置手紙

少年はふと目を覚ます。


「…………」


今ここが“現実”であることを認識すると壁に寄りかかっていた上半身を起こした。


「夢、か……」


小さくそう呟く。


なんとなく頬が冷たい気がしてそっと触れてみると、指先が僅かに濡れた。


「……涙? ……泣いてたのか」


濡れた指先を見つめ、そして濡れた頬を拭く。


窓から差す光が月光となっていた。

月の傾きを見る限り、今は夜中。

大分長い間寝ていたことに気付いた少年は軽く溜め息をついた。


ふと月光に照らされたほうに目がいく。


そこには丸い、小さなテーブルがあった。

そしてその上には一枚の紙。


少年はそこに歩み寄り、その紙を見下ろす。


――森でソフィアが少年を転移魔法で飛ばした先がここだった。


その時少年が書いたのがこれだ。



「……“うそつき”、か」


そこにはまだ幼い字で“うそつき”と書かれていた。

その“き”の文字には涙のあとがあり、そこはインクが滲んでしまっている。


傍にはその文字を書いたときのペンがその時と変わらずおいてあった。


少年はそのペンをとり、そしてその紙に書き足す。




――――必ず帰って。それで、僕に声を聞かせて。――――



――――あんたの笑顔を見せてくれたら、許してあげる。――――




最期に“ノア”と書いて、ペンを置いた。



『お前、名前ノアって言うんだな』


突然、相棒パートナーの邪神竜に話しかけられると、少年は眉間に皺を寄せ溜め息をつく。


「そうだけど、ノアって呼ばないでよ」


『は? じゃあ何て呼べばいいんだよ』


「知らない」


『…………』





少年はその家を出ると、そこで手を空中にかざし魔力をこめる。

するとそこに、ここに入ってきたとき同様、一筋の線が現れそこから両側に裂けた。

その向こう側は森の中。

少年はそちらに足を踏み入れると、この街を後にした。




森に出ると、少年はすぐにフードを目深に被った。

そして魔法で仮面を出すと、それで目元を覆い隠す。


髪と目の色は魔法で偽装していたものの、顔を偽ることはできない。

顔だけならまだしも、髪と目の色を変えてさらにとなると魔力を大分消費することになる。

状態を維持するため魔力は継続的に減る。

それを踏まえると、復讐に魔力を多く使う少年には顔まで偽ることはできなかった。

顔が生きている者に知られてしまった今、絶対に誰にも見られてはならない。

そのため仮面で隠すしかないのだ。


仮面をつけた少年に邪神竜が問いかけた。


『また何かするつもりか?』


すると少年は不気味な笑みを浮かべ答える。



「まぁ、ちょっとね」




そうして、夜の闇の中に静かに消えて行った――――。






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