第6話

「お一人様ですか?」

「二名よ」

「ではこちらの席へどうぞ」

 僕らはファミリーレストランを訪れていた。どこの街にでもある有名なチェーン店だ。僕達は二人、席につく。

「こういうのもたまにはいいわね」

 もちろん普段はこんな散財をしない。基本的に食事は廃棄されるコンビニ弁当をこっそり頂戴している。廃棄にもコストがかかる。文句を言われる事はあまりない。空き巣で得た金は最低限購入せねばならない衣類や生活雑貨、交通費のために当てられた。基本的には野宿だが、少なくとも何日かに一回は宿をとる。銭湯が見つかればいいが、そうでない場合、シャワーを浴びるのは宿をとらねば難しい。彼女は女の子だ。何日も風呂に入らないのはさすがに我慢ならないらしい。大抵泊まるのはいわゆるラブホテルになる。僕は記憶喪失で身元が不確かだし、一応彼女も犯罪者だ。下手に足跡を残したくはない。そういう意味でフロントに人がおらず、鍵を取りさすればいいラブホテルは便利だった。もちろん、そこでいわゆる期待されるような色っぽい事は何一つ起こらなかったが。

 昨日の空き巣は思った以上の成果があった。だから、たまには少しくらいまともな食事をしようということになったのだ。そこでファミレスを選ぶあたり貧乏症の気が抜けないが。

 僕はメニュー表に目をやる。何にしようか。

「私は決めたわ」

――僕ももういいよ。

 彼女は卓上のスイッチを押して店員を呼ぶ。

「お決まりでしょうか?」

「抹茶パフェ」

――そんなもの昼御飯に食べるの?

「良いでしょう別に。貴方は?」

――ハンバーグで。

「あとはハンバーグね」

「はあ、かしこまりました」

 注文を取りに来た店員は怪訝な顔をして去っていった。

「ハンバーグって……餓鬼ね」

――抹茶パフェを昼食にする人間には言われたくないな。

「まあ、いいわ」

 彼女は話を打ち切った。そして、席を立ち、入口付近のラックに置いてあった新聞を手にし、席へと戻ってきた。この辺りの地方新聞だ。そして、しばらく無言で新聞をめくった。

「昨日のあれはニュースにはなってるわね」

 「昨日のあれ」とは僕達のした空き巣の事だろう。できうることならこうやって新聞なんかで警察がどこまで嗅ぎつけているのかを情報収集をする。僕達の手口は、ばれるのは前提のタイプの空き巣だ。当然通報はされているだろう。ニュースになっているなら早めにこの町を離れた方がいい。

 この町の外れに後一匹『魔物』の気配が居るというのが、彼女の談だ。今夜にもそれを退治して次の町へ向かうべきだろう。

「まったく物騒な世の中ね……」

――ははは。

 僕は乾いた笑いを漏らした。少なくとも犯罪者が言う台詞ではない。

「この地方、ただの田舎町だと思っていたけれど意外に物騒ね。今月だけで三回ひき逃げ事件が起きてる。交通事故も多いわね。ペットの死骸なんかも出てるみたいだし。あと、誰かが電線を切ったせいで停電も起きてるわね……」

――それは笑えないな……。

 最後のをやったのは僕たちじゃないか。数日前に犬型の『魔物』を倒すときに電線に叩きつけてしまったから。

「全くどこの誰でしょうね。こんなことをやるのは」

 彼女は悪びれもなく言った。彼女が自分のやっていることを本心ではどう思っているのかわからない。だが、こんな風に平然と話題に出せるあたり、少なくとも僕よりは豪胆だ。罪の意識がないわけではないと思うが、もう割りきってしまっているのだろう。そうでもしないとこんないつ終わるともしれない流浪の生活は続けられない。

 何気なく店内を見渡す。今は平日の昼間。客はそれほど多くない。テストか何かで早めに授業が終わったのだろうか、学生のグループが数組居た。そのうちの何人かがこちらの方をちらちらと見ている。彼女は目立つ容姿をしている。こんな風に注目されるのも無理ないだろう。今日の彼女はゴスパンク風の衣装だったから余計に目立つのかもしれない。わりと派手な格好を好むのだ。衣装代は馬鹿にはならなかったが、彼女を包む服だ。金をかけないわけにはいかない。その分、僕の服や食事代にしわ寄せが来ているが文句は言うまい。それにこんな目立つ恰好をしている人間が空き巣だと誰も思わないだろう。

「お待たせいたしました」

 そうこうしているうちに注文した料理が届き、僕らは食事を始めた。

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