第5話

 ここが、俺のいた世界と違って、災害が大量発生する世界だということをやっと納得し始めた時、気になったのは、それについてこの世界の人はどう思っているかということだった。一ノ瀬さんは平然としており、不思議だとは思ってもあまり辛いとは思っていないように見える。他の人はどうなのか。その辺の人に聞いてみるのもいいが、前の世界の価値観が邪魔をする。こういう、みんながどう思っているのか気になる時に開きたくなるのが、ツイッターだった。最も、たいてい停電しているこの世界で、やる人がいるのかは疑問だが。そういうわけで、スマホを手に持った。

 まずは世界の状況を知っておこうと、ニュースアプリを開いた。一ノ瀬さんが言うように、東京以外でも災害が頻発していた。南海トラフ巨大地震、ミサイル落下、テロ、竜巻、台風。なんでもありだった。さて、ツイッターだ。

 意外と投稿はある。現状を淡々とつぶやいているものが多い。明るい感じの顔文字を使うひとが多いので驚いた。たとえば、避難所をこんなふうに改造しましたよ。どうだ!と言った感じだ。そしてそれを真似ようとつぶやく人も多い。だが、意外なことに、前の世界で散々目にしたようなツイートが紛れ込んでいた。

「地震でおっぱいが揺れるなうw」

「地震が来たらツイッターを見る日本人、鍛えられてるなあw」

 たしかにこの世界の人達はかなり鍛えられていそうだ。が、しばらくして、ごく限られた人だけがそういうツイートをしていることに気がついた。大抵の人は明るい感じのツイートはしても、こんなツイートはしない。そして、こういうツイートの件数は、前の世界よりも圧倒的に少なく感じられた。世界がこんな状況だったら当然か。自粛ムードが前の世界なら漂っているはずだ。それでもつぶやくのは、どういう人だろうと考え、真っ先に、自分が被災していないことが第一条件だと思った。・・・いや、この世界だと案外そうではないのかもしれない。だいたい、こんな世界に被災してない人なんか居るのか?いたとしたらとんでもない。

 そう思って、プロフィールを見てみると、なんとその人達のいる地域は大きく偏っていたのである。陸前高田、気仙沼、南三陸、石巻、いわき。益城町、熊本市、南阿蘇村。浪江町、大熊町、双葉町。それらは、前の世界では正真正銘の被災地だ。避難指示が出ているはずの地域もある。まさか。

「おい、一ノ瀬」

 困ったときには一ノ瀬だった。

「なんですか」

「災害が起きていない地域が、この世界にもあるのか」

「え、忘れてるだけじゃないですか」

 地震の日に行ったセリフで返してきた。

「いや、ツイッター見てたら気になっちゃって」

「バッテリー節約志向はどうしたんですか。ま、でも、一時的にはありますね。突然、ある地域で災害が起こらなくなるんですよ。雑魚い地震くらいしか起こらなくなるんです。謎なんですよね」

「今はあるのか」

「ありますね今は。東北と、あと、最近は熊本もそうです」

 まじかよ。それは確かめないと。

「行ってもいいか」

「行けますかねえ」

 ごもっともだった。次またいつ何が起こるかわかったもんじゃない。地震からもまだ復旧していない。復旧するタイミングがあるのかどうかも分からない。

「でも、試してみるよ」

「そうですね」

 意外とあっさりとした返答だった。お前逃げる気かとか言わないのか。そうか。一ノ瀬さんはさっきからどこか不思議そうにしている。

「では、くれぐれも死なないように」

「はい」

 出て行く直前、俺にこう付け足した。

「なにかわかったら教えて下さい」

 一ノ瀬さん、結局は好奇心に耐えられなくなったらしい、連絡先をたくさん書いたメモを渡してくれた。

「いってきます」

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