第13話 檻の入り口
ひと気の無い廊下を、ウォルフガングと男の修道士に挟まれるように歩かされる。やがてセンリが連れて行かれたのは、エルと最後に別れた司教の執務室だった。
ウォルフガングはセンリを部屋の真ん中に立たせると、紫檀の大きなデスクから一枚の古びた大判な羊皮紙のようなものを取り出し、デスクの上に広げた。
修道士は扉の前に直立不動で待機している。
「鍵を」
ウォルフガングが言うと、修道士が扉の鍵を後ろ手に施錠した。
「さて。今から、いくつか質問をします。知っていることは全て答えてください」
ウォルフガングが穏やかにそう言って、ゆっくりとデスクの椅子に腰掛ける。
「あの……、一体――」
状況が飲み込めていないセンリがおずおずと尋ねる。が、ウォルフガングはまるで耳に入っていないかのように言葉を続けた。
「ここに来るまでにあったことを、全て話してください。これは貴方を救うために必要なのです」
にっこりとした笑顔で諭すように言う。
「は……はい。えっと、森の中でエル……エルランドと会って、助けてもらって、それから歩いてレッジェーロに――」
「その間に、どこかに立ち寄った筈では?」
「……どこにも。森を出て街に着きました」
センリは自分にできる最大限の平常心でそう言った。
エルランドとの約束なのだ。〈生命の胎動〉の話は誰にも話さない、と。
「本当ですかな?」
「本当です」
「ふむ。そうですか……」
ウォルフガングが眉尻を困ったように垂れ下げながら呟く。
「はい。その後、エルに連れられて馬車に――」
信じてくれた。センリが危うく安堵の表情を浮かべそうになるのを我慢しながら先を話しはじめると、
「嘘をつくな!!」
話の半ばで、ウォルフガングの声が鋭い響きを発した。ウォルフガングの手が『ダァン!』とデスクを目一杯叩く。
「ひっ……」
俯きがちに喋っていたセンリが、びくっと彼の顔を見上げる。その顔に先ほどまでの柔和な笑顔は浮かんでおらず、痩け気味の頬の上からは鋭い眼光が突き刺してくるようだった。
「嘘をつくんじゃないぞ……! 〈神器〉に出会ったはずだ!」
「そ……そんな、わたしは何も……!」
「小賢しい……! 貴様が〈鍵〉だということも、こちらは既に分かっている! さぁ、言え! 他の〈神器〉について貴様が持っている知識を!」
「何も……、何も知りません!」
後退りながらかぶりをふるセンリに憎悪に近い視線を投げかけながら、ウォルフガングはゆっくりと椅子から立ち上がった。片手にはデスクに広げていた羊皮紙が握られている。
「まぁいい。この〈音詠みの聖譜〉で強制的に神器と交感させれば、全て分かる」
ウォルフガングは吐き捨てるように言ってセンリの目の前まで歩いてくると、その腕を掴んだ。
「いやっ! 助けて、エル……!」
「ふん。あの気に入らん眼付きのフィエールならもう帰ったぞ。金を受け取ってな。『面倒事が終わって良かった』とか言っていたかな」
「嘘……嘘だよ、そんなの!」
「そんなことはどうでもいい! さぁ、『聖譜』に触れろ!」
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