第41話 告白

  2  告白


「……なるほど。つまり疑問は二つというわけね。なぜ依頼の時点であなたたちに話さなかったのか。なぜアトリに護衛を一人しかつけずに送り出したのか」


「せや」


 ルピニアがうなずいて席に着いた。


「まず一つ目の疑問。これはことの始まりから説明するほうがよさそうだけれど。……アトリ、もう言えるわね」


「はい。わたしが話さないといけないことですから」


 アトリはアルディラにうなずき返し、前を向いた。


「もう何ヶ月も前になります。わたしの一族の集落が、妖精狩りの集団に襲われました。わたしたちは散り散りになって逃げました。わたしも運よく集落の外へ逃げ出せましたが、襲われたときにあの妖精狩りの顔を見てしまいました。顔を見られた以上、あの男はどこまでも追ってくるでしょう。それにフェアリーが人里に現れたら噂が立って、簡単に追跡されてしまいます。羽があるかぎりずっと追われ続ける。隠れることもできない。そう思ったわたしは――」


 アトリは深く息を吸った。


「わたしは、自分で羽をちぎりました。一生エルフになりすまして、妖精狩りから逃げ続けるつもりだったんです」


「……」


 ルピニアは静かにうなずいた。


 それが最善の選択だったのかどうかは分からない。他にも手段はあったかもしれない。

 自分に分かることは一つだけだ。

 もしもアトリの決断を笑う者がいたならば、決して許さない。


 しんと静まり返った部屋の中で、アトリの澄んだ声が続く。


「……でも、本当は分かっていました。あの男はいつか必ずわたしに追いつく。そうなったとき、わたしに戦う力がなかったら、あの男は偶然通りかかっただけの誰かでさえ巻き添えにして殺すと。身体が弱く、羽も失くしたわたしが強くなるには魔術を学ぶしかありません。ですから魔術師を探しました。もし、あの男に追いつかれて巻き添えになってしまっても、自分の身を守ることができるくらいに強い魔術師を。そんなひとは英雄アルディラしか思いつきませんでした。わたしは噂を頼りにこの村にたどり着き、無理を言ってアルディラさんに弟子入りさせてもらいました」


「夜中にボロボロの女の子が訪ねて来たときは、さすがに驚いたものだけれどね。……先を続けて」


「……弟子入りを許されたわたしは、止まり木亭にかくまってもらって魔術を学びました。魔術師として最初の課程を終えたのはつい先日です。そうして、わたしと同じ初心者がダンジョンへ連れ出してくれるのを待っていました。そこへ現れたのがみなさんでした」


 アトリは隣のテーブルに並ぶ三人を順に見やった。


「年頃も人数もちょうどいいだろうと、バートラムさんが引き合わせてくれたときから、わたしはいつ自分がフェアリーだと打ち明けようか迷っていました。でも、いざとなったら羽を見せる勇気が出せませんでした。できることならずっとエルフでいたかったんです。危険な人間に追われていることを、あらかじめ言わなければいけないのに。ダンジョンに入る前から怯えて、きっとまだ追いつかれていないだろうと、都合のいいことを祈るしかできませんでした」


 アトリの視線が少しずつ下がっていく。三人はその様を静かに見守るしかなかった。


「……そうして一緒にいるうちに……偽物のエルフを受け入れてくれるひとたちと一緒にいるうちに、どんどん居心地が良くなってしまいました。本当のことを打ち明けたら、きっとこの場所を失ってしまう。それが怖くなったんです。そして、迷っているうちにガーゴイルと人狼ワーウルフが現れました。追いつかれてしまった、巻き込んでしまったと分かりました。もう打ち明けても手遅れだと。結局、わたしは最後まで勇気を出せなかったんです」


 いつしかアトリは手が白くなるほど固く拳を握っていた。


「アルディラさんは、わたしが自分で言えるまで黙っていてくれたんです。みなさんを騙したのはわたしです。説明しなければいけなかったのはわたしなんです。今さら……本当に今さら言っても遅いですけど。隠していてごめんなさい。騙してごめんなさい。あんな目に遭わせてごめんなさい。どうかアルディラさんを責めないでください」


 沈黙の中、アトリが深々と頭を下げる。

 その横にアルディラが立ち、彼女の頭を軽く撫でた。


「ちゃんと言えたわね。……まあそういうわけだけれど、弟子の不始末には違いないわ。納得がいかないなら、師であり依頼主であるあたしを恨みなさい」


「オレは別に怒ってない。悪いのは妖精狩りだろ」


 ジャスパーが首を振る。

 彼の隣でエルムも微笑んだ。


「ボクもいいよ。アトリちゃんは自分の口で言ったもの」


「……よう分かった。そりゃ説明できんわ」


 ルピニアはため息をついた。


「会うたばかりのよう知らん連中やしな。アルディラはんも勝手に秘密をばらせんやろし」


 ルピニアはちらりと横に目をやった。


 ジャスパーとエルム。たしかに信頼のおける仲間ではあるが――


「初対面の男どもに、いきなり背中見せとうないんもよう分かる。ためらうんは当然や」


「え……」


 顔を上げたアトリは、ジャスパーとエルムの顔に何度も視線を往復させた。


「……あの、男のひととか、そういう……その……」


 身をすくめ、しどろもどろにつぶやくアトリの顔は赤く染まっている。


「あー……」


 気まずい雰囲気の中、ルピニアは頬をかいた。


「羽だけで頭いっぱいやったんか。なんかすまん」

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