城への帰還

城に戻ったアシュレイは自室に入れられ、火王直々の管理下でほぼ閉じ込められたも同然の状況にあった。

火王の魔法で、窓の外には透明の壁のようなものが張られ、そこから出ようものなら相当なダメージを体に受けそれと同時に体力を奪い、すぐさま火王に気付かれる仕組みになっている。

ドアの外には火王の魔法による壁が張られており、アシュレイの部屋へ出入りする者の管理も含めアシュレイの監視、さらには騎士が見張りをしており、アシュレイは自由に出入りすることを封じられた。


そんなアシュレイが部屋でやることといえば、勉強がほとんど。

教育係が部屋に訪れ、勉強を教えてもらい、それだけで半日は終わり、午後は教育係の元、その日やった内容の復習の時間にあてられる。

アシュレイの自由時間といえば、勉強の合間の十分ほどの休み時間と、寝る前の数時間だけ。

勉強で彼女を縛ることによって、監視するという意も含められていた。


アシュレイはそんな窮屈な生活を送っていたが、一言も弱音を吐く事はしない。

それは、その生活に助けられているからだ。

少しでも暇な時間ができてしまうと、すぐにあの家で過ごした日々を思い出してしまう。

そして思い出した後には必ず、胸が締め付けられるように痛んだ。

その度に、アシュレイはリヒトたちの無事を祈った。


それが一番の理由だ。

だがそれだけではない。


アシュレイは王女であると同時に唯一の跡継ぎだという、自分の地位を利用しようと考えた。

いずれ王の座につくことのできる、自分の立場。

彼女は王となったとき、国中に“闇”の正しい認識を広めようと心に決めていた。

そうすることで“家族”を守ろうとしたのだ。

王になるためには様々な知識を身に付け、同時に魔法も強くならなくてはならない。

教育係に魔法を学びたいことを伝え、城の書庫にある魔法書を借り、夜の自由時間に読みふけった。

そして実際にできるようになるために、教育係に休日は一日魔法の座学と実践練習に費やし、実践練習に関しては教育係の監視の下、城の庭で行った。


そんな生活を送っている中、アシュレイが唯一頑なに譲ろうとしないことがある。

それは、窓を常に開けていること。

どんなに寒くとも、どんなに怒られようとも、絶対に閉めようとはしなかった。


アシュレイは窓を開けていることで、自分がリヒトたちにかけた魔法の痕跡を少しでも感じ取ろうとしていたのだった。

まだ六歳の子供であろうとも、火王の娘。

“感じ取る”能力はずば抜けている。


時折遠くに感じるその痕跡は、アシュレイに安心を与えてくれた。


その度にアシュレイは、また彼らが幸せに暮らせていることを願い、ふっと笑みを浮かべるのだった。


夜、寝るその直前に窓から外を眺め、天気のいい日は星空を眺める。

そして必ず、“家族”の幸せを願い、そしてこの国の女王になる決意を強めた。




――そうして四年の月日が経ち。


アシュレイは十歳となり、その誕生日の日、彼女の存在は正式に発表されることとなる。


そしてもうすぐで“家族”に初めて出会い、“家”に住み始めた日。

その頃には既にアシュレイの存在は、国を超え世界中に知れ渡っていた。


アシュレイにもようやく専属騎士がつく。

そのこともあってか、アシュレイの監視も僅かに緩み、少しの自由が許されるようになった。


王女としての公務も増え、ようやくそれにも慣れてきた頃。

近づくもう一つの誕生日に、アシュレイは思いをはせる。

毎夜星空を見上げては、リヒトたち“家族”と過ごした特別な日々を思い出した。


どこか切なくなる気持ちに気付かないふりをしながら、彼らの幸せを願い微笑みを浮かべる。


その日もアシュレイは星空を、そして普段より一段と綺麗に輝いている月を見上げていた。

いつも通り、“家族”の幸せを願い、一国の王になる決意を改める。


もうそろそろ寝なければならない時間になり、窓から離れ、ベッドへと入った――その時。


「…………?」


ふと感じた、アシュレイ自身の魔法の痕跡。

それはとても大きく、それ故に近くだということがわかった。

魔法の痕跡を感じた、窓の方へと目を向ける。


「――――?」


彼女の口が小さく開かれ、ある名を紡いだ。

僅かな希望がアシュレイの心に光を灯す。。


すると次の瞬間――――。





――パリーン……





――アシュレイの声に応えるように窓ガラスが割れ、そこに一つの影が現れた。


そしてその影は言う。



「よぉ――久しぶりだな、アレシア」



その声は、ずっと聞きたかった、懐かしい、彼の声だった――。






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