また一人、堕ちていく――。
夜の闇の中。
雨が地面に広がる血を流し、まるで出来事さえ洗い流して隠してしまうかのように降っている。
今夜は月も雲に覆われ、月明かりさえ地上に降り注ぐことはない。
雨音がすべての音を掻き消しその音以外何も聞こえず、どこか寂しく空しい雰囲気が漂っていた。
――少年はある一つの家に来ていた。
家を窓から覗くと、一つとして灯りは灯されてはおらず、誰もいないことが見て伺える。
「あれ、……いない。――あぁ、そうか。まだあそこか……」
『……墓、だな』
「ああ。……行こう」
そうして少年は、そこから一瞬にして姿を消した。
次に彼が現れたのは、墓場だった。
墓場、死んだ騎士たちが運ばれた場所。
そこには一人、女が座り込んでいた。
まだつくられたばかりであろう墓の前に、一人座り込み、そして静かに涙を流している。
雨と共に涙は流れ、そして雨に濡れた彼女の姿はもう見ていられないほどにやつれていた。
その目にはもう光はない。
「――復讐、したら?」
少年の声に、その女がゆっくりとこちらを向く。
「だって、憎いでしょ? 愛する人を殺されて。自分も死にたいと思うくらい。……でもさ、どうせ死ぬなら、復讐してから死んだほうがいいと思うんだよね」
少年がそう言うと、女は言った。
「……貴方が、殺したのよね?」
少年の口に笑みが浮かぶ。
「うん、まぁ、そうだね――」
瞬間、彼女が動き出す――――。
「あーらら。そんなに急がないでよ。ボク、まだ最後まで言ってないんだけどー?」
そう言った少年は、ついさっきとは違う少し離れた場所にいた。
彼が今さっきいた所には女が剣を手にして立っている。
殺されそうになった寸でのところでかわしたのだ。
「貴方が殺した……」
「だーかーら。最後まで聞いてってば。ボクは確かにキミの大切な人を殺したよ。でもさ――」
少年が話している間にも彼女は一歩一歩少年に近づいている。
「――でも、そうさせたのは誰だと思う?」
女の動きが――止まった。
「――ボクもね、復讐をしてるんだよ。大切な人を殺された、その復讐」
「……貴方、も――?」
一歩、少年が止まった女に近づく。
「そう。ボクのね、大切な人を殺したのは、この世界の王たちなの。神々のせい。――キミの大切な人が死ぬことになったのは、ボクの復讐に巻き込まれたせいでしょ? 元はといえば、この王たちのせいなわけ」
「…………」
一歩、また一歩――――。
「復讐する先、間違えてるよね? ボクはキミと同じ痛みをもってるんだよ?」
「……私と、同じ――?」
そして、目の前に。
「――そう、キミと同じだ」
女が少年を見上げる。
「一緒に、復讐をしよう。キミも、ボクと一緒に。
――――世界を、滅ぼすんだ」
女の瞳が、黒く、闇の色に、染まった――――。
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