第16話 骸骨兵とか

 さて、15階層の探索である。もちろん寄り道はせずに最速で16階層を目指す。


 さくさく進んでいくアルト――かなり速足――に、ついていくと早速魔物が出現した。


 というより、魔物と出くわす少し前にアルトは剣を抜いていた。気配がわかるのかもしれない。


 ぼろぼろの鎧をまとった骸骨だ。手にはサビサビの剣を持っている。

 それが3匹。


 こいつが、骸骨兵ってやつか。既に聞いていた話だから、間違いはないだろうけど念のために鑑定でもしてみようと思った矢先。


 アルトが魔物の群れに向って駆け出した。


 剣を逆手に持った構えから、一閃。一匹を両断し、返す刀でもう一匹。

 そのまま、残りの一匹に向き直り、上段斬りで両断する。


「す、すげえ……」


 思わず声が出てしまった。おそらく戦闘開始から5秒と掛かっていないだろう。


「行くぞ」


 アルトはさも当然というように魔珠を回収すると、すたすたと歩きだす。


「待ってくれよ」


 またも速足で歩いて行くと、今度は混成パーティ。


 泥で出来た2メートルはあろうかというゴーレムが2体と先ほどの骸骨兵が1体だ。


 やはり一瞬で戦闘は終わる。


「それって、やっぱりスキルアーツ?」


 これほどの威力を誇るのだから、アルトはスキル技を使用していると信じたい。

 そんな想いを込めて聞いてみた。


「アーツ? いや、あいにくとアーツかどうかはわからない。

 それと認識しつつ使えるのは選ばれたものだけだといわれているからな。

 が、おそらくはそうだろうというのが答えか」


 などという返事が返ってくる。

 ああ、そう。俺って選ばれしものなのだろう。今後の行く末が心配だ。期待よりも不安が大きい。


 それはそれとして、15階層の魔物をして全て一撃である。どこまでの強さなのか計り知れない。


 などと思っていると、


「ハルはアーツが使えるのか?」


 と聞いてこられた。


「いや、良くわからないんだけど……。そもそも聞いたことがあるだけで、スキル技について詳しくとか知らないし」


 と適当に誤魔化す。


「魔術もそうだが、アーツも含め……。

 スキルというのは、前世の魂の加護だ。

 前世での経験が、能力として具現化したものだと言われている」


「前世?」


 俺の前世ってごく普通の一般人だったけどな……。


「魔術は解析が進んで、広く知られるようになった魔法も数多いが、アーツはそうではない。

 まだまだ不明な点が多い技能だ。

 スキルを身に着けたものであれば、おのずとスキル技も使用できるようになるはずだが、それと知らずに使っている者が多いだろうな。私もそうだ。

 体系などもはっきりとはしていない」


 ふむふむ。スキル技ってのは普通は念じて使うのではなく、戦いの流れの中で発動すると。そんな感じか。


「それが発動したかどうかは、相手に与えるダメージなんかで計るか、自分の感触、手ごたえで推測するしかない。あとは魔力の消費で判断するかだ。

 私は、魔物と戦い、稽古で剣を振るい続けその感触をものにした。

 先ほど放ったのは、おそらくは、『スラッシュ』などと呼ばれているアーツと同系統の技なのだろう」


 アルトにとってのスキルアーツっていうのは俺の使用するものとは感覚が違うらしい。それが同根なのに、人によってさまざまな捉え方をされているものなのか、それともそもそもの根底から異なるものなのかは定かではない。

 アルトを鑑定してもそこまでの情報は見れないし、そもそもアルトには鑑定が効かないからな。


「魔物だ」


 また、アルトが気配を感じたようだ。


「あのさあ」


 と、ちょっと声を掛ける。


「なんだ?」


「ここの魔物って動きは遅いっていってたよな?」


「ああ、気を付けていれば短時間の戦闘くらいではダメージは喰らわないだろう。ハルならばな」


「ちょっと、戦ってみたいんだけど……。

 一匹回してくれない?」


 一応今回のダンジョン探索。俺の役目としては、回復役ということになっている。

 戦う必要はないとのことだ。

 それに、数匹程度の魔物であれば、アルトが一瞬で片づける。

 つまりは、俺には戦闘の機会は回ってきそうにない。


 別にそれでも楽でいいのだが、今後のために、ちょっと手ごたえを確かめたいという思いがある。


「いいだろう……。が、あまり時間がかかるようなら……」


「そんときゃ、見物に徹するよ」


 というわけで会敵である。


 見るからにそれとわかるゾンビが2体と、骸骨兵が2体。


「どちらにする? 一応ゾンビは下の階層の魔物だから、強さ的には下だが?」


 と、アルトが聞く。


「ああ、骸骨の方で」


 ゾンビは気持ち悪くてできるだけ近寄りたくない。慣れれば違うんだろうけど、初戦の相手としてはちょと避けたい。


「了解だ」


 頷くと、アルトはさっと魔物に向う。


 華麗な剣さばきで一瞬で魔物3体を葬り去った。やはりすげえ。


 残った一体の骸骨兵に背を向けてアルトが引き返してくる。


 入れ替わるように、俺が骸骨兵と向き合った。


 手にした剣は親父の形見。いや間違えた。まだ生きているからただのお下がりだ。

 銅の剣よりは数段以上性能が高いはずだが、持っただけではその感触はわからない。

 ならば実戦あるのみである。


 骸骨兵が剣を振り下ろしてくる。その動きはモーションが大きく、さすがに躱すことはできなくても、剣で受け止めることぐらいなら造作ない。大丈夫、目で追えるレヴェルだ。


 受け止めて気付いたが、そもそも攻撃がそれほど重くない。

 これなら、うけるだけでなく、弾き返すことも可能だろう。


 再度振り下ろされる骸骨兵の剣。ワンパターンの攻撃だ。

 俺は、それを剣で弾き返した。


 大きく骸骨兵の体勢が崩れる。与しやすい相手だ。


「せいや!」


 気合を込めつつ、通常攻撃で、骸骨兵を横薙ぎに払う。


 が、その剣は骸骨兵の胴体の鎧にあたり、遮られてしまう。


「ハルの剣も若干の魔力は帯びているようだが、その程度じゃダメージは通らんな」


 アルトの声。さらには、


「時間が惜しい。変わるぞ」


 などと言ってくる。


「まあ、ちょっと待ってくれ」


 と俺はアルトを制した。


 相手の攻撃は単調で防御は容易たやすい。

 問題は俺の攻撃の威力である。


 隙を付き、2~3度攻撃を試みるも結果は同じ。

 腕を狙おうが、頭を狙おうが、なんの効果もなさそうだった。


 ならば、答えは一つ。


『バッシュ』! 念じながら、骸骨兵に剣を振るう。

 肩口を狙った袈裟切りの攻撃だ。


 骸骨兵の纏った朽ち果てかけたあまり意味のなさそうな……それでいて、先ほどまでは理不尽に俺の攻撃を阻んでいた鎧が粉砕する。

 骸骨兵の左腕がだらりと垂れさがる。


 どうやら、左腕の機能まで破壊できたようだ。まあ、相手の左手は手ぶらでそもそも何の役にも立たず、脅威でもなかったのだけど。


「ほう……」


 とアルトが息を漏らす。


「やれないことはないだろ?」


 俺はアルトに向き直る。


「ああ、そのようだな……」


 アルトも多少は俺を認めてくれたようだ。


 かといって、もう一度『バッシュ』を放つには多少のクールタイムが必要だ。

 チャンチャンバラバラと剣戟を繰り返し、


 今度は、『ハードバッシュ』を発動させる。


 上位技。威力がどれだけ大きくなるかわからないが。


 弱点が不明なのでとりあえず頭のてっぺん目がけて斬り下ろした。


 手ごたえは十分。骸骨兵が煙と消える。


「今のはアーツだな?」


 とアルトが尋ねる。


「いや、よくわからないけど、気合を入れて攻撃って感じ?」


 と適当に誤魔化してみた。手の内を晒せるほどの仲じゃないしな。


「なるほどな……。だが、連続で出せないのはどういうことだ?

 良い一撃があったことにはあったが、私の見たところ途中と最後の一撃以外は、魔力の籠らない通常の攻撃のようだったが」


 ああ、冷却期間クールタイムの影響なんだけどな……。


「アルトは続けてその……、スラッシュか。連続で出せるんだな?」


 と逆質問で返す。


「ああ、さらに攻撃の威力を増そうと思えば、多少の集中が必要だが……。

 あの程度の攻撃ならば、体の動く限り続けられるだろう」


 うーん。俺には『バッシュ』ごときで溜めが必要でアルトには必要ない。違いがわからん。


「まだ慣れてない? そんな感じなのかな?」


 期待を込めてそう答える。攻撃はともかくとして、ガードアーツなんかも連続で出せない今の状況が延々続くのであれば、戦闘においてあまり意味を為さない。

 結局、普段は己の剣術をみがいて相手とやりあう必要が生じてしまい、スキル技の恩恵が少なくなる。

 今はレヴェル不足か、経験不足、ゆくゆくは……、というようになるのが俺にとっては望ましい。


「私はそんな経験はしたことがないがな」


 ひょっとしたらアルトが規格外なのかもしれないな。


 どちらにしろ、わからないことを言い合っていても仕方がない。

 それはアルトも感じたようで、魔珠を回収してさっさと先を急ぐ。


 ちなみに、この階層に来れば魔珠は、400シドルを超える価値で、直径が5センチくらいである。

 もう十匹ほど狩ったから、儲けにすると4000シドル。凄い金額だ。俺にとっては。

 まだ探索を始めたばかり。だが、冒険者は金になるというのは良くわかる。

 こんなハイペースで魔物を倒す冒険者はなかなか居ないかもしれないが、一日でひと月分とかの荒稼ぎとかも出来そうだ。なんか真面目に店やっているが馬鹿馬鹿しくなるな。

 とかなんとか思っているうちにアルトは先へといってしまう。


 道中の相談で俺も戦闘には加わることになった。

 と言っても、俺が相手するのは一匹。アルトがわざわざ俺のために一匹残してくれる。


『ハードバッシュ』であれば一撃で倒せるので時間のロスはない。


 そうこうしているうちに、15階の最終地点。16階への壁に到達した。


 階段を下りて16階の広間に出る。やはり、低階層と違って誰も居ない。さびれたダンジョンだ。


「そうだ、そろそろ魔力がきつくないか?」


 と、アルトは魔力回復薬を出してきた。


「いや、まだ大丈夫だけど……」


「数はあるから心配するな」


「ああ、きつくなったら言う」


「そうか、とりあえずひとつは渡しておく」


 とアルトは俺に小瓶を渡す。


 よくよく考えてみると、魔法回復薬を幾つも持っているってすごいな。

 あれってひとつ5000シドルぐらいする高価な薬だ。

 15階で稼いだ金額の半分ほどが、それひとつで軽く吹っ飛ぶ。


「魔術スキルのLv3での魔法、ヒールであれば5回分に相当する魔力を回復させる効果がある。

 ハルの魔力量がどれだけあるかわからないが、早めに飲んでおくことを薦めるぞ」


 俺は頷いた。

 そうか……。これくらいの階層でも一匹あたり400シドルの儲け。アルトは例外だから除くとして、普通に戦えば、一時間で10匹なんて倒すのは難しいだろう。

 魔術もスキルも無限に使えるわけじゃないから、補給が必要になる。


 折角稼いでも、そういうアイテムに金をとられるんなら、なかなか厳しい商売なのかもしれない。


 それはそうとこの階層では、6回ほど戦闘を行い20数匹の魔物を倒している。

 そのうち俺がスキルを使ったのは、4回。スキルの使用可能回数を数えておいたほうがいいかもしれない。

 いざという時に魔力切れを起こしたらせっかくの魔術が使えなくなるしスキルもそうだ。

 まあ、20階に行くまでには魔力は尽きるだろう。そうなったら、魔法薬が勿体ないからまた見学に戻ろう。どうせ、11階から20階までの魔物の強さは大きくは変わらないだろうし、経験を積むならこの辺でも十分だ。


「16階からは、マッドゴーレムの上位種、ストーンゴーレムが出る。

 スピードは多少上がる程度だが、耐久力がけた違いになるからな」


 と、アルトから軽い注意を受けて、いざ16階層へと進むことになった。

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