帰ってきた、“家”に。
リヒトの
そのため、今いる、この見慣れない場所が火ノ国ではないことが幼いアシュレイにもわかった。
「ねぇ……、ここ、どこなの?」
アシュレイがリヒトに聞く。
「あー、ここは、“
リヒトの言葉にアシュレイは驚いた。
そのような場所があることを聞いたことがなかったからだ。
アシュレイは積もる疑問をリヒトに問いかけようとしたが、リヒトに遮られる。
「いろいろ聞きたいことはあるとは思うけど、それは家に帰ってからにして。この時間に俺たち子どもが街中を歩き回っていたら目立つ」
そう言うとリヒトは
もう夜も遅く、道行く人の数も少ないが、それでも“いない”という訳ではない。
リヒトは裏路地へと入り、人などいないに等しい入り組んだ道を歩く。
だが歩み進んでいくうちに、やがて行き止まりへと行きついた。
リヒトはそこの壁に片手をかざし、ピアノを弾くように指をトントンと壁にあてる。
それには順番があるらしく、親指、薬指、人差し指と五つの指をそれぞれ一回ずつ、バラバラに壁にあて、そして最後に複数の指を一緒にあてた。
すると壁にかざしているリヒトの手が壁の中に吸い込まれるようにして消えていく。
リヒトはそのまま歩を進めた。
アシュレイは戸惑いつつも、手を取られそのままリヒトに連れられるまま、壁の中に自分も入る。
するとそこには――。
「わぁ……」
――思わず感嘆の声が漏れた。
「……懐かしいだろ?」
リヒトの言葉にアシュレイは頷き、目の前の光景を見つめる。
そこには、“家”があった。
アシュレイの知る“家”そっくりのものだ。
僅かな違いはあれど、主な部分は前回リヒトたちと一緒に住んでいた家とほぼ同じである。
「どうして……?」
アシュレイはリヒトに問いかけた。
「あの家は俺たちにとっても思い出の詰まった所なんだ。正直あそこを離れるのは嫌だと思ったくらい。場所は変わっちまったが、できるだけ似せたかった。お前が帰ってくることも踏まえて、“家”は同じようにしたかったんだ。お前にとって、変わらずの“家”でありたかった」
アシュレイの目に涙が溢れる。
「その気持ちは家族全員一緒だったんだ。だから素材を集めて自分達なりに作って、細かいところは幻覚魔法でカバーしながら作った。……喜んでもらえたか?」
微笑みを浮かべながら言うリヒトにアシュレイは溢れる涙を拭いながら、「うん、うん……」と頷いた。
そして震える声で小さく「ありがとう」と伝える。
そんなアシュレイの背にリヒトは手を回し、家のドアの前までアシュレイを連れて行った。
ドアを開けた瞬間、温かい声がアレシアを出迎える。
「おかえり、アレシア」
「おかえりなさい、アレシアお姉ちゃん」
父、母、そして妹や弟たちが優しい微笑みを浮かべてそう言った。
その瞬間にアレシアの心に懐かしい感覚が蘇る。
また涙が溢れ出るのを感じながら、アレシアは彼らの言葉に応えた。
「――ただいま。今、帰ってきたよ」
アレシアの顔には久しぶりに、無邪気な子供らしい笑みが浮かんでいた――。
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