第12話 『神経衰弱』
のんびり進行で、「神経衰弱」語らせていただこうと思います。
ゲシュタルト崩壊な気もするけど……
どんな話かって?
心霊写真で神経衰弱した話
ですよ。
さすがに、こういった時にプロットなんで組みませんが(笑)本来私はプロット中毒でして……いや、話がしょっぱなからズレていくな。
気を取り直して。
なんとも無礼?いや、不敬?あ、いや、罰当たり?なことですが……うちの研究室には心霊写真がダンボールに詰められておりました。
フィルム写真が最も多かったのですが、デジカメの場合はプリントアウトやらメディアそのものやら、はてはカメラごとなど。厄介払いをされたらしい品々です。
まあ、開けちゃいけない箱を預かったりもするところでしたので、学生も色々と慣れっこです。
その日は春休みで、「新入生が来たらドン引きされるから、色々片付けて」と言われ、ジャージ姿に雑巾装備で登校した日でした。
スチールの棚には上から、激ヤバ、ヤバ目、わからん、と言う3つの箱があり、激ヤバ箱はガムテープで封がしてありました。
試しに振ってみると、あまり重量も感じませんし、中身が入ってる感じもしません。多分数枚か、数品入っているだけなのでしょう。
ヤバ箱は封もされておらず、手紙と写真がいくつか束になって入っていました。わからん箱にも写真や手紙、記事の切り抜きが入っていましたがこちらは無造作に放り込んである感じです。
私たちは近くのディスカウントショップで大量に安いアルバムを買ってきて、わからん箱とヤバ箱の写真を分類するように言われていたのです。そして、院生だった先輩からは
「やばくなったら部屋を出ろよ」
という、これ以上ないほどの笑顔のエールもいただいておりました。
20才そこそこの我々は笑って過ごし、くだんの箱をひっくり返し始めたのです。
心霊写真がどんな風に分類されるか、そんな事を知るわけはありません。もし幽霊が存在していたとして私が特殊スキル持ちであれば、
「地縛霊、地縛霊、あ、これ守護霊、地縛霊、あ、これは悪霊」みたいな分類もできるのかもしれませんが、なにせ私にはそんな能力はなく、友人たちも同様でした。
仕方なく、客観的な特徴で分類することにしたのです。
顔が写ってる、手足が写ってる、角度がおかしい、欠損系、歪み系、もや赤、もや黒、もや白、発光体線、発光体丸、その他。というような感じです。
最初は真面目にやっていたのですが、なかなか分量が多い。
私たちは途中で
「同じ系統を開けたらそいつのポイント」
というルールを決めて、裏返した写真でゲームをし始めました。
ジャンル合わせの神経衰弱です。
「あ、赤いモヤ……どっかで見たぞ。なんか小さい写真だったぞ……こ、これだ!!」
「残念、歪み系でしたー」
「くそ、どっかにあったんだよ、そのサイズで!!」
そんな下らないやり取りをしながら数時間、私たちの目の前には数枚の写真が残っておりました。
その他の子達です。その他はその他なりに共通項を見いだして組み合わせてきたのですが、どうにもならない写真が何枚かあったのです。
それをその他の項目の最後に組み入れることにして、私たちは作業を終えました。
暫く他の場所の掃除なり何なりをし、そろそろ夜と昼との境目を迎えようと言う薄暮の頃、あの先輩が戻ってきたのです。
彼は満足げに部屋を見回し、私たちの力作をみて満足しているようでした。
しかし、
「あれ? この写真」
私たちは知っておりました。彼が度の過ぎたお茶目さんである事を。
絶対何か仕掛けてくる。
そんな予想をしながら、大分心を強く持って次の言葉を待ちました。
「この写真。分類間違えてない?」
継がれた言葉は拍子抜けするもので、私たちは口々にそんな事は無いと言いながら、彼の手にあるファイルを覗き込んだのです。
その他の項目。
そこには最後に放り込んだ数枚の写真がありました。
一つはモヤが写ってはいるものの、それがまるで仮面のようで、何かフィルムが重なって感光したのかなと思うもの。
一つはキャンプ場で写った子供達の上に、蚊帳の用なものがかぶさるように光の膜ができているもの。
一つは写真の下半分が消えているものでした。
その三つを上から順に並べて1ページとしていたのですが、先輩が言うのを聞いてみてみると、二枚目の写真の上部にも、不思議なモヤができているのです。
白っぽいけれど、どことなく緑というか黒というか、そんな凝りのあるモヤです。
「真ん中の写真はは、モヤ分類じゃないの?膜は多分レンズになんか反射したんだろ」
首を傾げながら、ファイリングを直そうとしていたのですが、あいにくその日はこれ以上の作業ができず、モヤページに差し込むとなると、それ以後のページも調整する必要があったので、私たちはその作業を明日に持ち越して、この日は帰宅しました。
翌日、私たちは昨日と似たり寄ったりの出で立ちで研究室に向かいました。
ファイリングは後にして本を片付けてと言われたので、昼の間は本を片付け、日が落ちてからファイリングを直し始めたのです。
「……夏目。お前、これ、移動した?」
震える声でK山がそういいます。
「移動?何もしてないけど?」
K山はそれっきり無言で、私にファイルを開いてみせました。
そのとき残っていたのはK山、U杉、夏目の三人です。覗き込んだ私の腕の中に、突然U杉が飛び込んできたので、思わずそちらに意識が行ってしまって、私はあまり詳細にファイルをみる事ができなかったのですが、なんだかフワフワ女子のU杉が、顔を強ばらせています。
「どした?」
「夏目、これ……」
彼女が指差すままに視線を動かすと、ファイルの二枚目キャンプの写真。
「これがどうしたの?」
キャンプの写真は上の部分にうっすらとモヤがかかり、そのモヤは記憶よりもやや大きくなっている気がしました。
「……なんか、印象が違うような」
私はファイルを受け取ってじっくりと眺めてみました。
「そうじゃない。そうじゃないよ。上の写真と一緒にみてみて」
「上の、写真?」
上の写真は白い仮面が映り込んでしまっただけのミスショットです。
私は何を言ってるのかと思いながらも、言われた通りに両方の写真をみてみました。
「あ、なるほどー」
「なるほどじゃねえっしょ」
K山に盛大に頭をはたかれます。
上の写真に写っていた仮面と、まるで下の写真のモヤは一つの物体をなすように連続性がありました。
何の形かは私にはわかりませんが、敏感なK山君曰く、手の指を揃えた手のひらに見えるというのです。
今まで仮面だと思っていたのは指の又の部分が目鼻に見えただけで、今はもう手のひらにしか見えないと。
正直何度みてみても、手のひらには見えません。
私は二枚の写真を取り出して、ぴったりとくっつけてみようと思いました。
すると、私たちの行動をみていた教授が
「夏目君。それは、また今度ね」
そういって、私たちの作業を止めました。
今度ね、の単語が作業自体を持ち越すという意味だったのか、写真をくっつけるなという意味だったのか、私たちは促されるまま写真をその場において帰路につきました。
翌日、研究室に行ったところ、あの写真は二枚ともファイルから抜かれており、一番下の写真が一番上に移動しておりました。
教授に聞いたところ
「アレは、要らないから返したよ」
ということです。この台詞は心霊写真でも何でも無い感光とか、そういうもののときに良く聞く台詞です。
本当に返したのか、本当に要らないものだったのか、少しばかり不思議です。
いま思えば、一番上の封がされた箱。あの中に移動されたのではないかななんていう想像が捗ります。
先生は既に退職され、資料のほとんどは後進の教授達と縁のあるお寺、そしてご自宅に分散されたそうです。写真は一体何処にあるのか。
私たちもわかりません。
ちなみに神経衰弱をやっていた際。恐怖は一切感じませんでした。
最初こそ何だこれと、皆で顔を強ばらせていたのですが。何せ数百枚の写真。だんだんとテンションもおかしくなるし、写ってる影を差して「雛○に似てない?」なんていう会話をしていたくらい。
心霊写真が存在するかはわかりません。
存在したとして、どうするのが正解かもわかりません。
ただ、持っている方が何か嫌な気分になるのであれば、持っている方がすっきりする方法で処理をするのがよいでしょう。
決して神経衰弱をお勧めしているわけではありません。
了
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