第18話 魔物箱

 休憩も終え、さっそく探索を再開することになる。


「18階層の新規の魔物はロトンドッグだ。

 攻撃力はないが動きが素早いから気を付けろ。

 特に、グールやゴーレムの動きに慣れていると手間取ることになる」


 と、レクチャーを受けて、進む。


 まあ、極端に強くなるわけではないから、あまり心配する必要はないか。


 早速現れたのは、ロトンドッグと、グールの混成パーティ。

 グール2体をアルトに任せて、俺はロトンドッグと対峙する。


 ロトンドッグは結局ゾンビやグールのような死体の犬版という奴である。

 目玉がはみ出していたり、腹の肉が腐っておきまりのように肋骨が露出していたり。

 ゾンビ系は見慣れてきたのでそれほど嫌悪感は抱かない。


 それよりも、さすがに元野生の獣。

 移動速度も速く、飛びかかってくる攻撃はさすがに躱しづらい。

 そのへんの犬と比べるとだいぶと動きは落ちるが、アルトの言うようにグールなんかとは段違いだ。


 よけきれず、攻撃を喰らってしまった。牙が腕をかすった程度だが、若干痛い。


 ちょっと注意する必要があるな。

『ヒール』を自分にかけつつ、間合いを測る。


 再度飛びかかってきたところを『バッシュ』で迎撃する。

 ゾンビ犬は、「きゃいん」とも言わずに、弾き飛ばされた。

 やはり、一撃では沈まない。


「大丈夫か?」


 早々と二匹の魔物を倒したアルトからそんな声がかかるが、


「まあ、これくらいはな」


 と、軽く応じる。


 というのも、やはり魔物は魔物。アンデッド系だからなのか、そうではないのかはわからないが2度の攻撃を体感して攻撃パターンが限られているということに気付いた。


 飛びかかってくる寸前に、若干体を沈ませる、つまりは屈みこむような癖があるようだ。

 それが全個体で共通なのか、いま相手しているこいつだけなのかはわからないがそれがわかっただけでも扱いやすい。


 攻撃の初動が判明すれば、あとは注意深く観察すること。

 タイミングを計り、それから攻撃の方向を見極めることで対応できる。


 牙を剥いて飛びかかってくるロトンドッグを半身を捻って躱しつつ、『バッシュ』で迎撃する。

 二度目の『バッシュ』でロトンドッグはあっさりと倒せてしまった。


「どこか攻撃が単調というか、システマチックなんだよなあ」


 魔珠を回収しつつ、ふと浮かんだ印象を口にしてみる。


「ほう、わかるのか?」


 アルトが関心したように聞いてきた。


「いや……こいつに限った話じゃなくって。

 今まで相手してきた魔物って、なんか攻撃パターンも単調だし動きが読みやすいって感じがするんだけど?

 そんなもんなの?」


 それは、1階層から4階層までで戦ってきた魔物でも同様だった。

 なんというか、ゲームで出てくる雑魚キャラのように。

 決められたプログラムの範囲で動いているというように思えてしまう。


「レベルの低い魔物には知能というものが存在しないからな。

 単調といえばそうだろう。

 だが、レベルが上がっていくと攻撃パターンも多彩になってくる。

 今出てくる魔物でいえば、ゾンビやグール、さっきのロトンドッグのレベルは2だ。

 頻度は少ないが、パターンに嵌らない攻撃をしてくることもあるから気を付けておいたほうがいい」


 とのアドアイスを受けた。

 なるほどね。レベルが低い奴は単調。上がっていくと多彩になってくるわけだ。

 あまり見くびるのも良くないらしい。


 また出会ったのはロトンドッグとグールの混成パーティ。2匹と1体の構成だ。

 まだ距離があるうちに鑑定してみると、確かに両方ともレベルは2だった。


「犬いきまーす」


 相手をする魔物の認識を合わせつつ、左端のロトンドッグに向って行った。

 ロトンドッグはこっちを見つけるなり勢いよく走り込んでくる。

 

 カウンター気味に『ハードバッシュ』を試してみる。


 すんなり犬の脇腹に剣がヒットして、吹き飛ばされつつ霧散した。


『ハードバッシュ』はやはり効率がよい。

『バッシュ』一撃で倒せるならば、魔力の消費量が少なそうな『バッシュ』を使用したいところだが、連続で放つことができないし、それならば『ハードバッシュ』を最初っから使うほうが断然楽だ。

 この先、『ハードバッシュ』で倒せない魔物が出るまでは、その路線で行くかな。

 まあ、初対面の時は『バッシュ』何発分なのかを計る意味でいろいろ試してみるけど。


 見ると、アルトの方も、さっさと魔物を倒して魔珠の回収を行っている。

 アルトみたいにスキルアーツを連続で放てるようになれば戦い方のバリエーションが増えるのだろうが、どうすればそうなるのかがわからない。


 向き合いざまに『ハードバッシュ』を放つという、変化もへったくれもない単純作業の繰り返しだ。

 

 19階層の中程で、嬉しいことに片手剣のスキルが復活した。

 やはり再取得が可能というのは有り難い。


 装備しているのが片手剣の鋼の剣なのだし、大剣スキルを封印して片手剣のスキルを使ってみることにしてみようか。

 ものは試しだ。


 片手剣はレベル1からスキル技が使用できる。アルトも多用しているのであろう『スラッシュ』だ。

 最初に覚えられるスキル技であるために威力は期待できないが、使ってみなければ判断もできない。


 魔物と出会いアルトと対象を確認し合う。


 俺の担当となったロトンドッグに向けて『スラッシュ』を放つ。

 一撃では沈まない。が、そこで違和感を感じた。『バッシュ』や『ハードバッシュ』を使った時とは違う感触。なんとなく連続で使えそうである。

 試しに『スラッシュ』と念じながら、剣を振るうとスキル技が発動した感覚が得られ、ちゃんとダメージを与えられた。

 ロトンドッグは『スラッシュ』二発分で倒せるようだ。


 大剣用のスキル技を片手剣で使うと威力が落ちることを考慮すると、『スラッシュ』は『バッシュ』と同じくらいか、少し弱い程度の攻撃力なのだろう。

 『ハードバッシュ』を使わないとなると、倒すまでに手数がかかってしまうが、連続で出せるのならば、あまり気にすることではない。


 次に出会ったロトンドッグで試してみる。

 さっきは、『スラッシュ』を出してから若干間を開けて次のスキルを発動させた。

 どれだけの間隔で使用できるのか確かめたい。

 あらかじめ2連続で『スラッシュ』を使うことを念頭に入れた攻撃をしてみることにした。


 一撃目で相手の動きを止め、見事に二発めの『スラッシュ』が発動して、綺麗に葬ることができた。


「剣筋が変わったようだな?」


 目ざとくアルトが聞いてくる。ちなみにアルトはとっくに自分の分の魔物を倒し終えている。


「ああ、使うスキル技を変えてみた。ってかそこまでわかるんだ?」


「なんとなくだがな。

 力任せに剣を振るっていたような攻撃から微妙に、変化したように感じた。

 それに、連続で攻撃できるようにもなったようだ」


 一、二度見ただけでわかるとはすごい観察眼であり、動体視力である。アルトの底力を見た気がした。


 が、俺にとっても大きな収穫である。


 想像にすぎないが、本来は大剣用のスキル技である『バッシュ』や『ハードバッシュ』を片手剣で使うということはやはり無理というかデメリットがあったようだ。

 威力も落ちるし、スキル技の連発が効かない。

 そりゃあそうだろう。スキル技というのは本来特定の武器のために用意されている攻撃方法である。

 似たような他の武器でも流用が効くとはいえ、100%の威力が出るわけでもないし、制約が無いわけでもない。


 片手剣を使うのであれば低レベルでも、片手剣スキルのスキル技を利用するほうが理に適っている。と思う。

 問題は、今の俺は片手剣で使えるガード系のスキル技を取得していないということだが、今相手しているレヴェルの魔物であれば、スキルなんて使用しなくても、対処が可能だ。万一ダメージを喰らっても回復手段もあることだし。致命傷ではないだろうし。


 ちょっと、大剣スキルを封印して片手剣を伸ばしていくことにしよう。


 出会う魔物を連続『スラッシュ』で切り捨てながら、アルトの案内で先へと進む。さっくりと19階層へ到達した。


「19階層から出る魔物はストーンゴーレムの上位種のロックゴーレムだ。

 耐久力はストーンゴーレムの2倍以上だな。

 ハルの攻撃だとおそらく2撃程度では葬れない。それ以上の手数が必要になるだろう。

 できるだけ、私が相手をしようと思うが」


「いや、試してみる」


 そういって、ロックゴーレムをキープする。


 ちょうど、ロックゴーレム3体というパーティに出会う。

 2体をアルトに任せてしまう。


 ロックゴーレム相手に『スラッシュ』を放つ。あらかじめ二発目の『スラッシュ』も視野に入れた攻撃だ。

 続けて放った『スラッシュ』でも、ロックゴーレムは倒れない。

 見ると、大きく腕を振りかぶって攻撃態勢に入っている。


 一旦距離を取って攻撃を躱し、三発目の『スラッシュ』を繰り出した。

 それでもロックゴーレムは倒れない。


 地味に硬いな。

 まあ、相手の攻撃は脅威ではないから、サンドバッグ状態ではあるが。


 計四発目の『スラッシュ』。

 それでロックゴーレムはようやく沈黙した。


 アルトは俺よりよほど早く、2体のロックゴーレムを倒し終えている。やっぱり凄いわ~。一人で十分、俺は回復役に専念してればよいというだけのことはある。

 同じスキルで威力も変わらないように思えるのだが、手数というかスピードが段違いなのである。


 スキルレベルの差なのか、経験の差なのか。それ以外の要因か。


 負けてられないな。まあ、勝てるとも思えないが、できるだけ距離を縮めたい。


 次に出会ったロックゴーレムはあらかじめ、4連続で『スラッシュ』を使用することを念頭に置いて戦うことにした。

 なんなら、5発目の心構えをしておく。


 袈裟切りに一発目。二発目は下から切り上げるように。

 その次は横薙ぎで、止めにもう一回袈裟切り。

 おまけの一発……と5回目の『スラッシュ』を念じたところでそれは上手くいかない。

 スキルを使用しようにも対象のゴーレムを倒してしまっていたようだ。

『スラッシュ』が4連続でしか使えないのか、それとも、ターゲットが居ないと発動できないのかが今のところわからない。

 検証にはもうちょっとタフな相手か、複数の相手と闘ってみることが必要だろう。


 とはいえ、2匹とか同時に相手にするのはまだちょっと避けておきたいとも思う。


 ロックゴーレム程度なら上手く立ち回れるかもしれないが、ロトンドッグが二匹とかだとうまく立ち回れずに攻撃を喰らってしまいそうな気もする。


 スキルレベルの不足というよりも、単純に戦闘経験が足りていない。『スラッシュ』の威力がもう少し高ければ前に4階層で魔物に囲まれて戦った時のような立ち回りができるかも……、いやあの時は魔法を多用したんだった。


 剣の道は険しいなと悟った。


 アルトのスキルは便利なもので、ロスなくすいすいと進んでいける。

 休憩してから、もう2時間ほどは経っているだろう。相当数の魔物と戦ったが、道を探りながらだったら倍以上の時間がかかってしまっていそうだ。


 そもそもにして戦闘がほぼ一瞬で終わるのが、こんなタイムアタックもどきの進撃を可能としているのだが。


 19階層で戦ううちに、片手剣のスキルレベルが2に上がり、新たなスキル技が使用可能となった。


 そのスキル技とは『ダブルスラッシュ』。要は『スラッシュ』を連続で使用するだけのさして面白味のないスキル技だ。

 連続して『スラッシュ』を放つのとどう違うのかがわからん。


 その差は実際に使ってみて実感できた。

『スラッシュ』を連続で使った場合には、一撃ごとに斬り方やターゲットを意識する必要があった。若干だがタイムラグ、ロスが生じるのだ。


『ダブルスラッシュ』の場合は、あらかじめ2撃目の軌道が頭に浮かぶ。

 それに従い体を動かせばよいのだから、多少なりとも効率が良く、見栄えも良いだろう。

 それだけなら、連続『スラッシュ』でも慣れればできるかもしれないが、加えてターゲットにしている魔物の動きが予測できるようであった。

 あらかじめ動きが予測できるから、攻撃が外れようもない。タイミングによっては魔物の攻撃と重なるかもしれないが、それを上回る速度でカウンター気味に攻撃を入れられる。


 なにげに便利である。


 スキル技の力とはいえ、剣士としての勘のようなものを手に入れたような優越感を感じられるスキル技だった。

 

 ひょっとしたら、アルトが見せる流麗な剣さばきの一部もこの『ダブルスラッシュ』の力なのかもしれない。まあ、こいつは、2連撃どころか、4~5発くらいは、続けざまに剣を振るっているからまた違う可能性も否めないが。


『ダブルスラッシュ』の威力は、単純に『スラッシュ』二回分相当のようだ。そこにボーナス要素はないらしい。消費魔力は魔力が減っている実感が未だに感じられないからよくわからない。

 燃費がいいのか悪いのか。


 単に使用している時の自分がかっこよく思えるから、メインの技を『ダブルスラッシュ』にしてみた。

 どうせ、ロトンドッグもグールも倒すのには『スラッシュ』二発必要だし、ロックゴーレムは4発分、つまり『ダブルスラッシュ』×2。

 『ダブルスラッシュ』の連続、疑似的な『クワドラプルスラッシュ』を試してみたが、さすがにそれは無理だった。

 『ダブルスラッシュ』から他のスキル技につなげるには若干だが間が必要なようである。

 とはいえ、ほんの一瞬、1秒にも満たないくらいの冷却期間だから戦闘には支障がない。

 やはり餅は餅屋、片手剣には片手剣スキル。またレベルが上がって新しいスキルを覚えるのが楽しみになってきた。

 武器をとっかえひっかえして、バトルマスターを目指すのも面白そうだ。


 おそらく対する魔物のレベルが高いからあっさりとスキルを手に入れてスキルレベルも上がっているんだろうけど、1階層とかでもちまちま戦っていたらそれなりに武器スキルを取り戻せるような気がする。

 ダンジョンに入り浸る生活ってのも悪くないかもしれない。率直に言うとゲームでキャラクターを育てる感覚に似ている。育っているのは俺自身なのだが。

 

 さらに探索。

 

 そろそろ、19階も終わりそうだと、思っていた矢先だった。


 曲がり角をアルトが曲がる。俺もそれに当然続く。


 直後。


「ちっ!」


 とアルトの舌打ちが聞こえる。


 角を曲がって出たのはそれまでの通路ではなく大部屋だった。


「魔物箱だ……」


「なにそれ?」


「いわゆるトラップだな。

 すべての魔物を倒すまで逃げ出せない」


 まさかと振り返ると、入ってきたはずの通路への道はいつの間にかふさがっている。

 ふさがっていると言っても、そこにはあるのは黒い壁。階層を行き来する時にお世話になっているあれ、インヴァイトゲートと見た目は同じである。


「ほんとに?」


 普通に通り抜けられるんじゃないのか? と軽い気持ちでゲートに触れるが、いつもなら突き抜けられるはずのそれは俺が差し出した手を弾き返した。まさに壁の手触りだ。


「厄介な場所で……」


 とアルトはひとりごちる。


 とはいえ、部屋には魔物の姿は見えない……。


 と油断していると、


「来るぞ!」


 とアルトが警告を発する。


 床に数十もの丸い光が現れ、その上には黒い影がそれぞれ揺らめいて……。

 ひとつひとつが、魔物の姿へと変わっていく。


「角に追い込まれると逃げ場を失う。

 囲まれないように、壁際で戦うんぞ」


 と、アルトは俺の手をとって、走りだした。


 つんのめりそうになりながらも俺も手を引かれながら続く。


 既に30を優に超える魔物が出現しているが、それで終わりではないようだ。

 ぽつりぽつりと魔物が移動して開いた隙間に、新たな光が生まれて、新しい魔物を出現させていく。


「さすがに、全てからは守りきれない。

 すまんが、防御優先で、手近なものから仕留めて行くんだ!」


 アルトは俺を背負うようなポジションを取りながら、早速襲い掛かってくる魔物を切り捨てていく。

 幾らアルトの剣さばきが華麗でも、前と左右の3方向ら迫りくる魔物を同時に相手することはできない。

 アルトでも、一匹倒すのに2~3撃は必要だ。


 俺の前にはアルトが立ちふさがって魔物の侵攻から防いでくれている。俺の後ろには壁があって警戒は不要。


 が、空いた左右から襲ってくる魔物は俺自身で対処しなければならない。


 アルトは自分の前方と、左右。それに俺のために若干斜め後ろまでフォローしてくれているが、何せ魔物の数が多い。


 右から迫ってくる二体の魔物。

 一体を『ダブルスラッシュ』で切り捨てて、もう一体の魔物に対して警戒していると背中に衝撃が走る。


「ハル!?」


 アルトが、俺の右側で残っていた魔物を切り捨ててくれる。


「大丈夫!」


 振り向くと、ロックゴーレムの巨体があった。

 ちょうど拳を振り上げて俺に殴りかかろうとしている。こいつのパンチを食らっってしまったようだ。

 モーション見え見えの攻撃でも、目の届かない背後からだと、こうもあっさりと喰らってしまうのか。


 パンチを躱しなながら、『ヒール』を唱えて体力を回復する。痛みは無くなった。


『ダブルスラッシュ』を連続で放ち、ロックゴーレムを沈める。

 が、その直背にはまた次の魔物が待ち構えている。


 状況は極めて芳しくない。


 挟み撃ちどころか、前後から1体とは言わず2体。計4体ほどの魔物と当時に戦う羽目になっている。

 アルトもフォローしてくれるが、彼女は彼女で常にそれ以上の魔物と対しているために、あまり頼り切ることも難しい。

 さらに悪いことに、4階層でエリンを助ける時に囲まれた時と違って魔物がひどく好戦的なのである。それぞれの動きも段違いに素早い。


 アルトは、後ろに目が付いているような……、それどころか360度のアラウンドビュー、俯瞰視点を搭載しているかのごとく、周囲からの魔物の攻撃を避け、一体一体着実に倒しているが、そもそもにして、数の暴力に押され気味だ。


 俺の背後にいた魔物も倒してフォローしつつと、八面六臂の活躍だが、倒しても倒しても次から次へと魔物が押し寄せてくる。


 目の前だけに集中すれば、後ろから攻撃される。かといって、両方を同時警戒するのは無理だ。


 それでも魔物を放置すれば、状況は悪化していくばかり。

 一体ずつこまめに葬っていくしかない。


 俺は、がむしゃらに剣を振るう。ダメージを受けるのは前提だ。

 かなり痛いが、一撃で致命傷にはならないのがせめてもの救い。

 一撃食らったぐらいで、戦闘に支障をきたすダメージでないのが幸いである。


『ヒール』を多用しながら、なんとか粘り強く戦い続ける。


 呆れることにアルトはまったく攻撃を喰らうそぶりを見せない。

 背後からの攻撃も、ぎりぎりで躱す、あるいは剣で受ける。


 俺とはスペックが違いすぎる。完全に足手まといになってしまっている。


 いや、アルトにできなくて俺にだけできることがあった。


 何時までも劣勢に甘んじているのは、得策ではない。片手剣の魅力に取りつかれてすっかり忘れてしまっていたが。


 俺は、『ダブルスラッシュ』を放ちながらも、状況改善の策を練る。

 剣士として成長するのも捨てた物ではないが、もてる力は全て使い尽くすのが戦闘の醍醐味だろう。


 若干の精神集中。風の精霊の高ぶりを感じる。


 躊躇なく俺は唱える。


「スピントルネード!!」


 


 

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