第3話
奥野が退学になると聞いたのは、次の日の朝だった。良太が電話をかけてきた。
「ジュン?あのさぁ、奥野があさって退学になるって。」
「え、何で?」
「よくわかんないけど・・・今朝掲示板に貼り出されてた。とりあえず学校来いよ。」
学校へ行くと、良太が人だかりのできている掲示板をあごで示した。
「うちの大学5年ぶりだって、退学者。」
「へぇ・・・どうしちゃったのよ、あいつ。」
奥野とは語学のクラスが一緒である。遅刻を繰り返し、たまに休み時間にいても特に誰と話すわけでもなく、一番後ろの席で静かに授業を受けていた。
金髪で背が高く、細長い手足をしていて、いつも日焼けしたような黒い肌、といった目立つ風貌からだろうか、本来は一つ上の学年なのに出席日数が足りず、留年したのだとか、実は勉強がとても出来て、関西のほうの難しい国立大に合格したが、東京に出たいという理由だけでそれを蹴ったのだとか、奥野についての噂は絶えなかった。だが、他の連中ならともかく、奥野であれば全てもっともらしいものに聞こえるのが不思議だった。
「さぁね・・・今日授業あるだろ?来んのかな、奥野。」
「来ないんじゃねぇの。こんな形で有名になっちゃったらさ。」
ジュンは白い紙のなかの、威圧するかのように明朝体で拡大された奥野の名前を見つめた。
授業が早く終わったせいで、少し時間があいてしまった。次の授業がある教室の前まで来ると、早くも電気がついている。ジュンはいつも早く来ている奴らの顔を思い浮かべた。
「よぉ。」
予想に反して、そこにいたのは奥野ひとりだった。
「あ・・・来てたんだ。」
とっさに何と挨拶していいのか迷い、間の抜けた言葉を返してしまった。
「そりゃあ、授業だからな。」
奥野は小さく笑い、
「あさって退学だからって来ないわけにはいかねぇじゃん。」
と言った。
「あのさ・・・何したわけ?退学、なんてさ・・・。」
ジュンは奥野の隣にカバンを置いて座った。
「なに、って・・・殴っただけだよ。何とか、っていう、ここの教授してるおっさん。」
「え・・・どうして・・・。」
「やってることがむかついたから。」
奥野はこともなげに言うと、長い髪をかきあげた。
「って言うと、なんか俺がすごい悪い奴みたいだけどな。ま、学校の奴らはみんなそう思ってんだろうし、仕方ないか。」
「なんか、あったの・・・?」
「まぁね。お前が聞く気があるんなら本当のこと教えてやってもいいぜ?」
そこまで言われたら聞きたくなる。
「・・・俺でよければ聞くよ。」
「まじで?・・・誰もいないから話すけどさ。」そう前置きすると、奥野は話し始めた。
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