第37話 黄金色の騎士
洞窟は一本道で、アボイドがいる様子も無い。肺に纏わりつくような湿気と淀んだ空気が、暗い洞窟内に沈殿している。
ややあって、道は石室のように広がったスペースへと繋がっていた。
「こりゃ、行き止まり……ですかね?」
四方にランタンを向けながらフェリックが言う。
石室の対面には奥へと続く大きな道が口を開けている。だが、そこには進行を阻むように、錆びた金属製の鉄格子がはめられていた。
「いや、見ろ。扉になっている」
ウォルフガングが鉄格子の一部を指差しながら言う。確かに、そこの部分だけ鉄格子が扉になっていた。しかし……
「鍵が掛かってますな。錆びてるが、中々に頑丈そうですぜ」
「他に道は無い、か……。おい、何か進む方法を考えろ」
ウォルフガングは言いながらランタンを掲げ、辺りを観察した。
ランタンの光が照らしているはずの天井には暗闇が広がっている。自分たちの声がかなり反響している事から、この石室は吹き抜けのような構造になっているのかも知れない。
すると、真っ暗だった頭上の空間で何かがきらりとランタンの光を反射した。
「ん……?」
怪訝な顔でウォルフガングがランタンをさらに高く掲げる。
金鉱だろうか。いや、違うようだ。何故なら段々と大きくなって――――
「う、うわぁぁぁ!」
悲鳴を上げながらウォルフガングが横っ飛びに転がる。
それと同時に、金色の巨大な『何か』が洞窟の地面を叩き割りながら着地した。
「な……なんだコイツぁ!?」
傭兵たちも驚愕の声を上げる。
ランタンの頼りない光が、ぼんやりと『それ』を照らす。
頭上から降ってきた巨大な金色の塊。それは異様な姿かたちをしていた。
見上げるような体高。獅子のような四つ足の下半身から、人型をした上半身が生えている。肩部から逞しい腕が二対ずつ計四本生え、それぞれが無骨な大剣や大斧を握っていた。
そして、本来頭部があるべき部分には何も無い。
全身に大量の金鉱石を纏わりつかせ、長い年月で磨き上げられたのか、それはまるで黄金の甲冑のようだった。
「ア、アボイド……!? いや、こんなにデケェのは見たことが――!」
獅子の身体を持ち、金色の鎧を纏う首なしの騎士。
それは、アボイドと言うには大きく、比にならない程の『威圧感』を放っていた。
顔の無いそれの視線を感じることは出来ないが、それはゆっくりと傭兵たちと尻もちをついて怯えるウォルフガングの方に向き直った。
「そうか、こいつがクラスター……! 〈ゴルドベルグ〉か!」
フェリックがそう言って剣を抜くと、他の傭兵たちも続いて武器を構えた。
背後は施錠された鉄格子。退路は黄金の騎士ゴルドベルグによって塞がれている。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
ウォルフガングが恐慌しながら銃の引き金を引く。発砲音。
しかし、放たれた銃弾はゴルドベルグの甲冑の表面で火花を散らしただけだった。
「ば、バカなッ……!?」
立て続けに発砲。狙いも定められていない射撃は、甲冑に傷一つ付けることが出来ない。
「効いてねぇぞ旦那……!」
「そんな! そんな……!」
数発打ったところで引き金がカチカチと空を切る。
「あ……あぁ……!」
慌ててバックパックから弾丸を取ろうとして鞄の中身をぶちまける。
慌てて拾って弾を込めようとするが、手が震えて上手くいかない。
人間を観察するかのように停止していたゴルドベルグが、鎧を軋ませながら大剣を持つ腕をゆっくりと引き絞る。
「くそ……! お前ら、やるしかねぇぞ!」
先手を取るべく傭兵達が一斉に動き出した。
その瞬間――ゴルドベルグの大剣が恐ろしいスピードで突き出され、一人の傭兵に襲いかかった。
「あっ!? あ、ああぁぁっ……! 腕が……腕がぁ……!」
のたうち回る。ランタンの明かりが揺れる。
「糞ったれぇ……!」
甲冑に守られていない場所を狙ってフェリックが斬りかかるが、それでも獅子の身体の硬質な獣毛が深く傷つけることを許さない。
ゴルドベルグが大斧を大きく振りかぶり、旋風のように横に薙ぐ。
「ぐぉぉぉ!」
誰かの悲鳴が洞窟内に響く。ランタンが転がって消える。
「はぁ……! はぁ……!」
阿鼻叫喚の中、ウォルフガングは震える膝を何とか動かしながら鉄格子の扉へと走った。
大きな南京錠が依然逃げ道を閉ざしている。
「頼む……! 壊れろ! 壊れてくれ……!」
ガタガタと震える銃口で南京錠を狙うと、込めた弾を全て発射した。
背後から男たちの怒声と断末魔の悲鳴、そして甲冑の軋む恐ろしい音が響いてくる。
何とか最後の一発で南京錠が弾け飛んだ。
「やった!」
ウォルフガングは背後を振り返ることも無く、一目散と通路へ逃げ込んでいった。
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