第12話 猫探し 二日目
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「なあ茜。どうやって猫が学校にいるって分かったんだ? 電話じゃ女子に聞いたって言ってたけど」
帰り道、茜に問う。
「ふふん、女子のネットワークをなめちゃダメだよ。可愛いものと悪口はすぐに広まるんだから」
穏やかじゃないなー。やっぱり女子って恐い。
「なんでも体育の時間に猫を見つけたみたい」
「ありがとな、茜」
「どういたしましてー」
タタッと俺より数歩先に進み、クルッと回ってこちらを見る。夕陽と同じ色の髪が動きに合わせて舞った。
「陽介、一つ貸しね」
「はいよ」
茜に見とれてしまい、それしか返せない。
「それじゃ、明日も猫ちゃんを探すぞー」
六月の夕陽のせいで、俺の顔が赤くなってないか心配になった。
「えー、ちーちゃん今日は来れないの?」
放課後のカウンセラー室。先生は千代さんと電話している。千代さんが来れないみたいで先生がぶーぶー言っていた。
「もう、しょうがないな~。は~い、またね~」
今日は俺と草太郎、茜と先生の四人で学校の中を探すことになりそうだ。
「ちーちゃんは別の依頼があるみたいだから、今日は私たちで頑張りましょ」
「今日もよろしくお願いします」
草太郎が頭を下げながら言う。
「先生、効率を上げるためにも別れて探したらどうっすか?」
「そうね~。じゃあ瓶子くんはプールの方。茜ちゃんは図書館の辺り。陽介くんは新館と校舎。私は体育館の方を探すわ」
そうして猫探し二日目が始まった。
俺は校舎のグラウンド側で猫を探す。グラウンドでは運動部の生徒たちが汗を流し、校舎からは吹奏楽部が出す音が聞こえて来る。
すっげぇ青春っぽい。ここまで典型的だとうすら寒く感じる。
彼ら彼女らはテレビや小説の中の青春という虚像に憧れて、劇を演じているのだ。
己を騙し、周囲を欺き、代わり映えしない日常に『青春』というレッテルを貼る。
レッテルを貼って後から見た時に、あの時は楽しかったなどと自分の思い出を美化するのだ。
っと、いけない。今は考え事をしている場合じゃない。猫を探さなくちゃ。
校舎の縦辺を探し終え、今度は駐輪場を探す。自転車と自転車の間。駐輪場のトタンの屋根。……いない。
他の人も同じ感じだろうなー。そう思いながら新館に目をやる。
新館……新聞部……チラシ……チラシ!!
そうだ
良かった。電気がついてる。
「石蕗! 頼みがある」
俺は勢いよくドアを開けながら言う。
「ぶふっ。ほぉ、ほぉうふふぇ!?」
石蕗はきな粉棒を食べていたらしく、口がモゴモゴしている。
「げほっげほっ。はー死ぬかと思ったのじゃ」
リュックから取り出したお〇いお茶を飲んでそう言った。
「わ、悪ぃ。大丈夫か?」
「まったく……それで頼みとは何じゃ?」
「あ、あぁ。実は今、猫を探してて、猫を探す為のチラシを作ってもらえないかと思って」
「なるほど、そういうことか。咲に任せるのじゃ」
石蕗は小さい手で胸をトンと叩く。
本当は人に頼りたくない。だけど今回は頼らせてもらおう……。
「まずは猫の特徴を……」
その時、俺のスマホが鳴った。茜からだ。
「石蕗、すまん」
そう断って電話に出る。
「どうした?」
『あ、陽介。猫が見つかったって!』
「マジか! どこで?」
『分かんないけど、先生が歩いてるのを見たって言うから体育館の方じゃない? 陽介もすぐ来て』
「分かった。切るぞ」
電話を切ると安心からか、深い息が出た。
「石蕗、頼んでおいて悪い。猫が見つかったみたいだ」
「おぉそうか! 良かったな。チラシを作れないのは残念じゃが、猫が見つかったなら良しとするのじゃ」
少しだけ寂しそうに笑う。
「そうじゃ、咲も行っていいか?」
「あぁ、早く行くぞ」
そう言って俺は部室を出る。石蕗は後ろからトテトテと走って付いて来た。
「陽介ー、こっちこっちー」
茜がブンブン手を振っている。そういうの、こっちが恥ずかしくなるからやめて欲しい……。
すると茜は俺の後ろの存在に気付いたみたいだ。
「キャー咲ちゃーん」
「あっ……」
「うげっ……」
俺と石蕗は揃って変な声を出す。
そうだ……茜は石蕗が可愛くて仕方なく、石蕗はそんな茜が苦手らしい。
「陽介! 茜がいるなんて聞いてないぞ!」
「まぁ言ってないし……」
石蕗はプンスカ怒っているが気にしない。それと、いつの間に茜と呼ぶようになったのか。案外仲が良いのかもな。
「先生と草太郎は?」
ここにいない二人はどこだろうか。
「体育館の辺りを探してるよ」
「そっか、じゃあ行こう」
俺は体育館の方へ向かって歩き出すと俺の後ろで茜と石蕗が騒ぎ出した。
先生と草太郎は体育館の裏を探していた。
「先生、猫を見たって本当ですか?」
「えぇ、間違いないわ。茶色で縞模様があったもの」
俺の後ろにいた石蕗がヒョッコリ顔を出す。
「なんだ、
「おー石蕗」
「え? 咲ちゃんと瓶子くんって知り合いだったの?」
「おう。同じクラスだ。まぁ名前だけ知ってるくらいだけどな」
「ニャー」
「石蕗、なに言ってんだ?」
「別になにも言って「ニャー」いぞ」
石蕗……『じゃ』の次は『ニャー』かよ。
「うふふ、咲ちゃんじゃないみたいね」
先生の視線の先には、茶色で縞模様の猫がいた。右耳に傷もある。間違いないだろう。
「草太郎、あいつか?」
「おぉーポチ、探してたぞー」
草太郎はそう言いながら猫に近づく。てか、まだその名前なのかよ……。
だがポチは草太郎の脇をスルッと抜けて俺たちの前に来た。草太郎はそのまま固まっている。
ポチはふてぶてしい目をしていた。「おう、何か用か?」って言ってそう。
ポチと目が合う。お互いに目を逸らさない不思議な時間が続く。ポチはフンと鼻を鳴らして近づいて来た。
草太郎はまだ固まっている。バカなの?
俺の足元に座ると、くぁと
「陽介になついたみたいじゃな」
「いや、多分これ、俺がナメられてるだけだと思うんだけど……」
「う~ん、これからどうしましょ。とりあえずカウンセラー室に連れていきましょうか」
「そうっすね。草太郎、ポチを頼んだ」
草太郎はやっと立ち直ってポチを抱える。
茜と石蕗はじゃれあいながら、俺は二人を見ながら、草太郎はポチを大事そうに抱えて歩き出す。先生は後ろから俺たちを見ていた。
こんな放課後もそのうち青春ってラベリングしてしまうのだろうか……。
そう考えながら夕陽に染まった学校を歩いて行く。
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