第2話 『山道をぐるぐると巡った話』

お休みだしね。もう一つ落としておきます。暇つぶしにどうぞ。

微ホラーなので注意。



大学の三年の冬頃のことです。

私は幼なじみと高校時代の友人とを連れて一緒に某所へと遊びに来ておりました。

免許取り立ての友人の車に乗り、私は後部座席で雑誌を読んでいたのです。

ほぼ初対面の二人を運転席と助手席に押し込め、私は昼食場所の選定に注力しておりました。



すると、



「ナビが狂った」



そんな声が聞こえてきます。



見れば、ナビのカーソルがあられもない方向へ進み、山を突き抜けそろそろ海へ出そうです。


ご存知かもしれませんが、カーナビは新しい道のデータが無いと、混乱してしまう事があります。

特に当時はアップデートが激しく、こういう事は良くある事でした。


「とりあえず桐生のほうへ行けばいいよ」


こういうときの夏目は信じてはいけません。ものすごくおおざっぱな方向感覚でそう言っただけで、詳しい道を知っている訳ではありません。


それでもカーナビはぐんぐんと海を渡り、私たちはぐんぐんと山を登ります。


大分前から狂ってたんでしょうね。なびくんはどこへ行くのやら。

昼でも人気の無い山道は少々心細いもの。私たちはブリトラを熱唱しながらいや、ホルモンだったかもしれませんが、なにがしかを熱唱しながら山道を進んでおりました。


すると、突然ナビが夜間モードになったのです。

画面がちょっと黒くなるアレです。


ライトでもつけたのかと、運転席を見ると運転中のJも首を傾げています。

仕方なく一度待避所に車を止めて、エンジンをかけ直す事にしました。

ナビも再起動させてカーソルを呼び戻し、私たちはちょっとした休憩を取る事にしたのです。

待避所は車二台分くらいのスペースで、傷だらけのガードレールが枯れ草を押しのけているような状況でした。


ちらちらと雪が降り出し、このまま時間が取られれば自称都会派で、各種経験値の浅い私たちは立ち往生してしまいます。

すぐに車に乗り込んで一路市内を目指す事にしました。


数分たった頃でしょうか。外の雪もだんだんと強さを増し、どうにも温度が下がっているような。

そんな気がしました。



「ねえ、ちょっとエアコンの温度あげてくれない?」


私はそう言って、かじかんだ自分の指を擦り合わせました。


「え? 寒い? 結構エアコン効かせてるんだけど」


そういうJに、助手席のHも頷きます。


「風邪引くんじゃない?」


私はぶーたれたまま後部座席で二人の上着をかき集めて寒さに震えておりました。風邪引くのかな。


山道に慣れない私たちは、適宜、道を譲っての走行となるのですが、何台目かの車に道を譲った頃から、私は本格的にだるくなってしまってそのまま座席に突っ伏しておりました。


早くどこかについてほしい。

何度か顔をあげて前を確認するのですが、どうやらトラクターの様な物の後ろを走っているらしく、とても速度が遅いのです。

私は乗り物酔いとは無縁で、基本的にとても丈夫です。

が、このときは本当に節々もいたくて、熱があるようなそんなコンディションになっていました。

先ほどまで「昼飯なんにする?」とテンションが上がっていたヤツと同一人物だとは思えないくらいです。

(一度寝よう。んでもってあったかいもん食べて、クスリ飲めば、明日にはけろっとしてるはず)

そんなもんです。


私は色んな物をあきらめて、とりあえず寝る事にしました。


どのくらい眠ったのでしょう。既に車は振動を止め、誰かがヒソヒソと話をしているような音が聞こえるだけになっておりました。

何となくぼーっと目を開けたまま前の座席の頭の部分を見ていると、どうにも違和感


友人のJは茶髪です。Hは黒髪ですが、いつも短めにスッキリと整えておりました。しかし。



(誰?)



よっぽどそう、言おうかと思ったくらいです。

でも、私の中の何かが口を開ける事をためらわせました。もう一度目を閉じて、きっとまだ眠っているのだろうと自分を納得させる事にしたのです。

次に目を開いたときには、まだ車は走っており、のろのろと身体を起こした私が見たのは、トラクターの後ろを走る自車の様子でした。


(あれ。時間経ってないのか)


ちらりと時計を見て凍り付きました。


2時を回っていたのです。


「ちょっと、どっかに停めて……」


「なに。どした? 気持ち悪い?」


そういって、二人は車を待避所に停めました。

思わず外へ出て、気がついたのです。

雪はそれほど降っておらず、私たちを取り巻く空気も未だ山深いそれです。


時計を見れば二時を回っています。


私は外に出る事で気分が晴れたのでしょう、二人に尋ねてみる事にしました。


「トラクターの後ろ、何時間走ってた?」


「え? 何時間って……ちょっと前に抜かれただけで」


「いま、二時なんだけど」


JもHも驚いた様子でした。


私たちは昼飯を食べに車を走らせていたのです。


それがいつの間にか昼過ぎている。普通に考えれば3時間ほど走っていた事になります。

もうエンジンをかけ直し、カーナビを立ち上げ直すと、相変わらずカーソルは海の上。


訳が分かりません。

私たちは再び車に戻る事にしました。

あいにく、その当時私は免許を持っておらず再び後部座席に収まったのです。

そして走り出したのを確認したら、なんだか眠くなってしまったのかそのまま眠ってしまいました。


次に目を覚ましたのは、Jが「誰かのケータイが鳴ってる」と言ったときでした。


私は手探りでポケットから携帯を取り出したものの、通知は無く、Hも同じようでした。


Jに断りを入れてJの携帯を見たけれど何も無い。


「でも、鳴ってるよね。バイブ音するよ」


Jはなおもそう言います。Hは「わからん」と言っていますが、私はちょっと不思議であたりを探しまわりました。


「あ、切れた」


Jはそういってからルームミラーで私を見て顔を強ばらせました。


やがて、私たちは市内にたどり着き、そばにありつきました。


「ねえ、夏目。オレの携帯見たときさ、なんて出てた?」


当時の携帯対電話は二つ折りが主流で、閉じたままでも着信が確認できるように小さな画面がついている物がほとんどでした。


「なにも? むしろ通知が無かったよ」


体調不良は腹が減っていただけだったのかと思うくらい、私はごくごく普通にそばを食べていたのですが、流石に次の言葉に凍り付きました。


「忘れてたんだけど、オレ、携帯自分のポケットに入れっぱだったんだよね」


「うん? それがどうした?」


Jの台詞の違和感には気がつきませんでした。そんなもんです。


「お前さ、誰の携帯……確認したの?」


「え?」


「だからさ」


「いや、いや、いや。Jのでしょ。Jの携帯が上着のポケットに入ってたんでしょ?」


「違うって、オレのはズボンのポケットに入れてたの」


 よくよく考えたら、あの携帯は座席のどこかにあったのを私がつかんで確認しただけだったような気がします。

実はその後も眠ってしまって、店に着いたときに叩き起こされたのですが。


「……ええと。とりあえず食べていい?」


「どうぞどうぞ」


二人に聞いたところ、Jは私が寝たあとも暫く「本当はまだ鳴ってる」と言っていたようです。

何となくおかしいと感じていた二人なのですが、一番の危険地帯が後部座席のような気がしていたというのです。

だからこそこのままとりあえず夏目を捧げておいて市内に出ようとという事で意見が合致したそうな。


起こしてくれたとき、確かに後部座席だけ寒い気がしたと言っていたのですが……なんだか色んな物が吹っ飛びました。

供物扱いは人生で二度目です!! むかー!!


夢は多分ただの夢だったのだと思います。

あとは狐にだまされた、的な?


やっぱりオチはないんです。

ごめんなさい。


お、おわれ!

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