光の名を持つ者、その心に光を灯す

「よぉ――久しぶりだな、アレシア」


その声は、アシュレイがよく知る声。

彼女の知るものより僅かに低くなっているように思えたが、その声は変わらず頼もしく、そして優しい雰囲気を持っている。


アシュレイは割れた窓をじっと見つめた。

影になっていた姿は月明かりに照らされ露わになる。

それは彼女にとって懐かしく、それでいて大切な者の姿――。


「――リ、ヒト?」


「そうだ。四年ぶりだな。……久しぶりで、俺の顔忘れてないだろうな?」


微笑みを浮かべながら、リヒトはそう言った。


アシュレイは咄嗟にベッドから飛び降り、窓のほうに駆け寄る

そしてリヒトに問いかけた。


「どうして、ここに……?」


「は? 決まってんだろ。連れ戻しに来たんだよ」


「連れ戻しに? ……誰、を?」


「お前しかいねぇだろうが」


「…………」


アシュレイの頭にはいろんな感情と言葉が渦巻き、なかなか言葉を発することができない。

そんなアシュレイにリヒトは言う。


「今はとりあえず、早く逃げるぞ」


「え? でも――」


「いいから、早く」


アシュレイはリヒトの後ろに彼の相棒パートナーであろう黒いドラゴンがいることに気づく。

リヒトはアシュレイの方に手を伸ばした。


「ほら、掴まれ」


アシュレイはリヒトの手を見つめ、少しの間迷う。


この手を取ればまた“家族”に会える――が、自分のせいでまた彼らの身に危険が及ぶかもしれない。


「急げ、追手が来る――!!」


もしまた彼らが危なくなれば、今度こそはきっと火王は見逃さないだろう。


「…………」


考え込むアシュレイを見つめ、リヒトは溜息をつき、そして言った。


「俺がここにいる時点で、もう俺の存在は知られてる。それに、俺らに危険がないことのほうが有り得ないんだ。だったら、家族全員でいたほうがいいだろ?」


「家族、全員……?」


「そう。……もちろん、お前も入れて、な」


アシュレイの視界が歪み始める。

そんな彼女にリヒトは苦笑を浮かべた。


「おいおい、泣くなよ。泣くなら逃げ切ってからにしろ。逃げ切って、“家”に帰ったら、だ」


アシュレイは涙を拭った。

そして「うん」と、微笑みながら頷く。


――やがてドアの外から騎士の声が聞こえ始めた。

窓ガラスの割れた音と話し声に違和感を持ったのだろう。

それなりに部屋には防音が施されているが、ドアのすぐ横に待機している専属騎士には僅かながらに聞こえてしまう。


「ほら、早くしろ」


リヒトの言葉に、アシュレイは伸ばされた手を掴んだ――瞬間、彼女の体は引っ張られ、その体はリヒトによって抱きしめられた。


優しい温もりに、アシュレイは自分の胸がいっぱいになるのを感じる。


そして、リヒトはアシュレイを抱きながら、自らの相棒パートナーであるドラゴンの背に飛び乗った――。




――瞬間、部屋のドアが開かれ、騎士が部屋へと入る。


「アシュレイ様――!!」


だが時既に遅く、部屋はもぬけの殻となっていた。


割れた窓へと駆け寄ると、遠くにドラゴンの影を見つける。


騎士は舌打ちをするとすぐさま踵を返し部屋を出て行った。




――リヒトとアシュレイを乗せたドラゴンは空高く飛び、そして城を離れ、遠く離れた“家”へと向かっていた。


「ありがとう」


微笑んだアシュレイはリヒトに言う。


その言葉にリヒトはどこか寂しそうな、切なそうな笑みを浮かべた――。






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