第20話

その日は、マサキの遅い入学祝いと良太の就職祈願という名目で、朝まで『CHASE』で騒いでいた。

マスターを強制的に起こして飲ませ、しまいには全員よくわからないまま乾杯を連続していた。しかしみんな笑顔だった。

4人で店にあった酒をあらかた飲み尽くしてやっと外に出たとき、セミの鳴く声が聞こえた。今年初めて聞く声。ジュンはぼんやりした頭で考えた。

―あ、夏なんだな・・・。


家に帰ると、テーブルの上にハンバーグがのった皿と伏せた茶碗が一人分置きっぱなしになっていた。昨日の夕飯の残りなのだろう。それを見てジュンは何だかくすぐったいような気持ちになって、くすんと笑った。

母は、まさか息子が徹夜でバカ騒ぎして、たった今家の門をくぐったとは夢にも思わずに幸福な寝息を立てているに違いない。

そういえば『CHASE』ではナッツと酒ばかり食らっていて、ろくに食べていなかったことをすっかり忘れていた。

ハンバーグを温めなおそうと皿に手を伸ばそうとして、皿の下にクリーム色の封筒が挟まっているのを見つけた。やたら原色使いの切手が数枚貼られている。その横で、左右どちらから読むともつかない文字の羅列が青いインクに滲んでいる。この手紙に自分の名前だけが漢字で書かれていることにジュンはかすかな違和感を覚えた。

よく見ると、文字の羅列の中に覚束ない筆記体で奥野の名前が小さく書かれていた。

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