少年、人という名の玩具を得る
「ねぇ、アディ。もちろん、秘密にしておいてくれるよね。ボク――アルフォンスが“闇の少年”であること」
アルフォンスとしての姿に戻った少年はそうアディに問いかけた。
「もちろんです」
「うん、よかった」
アルフォンスそう言うと、手の平を上にして彼女の目の前に差し出した。
「キミ、その目じゃいろいろ大変だから――」
アディは何のことだかわからないようで、首を傾げる。
「闇の仲間になったから目が黒くなってんの。そんなキミに、ボクからプレゼント」
「え?」
「魔法で偽装しても、見破られたら終わりだからね」
そうしてアルフォンスは魔法で彼女の元の色のコンタクトを作り出す。
「えっ、魔法、使えないはずじゃ……」
そう言われるものの、アルフォンスはあの読めない笑みを浮かべてごまかした。
「はい、コンタクト」
「あ、……ありがとう、ございます」
「つけ方、わかる?」
「……?」
「それを目に入れるんだ」
「っ?!」
ぎょっとするアディにアルフォンスは構わず、コンタクトの使い方を説明した。
終始たどたどしかったアディだったが、最後にはちゃんとつけられるようになり、涙を流しつつも喜びを露わにする。
「はい、できた記念。そのコンタクトのケース」
「ありがとうございます」
そして最後に、ケースを魔法で作り出しアディに渡す。
アディはそれを胸ポケットにしまうと、一礼して部屋から出ようとドアに向かった。
ふと、その足を止め振り返る。
「あの、朝食は安全ですので! 毒は入ってないのでご安心ください」
そう言って最後に「それでは失礼します」と再度一礼し、部屋を出て行った。
『おい。お前、何考えてんだ』
アディと名乗り闇の仲間となった彼女が部屋を出て行った直後、邪神竜が少年に問う。
少年もそれに心話で答えた。
『仲間は多いに越したことはないでしょ。それに、城の中に味方が二人三人はいたほうが、僕としても動きやすいし』
『ちげぇよ』
邪神竜はため息をつき、言う。
『お前、あいつにお前の“気”入れたろ。俺のものごと』
『あ。やっぱりバレてた?』
『当たり前だろ、馬鹿が』
そう、アルフォンス――つまり少年は、アディにコンタクトを渡すとき、彼女が自分の手に触れた、その一瞬。
その一瞬のとき、邪神竜の“気”諸共自分の“気”を彼女に吹き込んだ。
“気”というのは、謂わば自分の分身だ。
自分の意識や精神のこと、またはその一部のことを言う。
この“気”を自分から放し他人に吹き込むことができるのは、その人間の技術含め、魔法――つまり
それを見破ることができるのもまた然りである。
少年はアディにその“気”を吹き込んだのだ。
『何を企んでる』
訝しむように、邪神竜は少年に問う。
“気”を他人に吹き込むこと。
それは量によってその効果が異なる。
今回においていうならば、吹き込んだ側が少年。吹き込まれた側がアディだ。
深い所まで言ってしまえば、吹き込む側は自分だけでなく自身の
今回では、少年のみならず
そのさじ加減ができるのは少年のみ。
そのため
そのことを踏まえて、“気”吹き込むか否か、どれほどの量にするか、それを実際に行うのは人間となっているだ。
そうして吹き込んだ“気”が多ければ多いほど、吹き込まれた側――つまり、アディを操りやすくなる。
また吹き込んだ量が少なくとも、アディが何をしているかなどの監視、また少年とその
その能力の発揮もまた吹き込む量によって威力が変わるのだが。
『彼女に吹き込んだのはそこまで多くないよ。そんな多くやったら僕自身が保てなくなっちゃうし』
そう、多ければ多いほど、吹き込んだ側――今回ならば主に少年の負担が大きくなる。
意識が保てなくなるのだ。
自分を維持することのできる可能範囲を超えてしまえば、気を失ってしまう。
吹き込んだ“気”は自分で取り戻すことができる。
吹き込むときと同様、相手の体の一部に触れればいい。
そして自分の中に取り込めばいいのだ。
だが気を失ってしまえば、触られることはできても自分から取り込むことはできない。
そのため人に与えた自らの“気”を自身に戻すことはできない。
それはつまり――死を意味する。
“気”を吹き込むということは、魂を与えること同然なのだ。
『何を目的としてるのかを聞いてるんだ。お前は何がしたい』
少年は微笑む。
その笑みはいつものものではない。
どこか恐ろしく、恐怖を感じるもの。
『彼女の心は読みやすい。そこらの騎士でも簡単に読める。読まれないようにするための技術が低いんだ。これじゃあ火王にすぐバレちゃうでしょ? だーかーら、僕らの“気”を入れたの。そうすれば彼女の心が読まれる心配もないし、彼女が変な行動をとったらすぐわかるでしょ? それに僕の計画に邪魔になるような行動や裏切り行為を働けば――――、
すぐに――殺せるしね』
そう言った少年には、ただ“面白い”という感情しかなかった。
子供が
狂気に満ちたその笑みは正に悪魔そのもの――いや、死神そのものである。
『お前って本当、恐ろしいよ』
邪神竜はそう呟いた。
彼も彼で、そんな少年の恐ろしさを面白がっているのである。
――彼の目的は、未だにはっきりしない。
だがそこには強い復讐心を抱く少年への興味があり、それが初期よりもはるかに強くなっていることは確かだった。
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