第9話
次に目が覚めたのは夜明けだった。もう二度と目覚めないことも覚悟していたのだが。
全身に響く激痛が再びを僕をブラックアウトさせようとしてきたが、ここで寝たら本当に死ぬ。僕は全身に力を込めて立ち上がる。
酷い光景だった。辺り一面が血にまみれていた。おそらく彼女と僕、『魔物』のものだ。鼻をつく臭気に当てられ、吐きそうになる。何とか堪えて周囲を見渡す。目が霞み、状況の把握も困難。それでも一刻も早く戦況を確認せんとする。
視線の数メートル先。居た。『魔物』だ。
一瞬、僕の身がこわばる。しかし、『魔物』は何の反応も示さない。
慎重に回り込み、確認する。
死んでいる……。
サイズが通常の熊のものになっている。死骸である証拠だ。
胸を撫で下ろしたのも束の間。気付く。
その死骸の正面の先。僕の方からは『魔物』の死骸に隠れた先に居た。
彼女だ。
服も、髪までもが真っ赤に染まった状態で倒れている。
僕は倒れそうになる身体に鞭打ち彼女に近づく。数メートルが遠い。僕の身体は満足に動かなくなっている。早く、早く。彼女を助けないと……。最悪の結果が頭をよぎる。そんなことはあり得ない。彼女は『戦士』だ。強いんだ。この狂った世界の中で唯一正しい存在なのだ。そんな彼女が死ぬはずないじゃないか……!
僕は何とか彼女の傍に辿り着き、その肌に触れる。
まだ温かい。脈もある。
僕は胸を撫で下ろす。しかし、予断を許さない状況であることは間違いない。早く山を下りて治療しなければまずい。
「今回は……手こずったわね……」
――意識が?!
「なんとか、ね……。これはさすがに病院行きね……」
僕達は一応犯罪者だ。普段は極力病院は避けていた。
「行きましょう……」
その後、下山し、病院までたどり着けたのは奇跡と言って良かった。いつ死んでもおかしくないような状況だったらしい。「どうしてこんなことになったのか」と当然聞かれたが、「熊に襲われた」と言って切り抜けた。実際、熊の死骸は転がっているのだから、嘘はばれないだろう。彼女は緊急入院することとなった。
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