第7話

「本当はさ、私の話のほかにも、自分のなかで考えてることとか、たくさんあるんでしょう?・・・言わないだけで。 たぶんジュンは優しいから、私が話したがってるならいくらでも付き合ってあげなきゃ、とか思ってるんだろうけど・・・ でも、それって何だかさみしいよ。私からの一方通行みたいで。」

「そんなこと・・・」

ないよ、と言いかけてから、ジュンはいつか『CHASE』でユキのことを話していたときに、マサキが 呟いた言葉を思い出した。

―さみしいんじゃないかな、と思って。

てっきりそれは自分の気持ちを言い当てようとした言葉だと思っていた。だが、あの時マサキはユキの自分に 対する気持ちを敏感に感じ取っていたのかもしれない。自分ではなく、ユキがさみしいと思ってるのではないか、と。

「そんなことない、って言うの?じゃあ今日急に私に電話くれたのはどうして?」

「それは、だから、ユキがどうしてるかなと思って・・・」

「だからぁ、それが嘘。」

早口で言い切ってから、ユキは泣き出しそうな声で言った。

「本当は知ってたくせに、知ってて電話かけてきたくせに、私が昼間言ったこと、全部嘘だったって。」

「・・・どういうこと。」

驚きが思わず声になった。

ユキの“ストーリー”を聞きながら、今日のことをどのように尋ねようかと考えていたところだった。 会話を始めてから、今日のことについてはまだ一言も口にしてはいなかったはずなのに、何故ユキはわかったのだろう。 踏切を通り過ぎたときのユキが、ホームの自分に気づいていたとは思えなかった。

「だって、わざとやったんだもん。わざと、ジュンに嘘がバレるように・・・ジュンの誘いを断ったあと、すぐ 友達に連絡取ったの、テスト前だけど遊びに行こう、って。わざといつもの喫茶店の前を通って、駅前の道に出て。 ジュンがホームにいたのも知ってたけど、気づかないふりしてた。喫茶店に行ったと思ってたけどね、最初は。 何でそんなことしたの、って聞く?・・・私ね、ジュンの気持ちが聞きたかったの。高校のときからずっと思ってたけど、 ジュンって自分のことはあんまり話さないくせに、他人の話はよく聞いてて、覚えてる。ジュンが聞き上手だから、つい 周りも自分の話ばっかりしちゃうのかもしれない、けど・・・。」

ユキは言葉を選ぶように話を止めた。

「けど・・・?」

ジュンはそっと先を促した。ユキの言いたいことは、今のジュンには全く想像がつかなかった。


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