第23話 夜営
12 夜営
玄室は入り口から見て縦長の長方形だった。横幅が十メートル程度、奥行きはその倍近くある。
室内の壁や天井は焼き固められておらず、コケも生えていない。露出した岩に囲まれた空間は真の暗闇で満たされていた。
扉は頑丈な金属製で、閉めてしまえば室内はほぼ密閉された空間だ。難点は扉に鍵がないことだったが、エドワードは壁に釘を打ちつけ、ロープを留めて即席のかんぬきとした。よほどの力で押し開けられない限りは安全と言えた。
部屋の中央付近で火を焚き、一行は簡素な食事を摂った。消耗しきったアトリと、意気消沈したエルムはほとんど口を利かなかった。残る三人は時おり口を開いたが、息苦しい沈黙を吹き払うことはできなかった。
「見張りは扉の前で三時間ずつだ。最初は俺がやる。アトリとエルミィは最後だ。時間になったら起こしてやるから、ジャス公とルピニアも横になっておけ」
「時間はどうやって測ればいい?」
「砂時計がある。一回落ちきれば三十分だ」
エドワードは自分の食器を片づけ、ランタンに火を点した。
「ジャス公、ルピニア。ランタンに火を移して焚き火を始末しとけ。この部屋は換気がよくねえ。焚き火のままだと煙が溜まる。アトリとエルミィはさっさと毛布かぶって寝ろ。今はそれがお前さんたちの仕事だ」
「……はい」
「……うん」
二人が荷物を引きずるように壁際へ移動するのを見送ると、エドワードもランタンを手に腰を上げた。右手の歯形はすでにない。野営の準備時にエルムが治療術を使い、エドワードとジャスパーの傷を癒していた。ひどく申し訳なさそうに治療を行うエルムに、エドワードはかける言葉を探しあぐねたものだ。
「真面目も繊細も度を越すと考えもんだ。冒険者なんてのはお前らくらいがちょうどいい」
「なんか引っかかる言い方やな」
「あんまり褒められてる気がしないぞ」
ルピニアとジャスパーが揃って口を尖らせる。
「事実だ。褒めてもけなしてもいねえよ」
エドワードが扉に向かって歩き出す。
ふと、その足が止まった。
「それとジャス公。ひとつ言っとくことがある。
「……なんだ、センパイ」
「さんざん無茶しやがったが、あれはあれでいい判断だ。よくやった。……それだけだ。火は丁寧に始末しろ」
エドワードがひらひらと手を振りながら歩み去る。ジャスパーはぽかんと口を空け、その背中を眺めていた。
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