第4話

 この世界の風景は、災害の被害を受けているという面を除いては、俺が前にいた世界と同じだ。やっとこさここが異世界だという実感が湧いてきたが、未だにそれに自信がないのは、そんな風景のせいだ。と、いうか、俺の知っているルートで、俺んちに行けるんじゃないか。

 と、いうわけで、我が家を目指してみることにした。富士山噴火の後の停電は復旧した。停電中にスマートフォンを使うのは少々ビビる。電力が足りない以上節約志向に走り、ニュースの確認以外では触りたくなくなった。悲しいかな独り身だし。しかし、停電が復旧すれば話は別。混雑する充電器スタンドを一回確保できれば、1日くらいはどうにかなる。GPSを使い続けるような真似をしなければだけど。だから、一回だけ、グーグルマップを起動した。現在地だけ確認する。意外と我が家は近い。普段だったら電車に乗るが、歩きで行っても疲れ果てることはない。休憩する必要はない、そんな距離だった。

 だから、地図を紙に写した後、徒歩で我が家を目指す。電柱が傾いたり瓦が落ちてたりするのに注意しながら、30分ほど歩いただろうか、辿りつけてしまった。家の周りの風景の中は、壊れながらも見覚えのある部分が垣間見えていた。

 普段持ち歩いている、つまり、前にいた世界の家の鍵で、ドアを開けることができた。家の中はかなりごちゃごちゃになっている。俺が作ったフィギュアが転がっている。お、あそこに卒業アルバムがある。見てみよう。昔の俺が写っているのかもしれない。その時だった。

 ドーン。

 ぐっと突き上げるように振動が襲ってきた。緊急地震速報が直後に鳴り響き、恐怖を倍増させる。机の下に潜り、机の脚にしがみついて耐える。体が浮きそうだ。

 どのくらいたっただろうか、実際には十秒くらいだったと信じたい。よろめくようにして外に這い出した。避難所に戻ろう。いや、本来は行こうと思うはずなのだが。だが今までの町とは違った。あちこちで煙が出てる。崩れかけていた家屋が当然のように崩れていた。

 避難所で一ノ瀬と再会して、最初に一ノ瀬さんは

「また来ましたね。地震」

 と、言った。この地震の前の地震なんて、僕は知らない。

「最近は建物が直らないんですよね。昔は、一ヶ月後に急に家が直ってから、また地震ってパターンだったんですが」

 なんかこの世界で最も異世界らしい現象の話を聞いた気がするが、それどころじゃなかった。いつもの避難所の小学校の校庭の周りのあちこちで、煙が出ているのだ。

「一旦別のところに行きましょうか」

 一ノ瀬はまたしても、よくあることだという口調でそう言った。

 一ノ瀬が案内した広場にたどり着き、やがて夜になると、周囲が赤く浮かび上がる。やがてその焔は一箇所に集まりだし、渦を巻いて空に立ち上がった。心臓がバクバク言っている。追い打ちを掛けるように地面が頻繁に揺れた。


 一応安堵できたのは朝になってからの事だった。小学校に戻っては来たものの、結構ヒビの入っている体育館だ。入るのがはばかられる。

「最近はこのパターンが多いですね。じゃあテント建てましょうか」

 そういう一ノ瀬もわりと不思議そうだった。テントを建て終わった後、再びあの質問が飛んできた。

「かつて、地震は単発で来ていたのですが、ここ数ヶ月は、こんな感じで、インターバルもなしに複数回連続して起きるようになったんですよね。なんか、前の世界で同じようなことはありませんでしたか」

 ああ、なんと言ったらいいのだろう。複数回の地震といえば熊本地震だが、こんな大火事はなかった。正直、俺の体験と熊本地震を結びつけることができない。絶対関係ないと思えるくらい、違うって思う。だから、

「4月に熊本で地震があったんです。大きな地震が複数回起きました。その時までは俺達も、大きな地震は単発で、後は余震だけだと思っていたんです。だけど、僕には前にいた世界とこの世界の関係がわからないんです。だから、そんな変化は気のせいだと思います。我々が、こういうのを覚えていなかっただけだと思いますよ」

 混乱しながら言ったセリフだったが、一ノ瀬は、

「ほーう。やはり心当たりはあると」

 自分の仮説の正しさを知った研究者の顔をして、ウンウンと頷くだけだった。

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