に握り潰された。不正の内容は、人道に反することであり、藤堂は怒り狂ったが持って行く場もなく、相葉にぶちまけた。相葉はそれを聞いて一言「それは酷すぎる。何とかしていいか?」と問うた。藤堂はうなずく。


 醜聞に食いつくメディアは多い。また、インターネットやSNSも醜聞についての拡散力は格別に高まる。かくして、藤堂の名前が出ること無く、とある大企業の名声は地に落ちることとなったのだ。


 ──藤堂は、(相葉は大企業の空売りで巨額の利益を得たろうな)と感じ、ふと笑みを浮かべた。労働者階級であっても、資本家の圧力に屈するだけではなく、むしろ逆手にとれるのは投資だけなのだ、と。

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