第5回 正三角形の壊れる守備

 静岡にいる間にこれを書ききる事が出来なかった行きあたりばったり加減はなんとも言えないが、それだけ書き尽くせずにいるようなものだったりする。プロ野球にはプロの輝きがあるように、日米野球には日米野球の鈍色じみた輝きがあるわけだ。

 練習の時点で雰囲気が違う、とは前回書いたのだが、それが試合になってくると更に顕著に表れてきた。特に面白いのは守備で、これは普段からの練習が言っているのだろうが、とにかくアメリカはとれる形ならなんでも使っていく。バックハンドからなにから。正面である必要なし。グローブに入りさえすれば後は肩の力でボールを投げ返すのだ。一方で日本人はあくまで正面から綺麗な形のままボールを放る。乱さないように綺麗に。綺麗に。そういう印象だった。

 それゆえに日本側のエラーが多かったのは中々に印象的だった。打球の速さの違いがあるとはいえ、あそこまで気持ちよくエラーを出してしまうものなのだろうか。この辺りは日本野球がよく教える「ボールは正面で三角形を作って取りなさい」が悪い形として出た結果のような気がしないでもない。

 グローブを一つの片として膝で三角形を作るのが内野守備の基本、というのは野球をしたことある者ならだれでも聞いた事があるだろう。この状態からだとグローブから手にボールを持っていく事が容易で、なおかつダイヤモンドに背を向けずにボールを投げられるため、非常に効率のよい捕球方法となる。これは間違いない。

 しかし、どこにボールが飛んでいくのか分からないのが野球の魅力である。いつも正面三角形の形で取る事が出来るならそれに越したことはないが、そうならないのが事実である。三角形を崩して思い切り手を伸ばしたからこそ拾える球だってあるわけだ。そこから一つの進塁を抑えることだってできるのだ。

 勿論問題だってある。この取り方は非常に強い身体を作っておく必要がある。特に上半身の強くない日本人がメジャーの守備を真似したところで、進塁を減らすことが関の山ではあろう。そこは否定が出来ない。

 だからと言って未だに吉田義男が半世紀前に言った事を盲信する必要もないだろう。グローブが変わり野球少年の体つきが変わり、というような時代背景を踏まえると、それを発展させていくのは別にプロアマ問う必要はあるまい。

 だからこそ、そろそろ日本型守備とメジャー型守備の折衷点を見つけながら新しい新日本型守備を求める段階に来ているのではないか。そう思えるのだ。

 型にこだわりすぎるあまり、本質を見失うというのは非常にやっかいなものである。型はあくまで型なのだから、参考程度に考えておく方がいいだろう。むしろ新しい型のために昔の型をさらうという形に切り替えていかないと、とてもじゃないが守備の進化などありえないだろう。

 守備の考え方などは元ヤクルト宮本慎也や元ピッツバーグ桑田真澄が新しい考え方を提唱しているのだから、どんどんとそれを波及させていき、各々が実践することで見えてくる穴を埋めていくべきなのである。そうすることによって新しい守備が生まれてくるであろう。特に肩の強くない日本人だからこそ、新たな守備の知恵が出てきてもおかしくない。

 守備一つでも日本の野球は進化の可能性を持っている。その可能性はアメリカだけが持ちうるものではないのだ。

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