メルレル!メルレル!
ダウナーな気分のふりして家を出たはずの僕なのにその十数分後には本当の本当にダウナーな気分になっちゃってて、すっかりどこにも気持ちの持っていき場が無いなあってもやもや鬱々するんだけど、いいやとりあえず学校行かなきゃでしょ!って気持ちと一緒にiPodの選曲を変えて、さっきよりも少しポップなロケンロールをBGMにしつつ、あの天使な女の子と、きっとおそらくメイビーマンボウとが通う平等高校に向かうことにした。メイビーマンボウってなんだよ、ウケるわ。
まあ、どれだけBGMがポップになろうと、あの天使な女の子のゲロを見るような視線は忘れられないんだけど、でも、それはもう済んだことだからしょうがないわけで、だってイジメを止められなかったチキンでターキーで七面鳥な僕が悪いのは明白だし、焼き鳥にされなかっただけありがたいと思わなきゃいけないんだありがてえありがてえ。
ともかく、僕はこの経験を次に活かして、次、あのマンボウが恐れ多くも天使のこといじめてたら、今度こそ目撃した瞬間に二秒で駆けつけてマンボウのことを殴ってそこで汚名を挽回する!って、あれ、汚名って挽回するんだっけ、返上するんだっけ?まあいいや、間違ってたら挽回したすぐあと二秒で返上すりゃいいし。
だいたい、イジメとか最悪だから。
イジメ、ダメ、ゼッタイ!
「この平等高校には、いじめる人間と、いじめられる人間しか存在しません。死者が出てしまうようなイジメを除き、すべてのイジメを容認しています。新入生の皆さんは、今この場で、手元にある紙の『いじめる側』か『いじめられる側』、どちらに属するかを選択して丸で囲んでください」
なんだそれ。
って思ったのは僕だけみたいで、周りのみんなはスラスラサラサラ丸つけ終わってるんだけど、どー考えてもおかしいだろこれーマジでーちょーマジかよー意味わかんないよーてかイジメを容認する学校ってなんだよ聞いたことねえよーって思考放棄して愚痴愚痴だらだら文句言ってみても状況は何一つ変わらないから、さっさと気持ち切り替えて考えて自分にできる最善の行動をしなさいってのはマイマザーゆえにママンつまりお母さんの教育方針で、それを息子である僕が守れているかは疑問だけど、っていうか朝さっそく守れなかったけど、とりあえず気持ち切り替えて、現状を整理しないと。
学校到着後すぐに体育館に集められた期待と不安で胸が張り裂けて爆死しそうな新入生の僕たちに与えられたのはシンプルな紙と、壇上の生徒指導の担当を名乗る先生からの衝撃的な言葉のみ。んで、ここで生徒指導の先生が出てくるあたりこの学校に正義が存在しないのは明らか。ひー、悪のすくつー。
だけど、何よりも僕を驚かしてるのは、周りの同級生がこのことをまるっと受け入れていること。
もしかしてドッキリ説も考えたけど、イケメン芸人でもイケメン俳優でもイケメン声優でもイケメンAV男優でもない僕が謎ドッキリを仕掛けられる理由がないし、そもそもお前イケメンですらないじゃん、ってやかましーわ。
だから、思いつくなかで一番現実的な説としては、突然イジメが正当化されているパラレルワールドに飛ばされた説なんだけど、どうせならそんなとこじゃなくて剣と魔法とファンタジーと夢と希望とおっぱいとお尻のハーレムエロスチョメチョメにあふれたパラレルワールドがよかったよマジで。
まあそんなパラレルワールド飛ばされた瞬間失禁&脱糞&嘔吐のトリプルコンボで何のフラグも立てられずゲームオーバーだから逆に助かったともいえるよねー。
とか考えてるもとい考えてるフリして現実逃避してるだけってのは理解できる。
要するにこれはやっぱり紛れも無い現実で、夢なら覚めて欲しいし嘘だと言って欲しいんだけど、手の甲をつねったらしっかり痛いし誰も嘘だよって言ってくれないってことはリアルにマジで現実だし、周りの同級生たちはこの高校が核の炎に包まれてもいないのに世紀末キメてることを知りつつ入学すれば自分が誰かをいじめるか誰かからいじめられるってことも前もって知りつつ入学してるわけで、それはとてつもなくクレイジー。だけど今や僕も同じようにクレイジーに誰かをミンチになるまでいじめるか、誰かにいじめられてミンチになるかを選ばないといけないクレイジーボーイの一人ってわけ。
暴力を振るうか暴力を振るわれるか誰かを追い詰めるか誰かに追い詰められるかどうするどうするどっちだそっちかあっちかマジか?って選べねー。選べるわけねー。最善の選択なんかねーよマジ助けてママー。
頭を抱えたくなって、実際抱えたらどこかのユーチューバーが得意げにドッキリ大成功の札持って現れないかなそしたら思い切り殴るのにってまた現実逃避しかけたけど、ちょうどその時ジャストナウで生活指導のメガネかけたインテリ風の先生が「まだ選択を終えていない生徒は早く選択してください」ってアナウンスして、時間はそう残されていないことを悟った僕は頭をフル回転させてぐるぐるぐるぐる考えた。
イジメはもちろんゼッタイ駄目ゼッタイだしいじめられるのもやっぱりゼッタイ嫌ゼッタイなんだけど、そんなのはもう考え尽くしてるんだからそんな角度からじゃ最善の答えは得られないってのも分かってるし、うーんでもどうしよう、どうするどうする自分がどうしたいのか考えろ考えろ考えろ考えろえろえろエロエロエロエロエロエロい!
って馬鹿か思春期か面白くもなんともねえ死ね!ゲロ吐いて死ね!
あ。
そういえば。
今朝見た天使のゲロはとても綺麗でいっそ性的で、僕はとてもとても興奮してもうそのゲロ吐瀉様を舐めたいとすら思ったことを思い出して思わず僕は閃いた。
あの天使はひゃくぱーこの平等高校の学生だし、きゅうじゅうきゅうぱー『いじめられる側』の生徒。
ってことは天使に近づく機会を得るには『どっち側』につけばいいかは汚名を挽回しちゃうような馬鹿でも分かる。
ボールペンを手にして、僕は一度深呼吸した。
こんなにたくさん人がいるのに体育館が静かに感じる。こういう時はBGMが欲しい。
イヤホンをはめて、周りへの音漏れも気にせず、一番大好きなバンドの一番激しい曲を選んで、音量を耳を塞ぎたくなるくらいに上げた。
隣の女がこっちを見たけどどうでもいい。
前に座る坊主頭の男が振り向いて顔をしかめたけどうるせえ黙って前向いてろ。
イントロのギターリフを聞きながら僕は思う。
これは決意表明だ。
僕は必ず彼女を守る。
名前を書いて丸をつけた僕の紙は女の先生に回収され、すぐに他のみんなと同じように学生証を渡された。
なんか下唇を噛んだみたいな写真の写りがイマイチでちょっと凹みつつ、何気なく裏面を見ると、そこにはカタカナで「メル」って書かれていて、一瞬なんだそりゃって思ったけどすぐにピンチクピンときたね。
なるほどそーゆーこと。ダサ。ダサダサじゃん。もっとストレートに書けよ。保身かよ。ダサいよ、平等高校。
まあ僕は彼女だけ守れればあとは何でもいいんだけどさ。
他の誰かに殴られてゲロ吐くくらいなら、僕が怯える彼女の頬を優しく叩いて感動でむせび泣かせて咳き込ませてゲロ吐かせてやる。
んでゲロ舐めていきなりでごめんね付き合って下さいって告白して君に届けてめでたく彼氏彼女になって好きって言ってもらって最終的にセックスする。
あとマンボウ泣かす。
意味もなく興奮して鼻息が荒くなってきた僕だけど、相変わらずイヤホンからは大好きなバンドが激しくギャンギャン愛について歌っているのが聞こえていた。
平等高校 1年3組
茅ヶ崎実
いじメル側
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