第8話 『母の話 手への供物』
短いので、サクッとね。
私がまだ小学校に入るか入らないかの頃の話です。
わたしは一人っ子です。
父はどちらかというとスポーツ派、母もどちらかというとスポーツ派、なぜか私だけ本好きという家庭でした。
スポーツ好きなので血は引いてますが。
そんな我が家ですが、ある時海に行きました。
夏休みだったので、多分両親の休みが取れるお盆の頃だと思います。
泊まった宿は、部屋から直接岩場に出れる、釣り人垂涎の宿でした。
釣りも好きな父は、この日も夜になると部屋の大きな窓から岩場に繰り出しました。
部屋に残ったのは、もう瞼か閉じかけた夏目と、ハーレクイン好きの母だけ。
和室には岩場を上に、部屋の入り口を下に見た時に、漢字の『三』を描くような形で、三つ布団が敷かれておりました。
三人家族でチビがおりますので、必然私は真ん中に寝ることになります。
窓に近い方を、真夜中に帰ってくるだろう父のために空けて、母が一番下の壁際に横たわりました。
何時になったかはわからなかったそうです。
ですが、明かりをつけた部屋の中、それは母の足元から這い上がってきたのだと、未だにそう言います。
男の手
だったそうです。
最初は父が帰ってきて、何か着替えでも漁っているのかと思ったと、そんな感じで背後でゴソゴソと気配がするのだと、そう思っていたそうです。
でも。
母が寝ていたのは、底辺部分。
その背後には、壁しかありません。
不意に恐ろしくなり、母の意識は眠気から遠ざかったのだそう。
薄目て確認すると、確かに男の手が、壁と自分というありえない隙間に手だけがヌルリと出てきていたと。
父は未だ帰ってきていません。
母は意を決して、カバっと起き上がり、目の前にいた私の手を取り……
ポジションを入れ替えました。
夏目は底辺へイン!で、ございます。
大人になってからこの話を聞いた私の心境をお察しください……。
もちろん、私は朝までぐっすりだったのですがね。
という、母はある意味強し、な思い出の一コマ。
了
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