第10話

 それから三日経った。彼女の容体も安定している。もう問題はないだろう。大量出血はあったものの彼女は致命傷は全て避けていた。しばらく静養すれば元の生活にも戻れるだろう。医者たちも「まさか君みたいな少女が一人で熊を撃退したとは」と驚いていた。彼女は『戦士』とはいえ見た目はただの美少女だ。驚かれるのも無理はないだろう。

 病室の中で僕は尋ねた。

――戦闘中の記憶がほとんどないんだけど。

 彼女はベッドの上に横たわったまま、横目で僕を見ながら言った。

「貴方は最初の一撃の後、反撃をくらって気絶していたわ」

――………………

 案の定の答えだったが、さすがに情けない。

「一度だけ立ち上がったけどね……」

――え?

 その言葉をきっかけに記憶が蘇る。確かに僕は一度意識を取り戻した気がする。しかし、それは夢かと思っていた。

「一応、礼を言っておくわ。あれがなかったら危なかった……かも」

 僕はこのとき確かに歓喜の念にうち震えていた。僕の事を情けないと思う人もいるだろう。もしかしたら、それなりに頑張ったと評価してくれる人もいるかもしれない。しかし、そんな凡百の評価よりも彼女からの感謝が何よりも僕は嬉しかった。やっと僕は彼女の役に立てたのだ。

 もちろん冷静に考えれば、それは彼女なりのリップサービスかもしれない。僕に気を使っただけかもしれない。僕の助力なんかがなくても彼女は勝っていたのではないか。それでも、この瞬間の僕は、確かに喜びにあふれていた。

 やっと報われた。そう思った。僕は彼女の傍に居たかった。隣に立ちたかった。この狂った世界で、彼女を一人で行かせたくはなかった。でも、ただの足手纏いは隣に立つことはできない。だから、強くなりたいと思ってきたのだ。

 もちろん、僕はまだ弱い。でも少しずつ成長している。彼女の役に立てている。それだけで僕がこの世界に生まれた価値は確かにあった。そう思えた。

「ねえ……」

 彼女が口を開きかけた一瞬のことだった。

 そして、この物語は終焉を迎える。

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