Endless
泉野ジュール(Jules)
第1話 Agony
Agony - 01
ヴィクトール、殺された王の息子。
この誇り高い少年にとって、床に這いつくばり、おのれの父を殺した男に仕えることほどの屈辱はなかった。
肉体的な痛みを受けるか屈辱を受けるかを選択する権利を与えられたとき、彼は必ず前者を選んだから、細身の身体は拷問を受けた傷で溢れている。
粗末な麻の服を身にまとった彼は、磨き上げられた大理石が輝く大広間に立ちつくしながら、惨めな思いと戦っていた。
それは、勝ち目のない戦いだったが。
「ほら、これが今日のお前の餌だ。ありがたく食べるんだな。ヘラルドの息子、ヴィクトール」
そして、今日もまた、彼にとっての唯一の食事がべしゃりと床に落とされる。
魚の内臓のようなものだった。
汚臭がした。こんな物はもう食えない──しかし、誇りとは裏腹に、少年の身体は生き延びることを主張していて、この世で最も忌むべき男が床に落としたみすぼらしい食料でさえ、欲しがっているのだ。
豪華絢爛を極めた食卓につく着飾った男は、勝利に酔いしれる獣のような残忍な笑いを浮かべて、ぶどう酒の入った杯を高く掲げていた。
──たしかに奴の勝ちだ。
父は殺され、奴は王座にふんぞり返り、俺は床に這いつくばって奴が落とした腐りかけの餌を食べている。
豚だ、とヴィクトールは思った。俺は豚だ。
本当はとうの昔に死ぬべきだった。
今だって本当は、かつては父のものだったこの床から立ち上がり、男の顔に唾を吐きかけ餌を拒否し、部屋の四隅に待機している近衛兵たちに刺し殺されて、それで名誉を守るべきなのだ。
そのかわり少年は膝を折り、床に顔を近づけた。
「ふははは、これがヘラルドの息子さ! 見てみるがいい、私の足元に這いつくばって犬のように腐った飯を食べてるこの惨めな子が、あのヘラルドの息子だ!」
男は愉快そうに声を上げて、同席者たちに同意を求めた。着飾った4、5人の男女がいて、まったくそのとおりだと少年を嘲り笑った。
涙は出なかった。
ヴィクトールは床に顔をつけ、嘲笑を遠くに聞きながら、生きるために腹を満たした。
Agony - 02
あの日13歳だった少年は、今日、28歳の男へとなっている。
高貴な血を思わせる端正な顔付きは力強いが、しかし、厳しい半生を思わせる皺がすでにいくつも刻まれており、肌は浅黒く日に焼けて猛々しい印象を与えた。背が高く肩幅が広いのも、ただの奴隷とは一線を画すところだ。
彼を美しいと思うかどうかは、人によって意見が異なるだろう。
あまりに男性的な輪郭の線は繊細さに欠けているようにも見えるし、切れ長の目は冷酷さをたたえているようにも思わせる。
しかし、一度彼を見た者は、そう簡単にその姿を忘れられないはずだ。
彼の顔にはいくつもの傷跡が走っている。質素な薄着からのぞく逞しい首筋、腕、足などにはいたっては、顔以上に多くの傷があった。彼は若かったが、その容貌は手負いの老獅子のようで、人を寄せ付けない。
彼が主人に向けて頭を下げるとき、そこには神々しいほどの威厳があった。
ヘラルドの息子、ヴィクトール。
かつてはこの国の王だった男の息子。
ヴィクトールの奴隷としての仕事は、端的にいえば、現王のマゾヒスティックな性格を満足させるためのものだった。『屈辱を受けること』こそがヴィクトールの仕事で、征服した王国の元王子をどれだけ酷く辱められるかが、現王の数多いお楽しみの一つだったのだ。
「ヘラルドはあまりにも簡単に死んでしまったからな」
酒が入ったある夜、ヴィクトールに勺をさせながら、最近ますます傲慢になっている王は言った。「本当はもっと苦しむべきだったんだ……俺の足元にひれ伏し、無様に許しを乞うて這いつくばるまで。ところが奴は名誉の戦死ときた。仕方ない、お前がその代わりというわけさ」
酒筒を持ったまま頭を下げたヴィクトールは、無言で王の独り言を聞いていた。
その昔、この男は父の配下だったという。
それを隣国にそそのかされ、ヴィクトールの父に謀反したのだ。それももう、15年という遠い過去の話だった。
「靴を磨け」
王はだらしなく足を投げ出し、ヴィクトールに命じた。
言われた通りヴィクトールが足元にひざまずくと、王はいきなり足を振り上げ、ヴィクトールの顔を強く蹴った。青年の唇から血が流れ、赤い雫が顎を伝って床に落ちる。
ヴィクトールはうめき声一つ洩らさず、血のみじむ床をじっと見ていた。
「こちらを見ろ、ヴィクトール!」
王はわめいたが、ヴィクトールは動かなかった。「私の顔を見て許しを請うんだ! 私を崇拝しろ、ヘラルドの息子めが!」
それでも、ヴィクトールは王を見上げようとしなかった──。
それがこの傲慢な成り上がり王の気分を損なうことは、十分承知だったが。
Agony - 03
王の機嫌を損ねた刑は、軽いものから重いものまで幾つもの種類があったが、極寒の真夜中に薄着一枚で家畜小屋に繋がれるというのは、間違いなく軽いほうに類されるだろう。
本来なら、煌びやかな王族衣装がさぞ似合うだろう長い手足を藁わらの上に伸ばしたヴィクトールは、静かに夜空を見上げた。
片手は鉄の腕輪で柱に繋がれているので移動はできなかったが、少なくとも、立つか、座るか、転がるか程度の選択の自由はあったので、ヴィクトールは柱に寄りかかって座っていた。
乾いた板目の屋根の隙間から夜空が見える。
黄色い三日月が、何か言いたそうにくっきりと浮かんでいた。
ヴィクトールは夜空を見上げたまま、遠くに浮かぶ星を数えることで寒さを紛らわせていた。星が見えない夜は砂を数えることにしている。そうやって彼は、苦しみを乗り越える術をいくつも身に付けていた。
「一、二、三、四、……」
いつからか、ヴィクトールは、時というものの流れを忘れていた。
それを感じることを放棄していた、とも。
ヴィクトールにとって時間とはすなわち苦痛であり、生きるということは、ただ不名誉な服従を意味した。それも考えうる中で最も不名誉な服従を。
彼が受けた屈辱や傷の数は、夜空の星の数よりも多かったから、誰も数えられない。ヴィクトール自身も。多分、それを与えた現王その人でさえも。
その晩、王はヴィクトールに見張りの兵を付けなかった。
──治安が悪化していると、風の噂がある。
現王はあまり市井に人気がない。
隣国からの傀儡政治がほぼ公然と行われているせいで、庶民からは重税の諸悪の根源と見なされており、中産階級からは目の敵にされている。ただ少数の貴族たちに支持されているのみで、それも大っぴらな賄賂わいろが功をなしているだけだから、地盤は固くない。
しかし、それが何だというのだろう。
ヴィクトールは相変わらず鎖に片手を繋がれているし、家畜小屋の板は隙間だらけで、容赦なく夜風が入ってくる。三日月を見上げながら、ヴィクトールは無言で眠気が襲ってくるのを待っていた。朝になればこの屈辱は終わる。そしてまた、新しい屈辱が始まる。
どこかから人の足音が聞こえたのは、そんな時だった。
やはり、見張りの兵が送られてきたのだろうかと、ヴィクトールは思った。連中には二種類いて、ヴィクトールに同情を示して放っておいてくれるものと、現王の権力をかさに着て乱暴を加えてくるものがいる。ヴィクトールは兵士達と同等に戦えるだけの力があったが、片手を鉄の腕輪で繋がれているとあってはいささか不利だった。
それについて不平を漏らすことは、とうの昔に止めている。
ヴィクトールが立ち上がると、鉄の鎖がカチャリと乾いた音を立てた。家畜小屋の入り口を注意深く見つめてみたが、なかなか兵が現れないので、ヴィクトールは立ったままでいた。
この寒い夜に難儀な任務を与えられたものだと……相手に同情さえ感じていた。
その時。
ゆらりと輝く星色の炎が入り口に現れた。
兵士の持つ松明の明かりとは違う、ガラス枠に閉じ込められた小さなランタンの灯り。ヴィクトールは目を細めた。
「誰かここにいるのですか?」
声がした。
若い女性の声だった。
ヴィクトールが答えないでいると、声の主はランタンを少し持ち上げて、ゆっくりと小屋の中に入ってきた。炎のおかげで、彼女の容貌はすぐ明らかになる。
ランタンの灯りに照らされて現れたのは、それ自体が輝く柔らかいウェーブした長い金髪と、白い肌をした小さな顔だった。
彼女は薄い桃色か水色のドレスを着ていたが、暗闇のせいで色まではよく分からない。肩から濃い色のマントルを背負い、ドレスからのぞく鎖骨のあたりでリボンで留めてあった。
「まあ……」
立ちつくしているヴィクトールを見とめると、女は同情の声を漏らした。
理由はよく分かる。なにしろヴィクトールは麻布一枚をぼろきれのようにまとい、腰の辺りで黒い紐をベルトがわりに結んでいるだけの貧しい格好だった。おまけに片手は銀の腕輪で繋がれていて、牛馬が使う藁のうえに立っている。この真冬の夜に。
「一体何をなさったんですか? こんな場所に繋がれるなんて……ひどい処罰だわ。どんな悪い事をなさったんです?」
なんの躊躇もみせず、彼女はヴィクトールに近づいてきた。
距離を縮めてよく見てみると、女というよりまだ少女というような若い顔をしていた。赤ん坊がそのまま大きくなってしまったような、大きな瞳と小さな鼻、両端がきゅっと上がった小振りな唇。
「運が悪かったんだ」
と、ヴィクトールは言った。
彼女はヴィクトールの前まで歩いてきて、彼の一メートルほど前で立ち止まると、小さな……笑い声のようなものを漏らした。
もう長い間、聞いたこともなかったような甘美な響きの、嘲笑とは違う優しい笑い声。
「よく分かります。時折そういうことがあるわ。運が悪かったのね、兵隊さん」
「俺は兵士じゃない」
「まあ……ごめんなさい、背の高い人は皆、兵隊さんなのかと思って」
女はまた微笑んだ。
ヴィクトールは胃の辺りが絞られたように疼くのを感じた。
「私の名前はローディアナです。家族はみな、ローディアかローディと呼びます。実家の近くにローディアという森があって、それにちなんでいるそうです」
彼女も彼の名前を知りたがっているのは分かったが、ヴィクトールはすぐには答えなかった。彼女は15年前に殺された前王の息子の名など知らないくらいに若く見えたが、あまり早急に身分を明かしたくはなかったのだ。──もちろん身分といっても、今はただの奴隷なのだが。
ヴィクトールが名乗らないでいると、ローディアナは掲げていたランタンを下ろした。
「あなたの腕輪を外してあげられたらと思います」
そう言って、火の灯ったランタンをヴィクトールの前に差し出す。「でも、これがあれば少しだけ温まるはずです。どうか受け取ってください」
ローディアナの顔がランタンの灯りに照らされて、くっきりとヴィクトールの前に現れた。
ヴィクトールは息を呑んだ。
このまま息が止まってもいい──このまま二度と呼吸できなくても、後悔はしない。
長い睫毛に縁取られた大きくて愛らしい瞳に見つめられて、ヴィクトールは本気でそう思っていた。ローディアナは美しかった。夢でさえ見たことがないほどに。
「それで、君はどうする? ランタンの灯りなしで帰れるのか?」
ヴィクトールは聞いた。それとも少しの間でいいからここにいて、一緒に過ごしてくれないか……。そんな別の質問は声に出さなかった。
しかし、
「本当のことを言うと、帰りたくないんです」
ローディアナは言った。
「少しの間、ここにいてもいいですか? あまり話し上手ではないですけど、そこにいる牛たちほど退屈はさせないと約束します」
気が付くとヴィクトールはうなづいていた──息を止めたまま。
その夜、二人は一晩を薄汚れた家畜小屋で一緒に過ごした。
ローディアナは小さい頃、両親の所有する別荘で過ごした休暇の話や、ローディアの森の話を沢山した。いつ歯が抜けたとか、どんな悪戯をしてどんな罰を受けたとか、そんな些細な小さいことも交えながら。その間ヴィクトールは自身のことを何も語らなかったのに、彼女は無理には何も聞いてこなかった。
ヴィクトールも、なぜ彼女がこんな場所に居たがるのか、聞かなかった。
夜よ、明けないでくれ。
時よ、このまま動かないでくれ。
ローディアナ……ローディアナ……ローディア。
もし俺が王だったら、君を王妃にしよう。
Agony - 04
ローディアナとの幸せは、訪れたときと同じくらい突然に去っていった。
翌朝、ローディアナが去ってしばらくしてから、迎えに来た兵に連れられて王宮に戻ると、そこには憎むべき王がいて……その隣に、美しいローディアナが立っていたのだ。
ヴィクトールが現れた瞬間のローディアナの顔を、彼は一生忘れないだろう。
桃色の頬が蒼白になり、瞳は驚愕に大きく見開かれ、唇は開かれたまま震えていた。
「ローディ」
王が言う。「これがその卑しい前王の息子だ。覚えているかい? 昨日話しただろう。小さい頃はよく泣いて私に命乞いをしたものだ。今も私の靴磨きと晩の勺が仕事さ」
泣いたことも、命乞いをしたこともない……が、王はヴィクトールを卑しく扱うのが好きで、こうして人前で彼を侮辱するのはいつものことだった。逆らえばまた刑罰が待っている。今ではもう、傷付くこともなくなっていた。
今、この瞬間までは。
怒りに手が震え出すのを感じて、ヴィクトールは強く拳を握って立っていた。
桃色のドレスを着たローディアナは王座の横で、きちんと両手を組んでそろえて立っている。王とは親子以上に年が離れていそうに見えた。
ローディアナ。
たった一晩、寂れた家畜小屋で共に過ごしただけの少女。
しかしヴィクトールの血は、すでに彼女への所有欲を叫んでいた。王! 俺はお前の奴隷だ、それでいい。それで構わない。ただ、ローディアナの隣に座ることだけは許せない──。
しかし、いつもどおり、運命はヴィクトールに優しくなかった。
ローディアナの腰に腕を伸ばした王は、卑猥に口元をゆるめてみせると、聞いたこともないような気味の悪い猫なで声でローディアナの耳元にささやいた。
「ローディ、私の小さな婚約者、この男がどうやって床に這いつくばって私の靴を磨くか、見ていなさい」
『屈辱を受けること』
これこそが、ヴィクトールの残された王子としての仕事だった。
そんなことは知っていた。そんなことは分かっていた。
15年……15年だ! それだけの間、ヴィクトールは確かに耐えてきたのだ。どんな暴力にも、どんな屈辱にも、自分の中に残された誇りだけをよりどころにして、涙一つ見せなかった。
しかし、ローディアナの目の前で王の側に膝を折り、もう何千回もしてきたように奴の靴を磨き、さらなる屈辱を受けるとき──ヴィクトールの中で何かが壊れていった。
どうやって逃げ出したのかは分からないが、最初に靴磨きの『儀式』 を見せられた日の晩、ローディアナは警備の目をかいくぐって回廊を歩くヴィクトールを呼んだ。
「待って、ヴィクトール……お願い」
後ろから声がして、ヴィクトールは足を止めた。
が、振り返りはしなかった。柱の影から出てきたローディアナは、立ち止まったヴィクトールに素早く近付いてきて、声をひそめながら続けた。
「知らなかったの……あなたがあの王子だったなんて。王はひどいわ。あなたを傷つけるためだけに、あんな仕事をさせてる。私、」
緊張で震えるローディアナの手が、ヴィクトールの腕に触れる。「私……ごめんなさい、あなたを守りたかった。王に止めてと言いたかったの。でも……私には家族がいて……」
苛立っていたヴィクトールは、ローディアナの説明に耳を傾けてやれるほど忍耐強くなかった。
──何の約束をしたわけじゃない。
ローディアナは一切ヴィクトールに責任を感じる必要はなかったはずだ。同じように王と一緒になってヴィクトールをあざ笑った人間はいくらでもいる。それが心からの嘲笑であっても、王に対する義務であっても。
それでも、ヴィクトールはどうしてもローディアナが許せなかった。
パシッと乾いた音と共に、ヴィクトールは震えるローディアナの手を振り払った。
「言いたい事はそれだけか」
乾いた冷たい声で、ヴィクトールは唸るように言った。
「ヴィクトール……聞いて、お願い」
「ああ、分かっている。殺された王の息子、哀れなヴィクトール、現王の前で家畜のように這いつくばって靴を磨く小汚い奴隷──」
「違うの、ヴィクトー……」
「俺の名を呼ぶな!」
ヴィクトールは声を上げた。「俺の名をその汚い口で呼ぶな! 時代さえ違えば、お前など、俺の前に出てくることさえ許されないんだ!」
今までヴィクトールはこんな風に考えたことも、ましてや叫んだこともなかった。『時代さえ違えば』、『父さえ殺されなければ』。そんな仮定の話は空しいだけだ。現実は目の前にある事実だけだ、と。
ヴィクトールは振り向いてローディアナを見下ろした。
柔らかい金髪が流れるように垂れて、小さな、どこかの人形のように愛らしい顔を縁取っている。その大きな瞳は悲しそうに歪み、涙で潤んでいた。
まだ子供のようにさえ見える。
間違っても、あの王の婚約者とはとても思えない──。
「金か、女? 腐敗した貴族連中のように、奴がばらまく金に目が眩んだか? その少しお綺麗な顔を使って、豪華なドレスに舞踏会と楽しみたかったんだろう? ついでに哀れな奴隷を小馬鹿にして、いい気になってみせるというところか!」
「違うわ!」
「嘘を吐くな!」
激しいヴィクトールの怒声にローディアナはびくりと震えた。回廊の脇に控えていた警備兵が騒ぎを聞きつけ、こちらへ向かってくる。ヴィクトールは声を落とした。
「笑いたければ笑えばいい。あの醜い王と一緒になって、蔑められるだけ俺を蔑めればいい……。そうやっていられるのも今のうちだけだ、この娼婦が」
ローディアナはまるで胸に剣を刺されたような顔をした。彼女の瞳は淡い茶色だったことに、ヴィクトールはその時気が付いた。
──たった一晩だけの邂逅が、人生を変えることなどあるのだろうか?
答えは是(イエス)だ。
誰よりもよくそれを理解しているのが、ヴィクトールだった──父を殺された晩。ローディアナに出会った夜。すべて一瞬でヴィクトールの人生を真っ逆さまに突き落とした。
王は凡庸でつまらない男であったが、人を苦しめるという一点においてのみ、類稀な才能を持っているらしかった。
その日を境に、ヴィクトールは必ずローディアナの前で侮辱されることになったからだ。
「ごらん、ローディ。前王の息子が私の前にひざまずいている」
昔のように、床に落とされた食事を食べさせられることもあった。痛めつけられることも。もちろん、靴磨きも続く。いつからかローディアナは王と一緒にその光景を楽しんでいるように見えた。それを王から強要されているのか、本当に彼を嘲っているのか、ヴィクトールにはもう分からなかくなる。
憎しみはつのった。
憎しみは膨らみ続けた。ローディアナ。
どうして君はその王の隣にいる? どうして君はいつも俺を見ている?
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