そして、動き出す。
夜が明けた。
メイドの朝は早い。
外はまだ夜の名残を残している。
アレシアは着替えを済ませ髪を整えると足早に部屋を出た。
向かった先は――、
「あらおはよう、アシュレイ。どうしたの、こんな朝早くに」
――火王の部屋。
騎士団の朝の訓練に向かうために丁度部屋を出てきた火王と鉢合わせする。
「突然申し訳ありません。その、火王様に一つお願いしたいことがございまして……」
日が昇り、爽やかさを感じさせる空気の朝。
雨は止み、空からは優しい光が降り注いでいる。
花々は生き生きとその美しさを放ち、木々の葉は瑞々しく輝いていた。
所々にできた水たまりには清々しい青空が写し出されている。――が、バシャッと音を立ててそれは壊された。
「ほんっと好きになれないわ、この天気」
そう言って、肩にかけた上着を靡かせながら城の中へと歩いていくのは、灰色の髪をした少年。
上着には、紅い蓮の花と剣を抱いた
苛立ちを顕にしながら城へと戻ってきた彼――アルフォンスは、騎士団の訓練場へと向かっていた。
(そんな嫌いか? この天気。珍しいやつだな)
話しかけてきた
「別にいいでしょ、嫌いでも。僕の勝手だ」
(まぁそうだが。――何か嫌いになるようなことでもあったのか)
「それ、君に教える必要ないよね」
(……随分機嫌が悪いことで)
「うるさい、黙ってて」
苛立ちを少しでも発散するかのように心話で話すことなく声にだして答えるアルフォンス。
もちろん、周りに誰もいないことは確認済みである。
「あー、訓練行きたくないなぁ。行かなくてもいいかな」
そんなことを呟いた丁度その時、
「そんなことはさせないぞ? アルフォンス」
聞き覚えのある声にアルフォンスはあからさまに嫌そうな顔をした。
「でーすよねー、言ってみただけですよ、――火王様」
そう言いながら声のしたほうに顔を向けると、そこにいたのは火王だけではなかった。
「それならいいんだがな」
そうアルフォンスに返す火王の傍らには騎士がいた。
その騎士が彼女――アレシアであるということに気づくのに数秒を要した。
アルフォンスの目線に気づいた火王が「あぁ、丁度いい」と呟き、彼女を紹介する。
「喜べ、アルフォンス。お前の隊に新入隊員だ。――――アシュレイ=レッドフォード。私の娘だ」
すると、彼女――
「へぇ……アシュレイ、ねぇ……」
火王が彼女をその名で紹介したことに、アルフォンスは僅かながらに驚く。そして自分の娘だと、はっきり言い切ったことも意外であった。
「私の娘ではあるが、特別部隊として動く際はアルフォンスの指示に従うように言ってある。王女だからといって遠慮する必要はない」
「ボクが遠慮なんかする人間だと思う?」
アルフォンスの言葉に火王は苦笑しながら「いいや、思わん」と答えた。
アルフォンスはアシュレイに目を向け、笑みを浮かべる。
「よろしく、アシュレイさん」
彼女もまた、意味ありげに微笑んだ――――。
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