第9話

-一番ムリしちゃってるのは、本当は俺だったんじゃないかな・・・。

ユキと話した日、切れたあとの電話の通話音を聞きながら、ジュンはそんなことを考えた。

自分はサークルに打ち込むユキのことさえも、どこかで見下していたのかもしれなかった。

無意識とはいえ、自分の恋人や友人も“ムリしちゃってる”連中に含めてしまっていたことに気づいてしまった以上、ジュンが出来ることは一つしかなかった。それは自分が“ムリしちゃってる”奴になることだ。


休み前の最後の課題を大学に提出した帰り、駅前でマサキに会った。

「よぉ、久しぶり・・・何よ、いい格好しちゃって。」

見た目こそ同じだが、しばらく見ない間にマサキは少し大人っぽくなったようだ。普段着ているのを見たことがないYシャツと黒ズボンのせいだろうか。

ジュンが声をかけると、マサキは苦笑いとも取れるような笑いを浮かべた。

「ま、たまにはこういうの着てみるのもいいかと思ってさぁ、昨日デパートで買ったんだ。」

「ふぅん・・・俺さ、今日から夏休みなんだ。今から久しぶりに『CHASE』に行こうと思ってたんだよな。」

「そうなの?ちょうど良かった。今マスターが一人で店にいるんだ。ジュンちゃんのことしばらく見かけてないって、心配してたよ。」

「じゃあ行ってみるよ、俺も久々にマスターに会いたいし。マサキは?」

「あぁ、俺・・・はちょっとこれから行くとこあるから。さっきまで店にいたんだけど、帰ってきたんだ。あとでまた寄るかも。」

「どこ行くのよ。」

「え、だから、ちょっとさ・・・合コンとかじゃないから安心してよ。じゃあ、急ぐから。」

ジュンの問いかけに言葉を濁し、マサキは自分から話を打ち切ると足早に駅へ行ってしまった。一人残されてしまったジュンは、見るともなしに駅前の大画面に目をやった。ちょうど臨時のニュースが入ったところらしい。油まみれの船が大きく映されている。しばらくして、画面は見覚えのある女性アナウンサーの顔に切り替わった。

それを確認してから、ジュンは『CHASE』に向かった。

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