黒い天使のお告げ。

@yuukiarasi40

第1話 思い出

…つまらない人生だこと。



§自室

朝は憂鬱だ、また面倒な1日が始まる。

私はそんな事を思いながら布団から重い身体を上げ、歯を磨きにリビングに出て洗面所へ向かう。



§リビング

「おはよう」

リビングに出た時、声を掛けてくれたのは私のお母さん。いつも朝早く起きてお弁当を作ってくれる。

何を作ってるのかな?と思って傍に寄ってみたら、だし巻き卵を作っていた。

だし巻き卵が私の好物の食べ物という事をいいことに、いつもお弁当の中に入れている。

お弁当のレパートリーに困っていてるの? と聞くのは禁句。


「今日もだし巻き卵なの?」

「あんた、好きだからいいじゃないか」

「はいはい、そうでしたね~」

いつもこんな調子だ。でも居心地が良いのは言うまでも無いかな。


「今日は夕方、雨が降るらしいから傘持ってけよー」

「はーい」

既に焼かれていて少し冷めている食パンに、ラズベリージャムを塗って食べながら応える。

今の季節は秋。秋晴れが心地いい季節なのに雨って言うのはどんよりした気分になってしまう。

ま、秋だけに限った話じゃあないけどね。


「じゃ、母さんは仕事行ってくるから家の鍵だけ掛けとけよ」

「分かった~、いってらっしゃいお母さん」

お母さんは私よりも先に家を出ていく。女手一つで子供を育てる親の鑑である。

そうこうしている内に、自分も家から出て行く時間になった。

「ごちそうさまでした」と心の中で念じながら、食器を洗い支度をする。


支度を済ませてカバンにお弁当とおやつが入ってる事を確認して、制服のリボンも結んでおく。

玄関に向かい、少し小さいローファーに足を入れてトントンと鳴らしつつ、

家の鍵もいつもの胸ポケットの内側に入れてから傘を持って家を出る。

「行ってきます」


§通学路

家に鍵を掛け通学路に出ると、そこには同じ制服を着た人達が歩いていた。

和気あいあいと友人と話しながら歩いている人、音楽を聞きながら一人で歩いている人…。

様々な人が学校へ向かってる中、私は道路の端を歩いていく。


その道中、家から20分ぐらいの所に公園がある。

市が経営している公園だが、その公園内に教会が佇んでいるのだ。

元々何処かの宗教がその教会を根城に布教を行っていたらしいが、今やそんな影は無く寂れている。

…そんな教会に1度だけ入った事がある。


あれは私が小さい頃、色々なものに目を輝かせている時代。

お母さんと一緒にこの公園に来た時の話だ。


いつもこの公園に来る時は決まってお弁当の他にお菓子も持っていっている。

何故かというと遊んでいるとお腹が空くから。

そんな私にお母さんが気を利かせて、お菓子を小さな肩がけバッグに入れてくれていた。

それを掛けて公園内を探検するのが日課だったのを覚えている。


探検しに行く と言うとお母さんは必ずこう言っていた。

「あそこの教会にだけは行かないでな」

なんで? と聞いても 行くな の一点張り。余計に気になった。

好奇心旺盛な私はお母さんの目を盗んでこっそり教会に入ってみる事に。


教会の中に入ってみると昼間なのに薄暗く、陰気な雰囲気が漂っている。

長方形の椅子が中央を挟んで規則正しく並ばれていて、中央奥には祭壇のようなものがあった。

でもそれ以上に目を惹かれたのは、天井のステンドガラス。

光を反射しキラキラと輝いていて、まるで万華鏡の中に居るような感覚だった。


天井に目を奪われていると、奥のほうから ガサッ と音がしたのを聞いた。

「何だろう?」

私は天井を見る事を止め、好奇心に駆られるままに奥へと足を運び注意深く前を見る。

すると小さな影が闇の中から現れてこう言った。

「貴女は何者?」


その影の正体は小さな少女…と言いたいがおかしい所が幾つかある。

まずその少女よりも数倍長い黒い羽根を伸ばしていた事。

その小さな身体には不釣り合いな大きさだった。

気になったのは、顔立ちと髪の色、服装だ。

顔立ちはとても整っていてまるでモデル、瞳は大きく綺麗な紫色をしていた。

薄暗い中でもはっきり分かるくらいの銀色の髪をしていて、服装に関してはドレスのよう。

まるで天使のような…。

私は恐怖心よりも、可愛いもの と思ってしまった。


「わたし?この教会にこっそり入ったの!」

「ここはお遊びで来る所じゃあ無いわよ、帰った帰った」

「でも…もう少しお話しない?」

「は?貴女と?冗談はよしてちょうだい」

「冗談じゃないわ!本当にそう思ってるの」

「だったら食べ物の一つや二つ私に恵みなさぁい」


なんで食べ物?と思ったが、丁度今はお昼時。

きっと天使さんもお腹が空いてるのだろうと思い込んだ。

そこで私は肩がけバッグに入っていたお菓子を思い出し、その中の一つを差し出した。


「はい!これお母さんがくれたお菓子だよ」

「なぁにこれ?変な色してるわね」

「変な色ってこれアメさんだよ?」

「アメさん?変な色に加えて変な名前だこと」

「とりあえず舐めてみて!美味しいから!」

「そこまで言うなら…ん!? これ美味しいわぁ!」

「でしょでしょ!もっと食べていいよ!」


どうやら天使さんはアメさんが気に入ったみたいだ。

その後少しだけ私の話をして、お母さんに心配される前に教会を出た。

教会を出る時、バッグに入っているアメを天使さんに分けてあげた。私偉い。


そんな事があった事自体つい最近まで忘れていたのだ

思い出すきっかけになったのは、自分が風邪で寝込んでしまっていた時、

お母さんが濡れ布巾と一緒にのど飴をくれたのがきっかけ。

「あんた咳が酷いから、これ舐めときな」


「のど飴?ありがとう~」

(あれ…こんな事がどこかであったような)という具合に。


…今、あの天使さんはどうしてるかな。

急激に膨らむ「会いたい」という衝動、胸が高鳴るのが分かった。

だから今日はわざわざバッグに「お菓子」を入れておいのだ。

流石に行きは時間が無いので、帰りにあの教会へ寄っていく事に決めていた。

ただ、帰る為には学校という柵しがらみを耐えなくてはならない。


はぁ、憂鬱だ                     To be continued

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