第16話

たいていの大人ってさ、自分がガキの頃してきたことは棚に上げて、そのくせあれはやるな、これはだめだ、の連続じゃん?それでも、だめだ、ってことをしちゃうと、もうお前はダメ人間だ、って決め付ける。道をはずした奴にはもう道はない、みたいな感じで、切り捨てる。・・・そんな大人にはなりたくない、ってずっと思ってた。でも、どうしていいかわからないまま、歳だけどんどん取っていく、“嫌いなはずの大人”に近づいていく。その感じに耐えられなくて、わざと悪いことばっかり選んでやってた。高校やめてからはやらなくなったけど。

・・その職員に会って、俺は無性に大人になりたいと思った。そのときまで俺にとっての大人はみんな“嫌いな大人”だったけど、“嫌いじゃない大人”に初めて出会えたから、俺もそうなりたいって思ったんだ。それで、俺がいつか“嫌いじゃない大人”になって、昔の俺みたいな奴に出会ったとき、そいつが俺を見て同じように感じてくれたらいい、ってね。で、大人になるためにはどうしたらいいのか、俺なりに真剣に考えた。それで出した結論は、まず高校を卒業すること。・・・色々調べたんだけど、少年ナントカ課みたいな仕事に就くには、最低でも高卒の資格がないとダメらしくて。だから近くの定時制に通うことにしたんだ。ある程度金も貯まってきてたし、ちょうど9月から入れてくれるところがあったから。普通の高校と違って制服がないからさ、何着てったらいいかわからなくて・・・」

「それで、そんなスーツみたいな格好・・・」

「やっぱ変かな?学校でも隣の席のおばさんに笑われてさぁ」

氷だけになったグラスを片手で振りながら、マサキは顔をほころばせた。

「色んな年齢のひとがいるんだ?」

「そうそう、中学出たての高校生もいれば、80歳過ぎたじぃちゃんまでいる、って感じ。じぃちゃん俺らと一緒にバスケとかやるんだぜ?」

「へぇ・・・面白そうじゃん。」

「あぁ、面白い。・・・俺さぁ、この先の人生どうにもならないって思ってたけど、やっぱやってみないとわかんないじゃん?結果次第でいいこともあるかも知れないしさ・・・って、ずっと前マスターに言われてさ。マスターはえらいよなぁ、まじで。」

マサキは奥のソファーを振り返って言った。

「それがさぁ、諦めるみたいよ、マスター。」

「え、なんで?なんでよ。」

「さぁ・・・限界を感じるって話してたけど。」

ジュンの言葉が終わるか終わらないかのうちに、マサキはソファーに歩み寄ると、いびきをかいているマスターを見下ろしてつぶやいた。

「だめじゃん、マスター。踊り続けなきゃ・・・踊り続けようよ・・・」


部屋の外でかすかに誰かの足音が聞こえたような気がした。

「誰か来たんじゃない?」

ジュンとマサキが顔を見合わせたとき、ドアが開いた。

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