第2話
何もかもが真新しくて魅力的なものに感じた大学生活も、二ヶ月が過ぎれば慣れてしまう。夏が近づくにつれて自分で決めたはずの時間割が重荷に感じるようになってくると、必然的に大学よりも『CHASE』にいる時間が増えていった。
「そう言えばさぁ。」
カクテルを作る手を止めて、マサキが真顔になる。
「ユキ見たよ、駅前で。」
「え、いつ?」
「さっき飯買いに行ったとき。何人かの男とつるんでたけど・・・いいの?」
「何が?」
「放っといてさ。」
「さぁ・・・ユキが誰と遊んでるかってことに、あんまり俺がどうこう言う問題でもないんじゃないかな。大学でも、サークルだの委員会だのって色々やってるみたいだし。」
テーブルに頬杖をついて、ジュンは片手をひらひらと振ってみせた。
ユキと付き合って二年半が経とうとしているが、いわゆる「盲目的恋愛」という感じとは程遠い。高校の三年間同じクラスで、元々仲が良かったせいか、友達の延長のような関係が続いている。説明するのが面倒なので他人に言ったことはまだないが、自分たちから言わせれば、付き合ってる、というより、自然に一緒にいる、という表現のほうがぴったりだと思う。
「なんか去年はここにもよくユキ連れて来てたじゃん?だからちょっと気になったのよ。」
―さみしいんじゃないかな、と思って。
冷蔵庫から丸く切った氷を取り出しながら、マサキがこっそり呟くのが聞こえた。
「別に。時間が合わなくなったんだからしょうがねぇじゃん。」
そう言ってジュンは、カウンターの後ろに並べられたウィスキーのボトルに目をやった。
確かに今年になってから、ユキは極端に付き合いが悪くなった。何とかの集まりがあると言っては昼休みも出かけていき、遊びの約束はめったに守られなくなった。いくつもの約束が「ごめん」の一言で破られるのは、あまりいい気分ではなかったが、面倒なことには極力手を出さないジュンに対して、興味があることには積極的に手を出すユキの性格を考えれば、仕方ないという感じもしないではなかったのだ。
「ふぅん・・・ジュンちゃんがいいならいいけど。」
マサキが乳白色の液体をグラスに注いでいく。浅めのグラスの中にちいさな氷の島が出来た。
「昨日マスターも心配してたよ、『ジュンちゃんふられちゃったんじゃないの?それとなく聞いてよ。』って。」
「なんだそれ。『なんでもない』って言っといてよ。あともうひとつ。」
出来たばかりの氷の島を指でそっとつついて、ジュンはにやりと笑って言った。
「他人の心配してるヒマがあったら早く一流のダンサーになれ、って。」
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