第15話

コウムイン、がジュンの頭の中で公務員、に変換されるのに二秒かかった。

「は・・・マサキが?」

「うん、俺が。・・・な、おかしいっしょ?笑ってもいいぜ。」

「いや、ってか、笑うことじゃないんじゃん、びっくりしたけど。」

ジュンは自分のグラスに軽く口をつけた。

「そりゃあびっくりしたけど。」

「そうかな、昔の友達に話したら、ふつうに冗談だ、って笑われたんだ。」

そう言うと、マサキはグラスに残った氷のかけらをマドラーで砕いた。

「まぁ、しょうがないんだけどね、昔の俺ってかなり悪かったし。頭も態度も両方。そんな俺がいまさら勉強なんて、自分が一番ビビってたりするから。」

「だけど、何で急に・・・?」

「急に、でもないんだよね、それがさ。あるきっかけがあって、去年の夏からバイトで金貯めてたんだ。また学校行こうと思って。」

ジュンよりも年下のはずのマサキの顔が、そのときはいくつも年上に見えた。


「・・・一年くらい前にさ、俺の昔の友達がクラブ行って捕まったんだ。そいつは俺より2つ下の高校生。一応歳ごまかして行ったらしいんだけど、酒飲んで暴れてたところをたまたま見張りに来てた顔見知りの教師に見つかって、逃げてるところを外でおまわりに不審がられたんだって。それで、結局ハコに一泊することになったんだけど・・・

ほら、警察から帰るときって、身柄引受人がいるじゃんか。特に未成年の場合には、ほぼ確実に、ハコに入ってる奴の身分を証明できる奴が必要なんだ。まぁ、普通は親が来ると思うんだけど、そいつ両親が離婚しちゃっててさ。それでどうも俺の連絡先を教えたらしい。俺は一応『CHASE』で働いてるってことで、身分ははっきりしてたから。

で、俺が行くことになったんだけど、その時に、おまわりじゃなくて少年ナントカ課っていうところの職員が出てきたんだ。俺てっきりそいつが「いい大人ぶって」説教でも始めるんじゃないかと思って、めちゃくちゃデカい態度をとってた。 実際俺も色々やらかして何度かそういうとこの職員に世話になったことあるけど、どいつもこいつも学校の教師みたいに偽善者ぶって、通り一遍の説教する奴ばっかりだったから。

そしたら、その職員はまず俺に向かって頭を下げてから、捕まった俺の友達に向かってこう言ったんだ。

「少しくらい道をはずしても、やり直すのに遅いことなんてない。誰だって間違えることはある。こうして君を心配してくれる人がいることを忘れなければ、君は決して悪者じゃないんだよ。」

・・・すげぇな、と思った。こういう大人って、すげぇなって。

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