シーン2 美少女忍者の秘術伝授「まっすぐ・おそく」

ちょくじゅうの型、『おう』!」

 まっすぐ、ゆっくりと踏み込んで両掌を正面に押し出す。

「何、これ?」

 ぶつくさ言う冬彦の前に立ちはだかった瑞希は、腰を落とす。

押し出された両手を、肘から先を横たえて受け止める。

「つべこべ言わずに押す!」

 そう言いながらまっすぐ伸ばした状態はは、冬彦がどれだけ力んでも動かない。

 同じ力で、小柄な瑞希が押し返しているのだ。

 肉体の貧弱さを妹に暴露されたからというわけではないが、兄の気力と体力は、やがて限界に来た。

 力で押し負け、足を滑らせて背中から転倒する。

 勢い余って、瑞希も前につんのめった。

 背の高い兄の体が、妹の小さな身体を受け止める。

 顔を間近に向け合って、二人はしばし沈黙した。

 瑞希は真っ赤になって跳ね起きる。

「何すんのよバカ!」

 ごめん、とのそのそ起き上がった冬彦は、端正な顔立ちに架かった斜めの黒縁メガネをまっすぐに直した。


 続いて。

ちょくけい……『かつ』!」

 まっすぐ、ゆっくり、一歩進んでは立ち止まり、また一歩進んでは立ち止まる。

「スケートみたいだね」

 瑞希はむすっとして答えない。そっぽを向いたまま、兄と歩調を合わせて滑るように退がる。 

 だが、リズムは同じでも歩幅は違う。

 狭い和室で冬彦はすぐに間合いを詰めてしまい、足をもつれさせた。

 両腕をわたわたと宙に泳がせる。

 倒れ込んでくる兄をかわすことなど瑞希には何でもない。

だが、逃げたりしなかったのは兄妹の情というものだろう。

 小さな身体で兄を抱き留めるべく腕を大きく広げる。

 だが、無理があった。

身長差がそのまま体重差となり、瑞希は畳の上に……。

「ごめん」

 冬彦が、身体の下の妹を見下ろしてつぶやく。

瑞希は押し倒されなかった。

兄が腕を突っ張るのを見越して、自分から受け身を取ったのである。

「どいてよ!」

 慌てて跳ね起きる兄を睨みつけながら、瑞希はなんとなく胸を抱えて寝返りを打った。

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