第17話
「何びっくりした顔してんの、俺だよ。」
良太だった。
「そりゃあびっくりするよ、久しぶりに顔出しといてさぁ。まぁ、座りなよ。」
マサキがカウンターの椅子を叩いて笑顔を見せた。
「なんだぁ、二人ともいたのか。これから呼ぼうと思ってたからちょうど良かった。」
マサキが叩いた椅子に腰掛けると、良太は足を組んだ。
「お、またお前のワザ鑑賞会か?あれ興味ない俺みたいなのには退屈を通り越して苦痛でしかなかったぜ、実際。」
マサキが親指を一本たてて、けらけら笑う。
格闘技が好きな良太は、選手の誰かを真似ては覚えた技を他人の前でやって見せたがる。この前は、突然連絡してきたと思ったら『CHASE』に呼び出され、テレビの格闘技番組を前に、選手の技を実技も交えて延々と解説された。そのときは珍しくいつもの顔ぶれが揃っていると思っていたが、後で聞けば全員良太に呼び出された、と言った。マサキはそのことを言っているのだ。
「あぁ、あれは悪かったよ、ちょっと乗りすぎた。だって男で格闘技に興味ない奴なんていないだろうって思ってたんだよ、その時は本気で。後でジュンに散々文句言われてちょっと反省した・・・まぁ、俺個人としてはもう一回くらい開催したいって思ってんだけどさ。な、ジュン。」
「やめとけ、少なくとも俺は二度と相手しないからな。」
余った氷を冷蔵庫にしまいながら返事をして、ジュンは、その時はまだユキもここに来てたんだな、とちらりと考えた。
「ははっ、俺も絶対無視する。そしてたぶん、マスターもな。」
「あ、そうそう、マスターって言えば最近マスターどうなの?」
「あんな感じ。ちょっとやる気無くしちゃったみたいよ。」
マサキが奥のソファーを振り返った。
「え、まじで。俺マスターに背中押してもらおうと思ってたのにぃ。」
良太はカウンターに頭をつけて、落ち込んだようなポーズをした。
「実は今日みんなを呼ぼうと思ったのは、俺の決意が変わらないうちに話しとこうと思ったからなんだ。」
「決意ぃ?」
ジュンとマサキの声が揃った。良太はひとつ深呼吸をすると、
「俺さ、船乗りになることにした。」
と続けた。
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