第2話
彼女は闇を裂いて駆けた。
鈍く光を映す銀色の刀身。彼女の持つ太刀に切れぬものなどないだろう。
一閃。彼女は自身の身の丈とさして変わらぬほどの大太刀を軽々と振り下ろした。
しかし、敵とて一筋縄ではいかない曲者。彼女の一撃を転がるようにして回避する。
僕達が戦っている相手。そう『魔物』だ。
四足で地に立ち『魔物』は僕らを睥睨する。一見するといわゆる「犬」のようなフォルム。しかし、その身の丈は四半メートルはあるだろう。禍々しく狂いを秘めた赤い瞳。吸い込まれそうなほど黒く逆立つ毛並み。ぬめりとした唾液を滴らせる鋭い牙。あれに触れればただでは済まないだろう。まともにくらえば一瞬で肉体を持っていかれる。間違いなくあの世行きだ。
僕達が居るのは住宅街の外れ。察するに新興住宅街の建設前の土地と行ったところか。住宅街のデッドスペース。それなりの広さはある。こんな夜中に人通りはないが、早めにけりをつけるに越したことはない。できるだけ一般人を巻き込みたくない。面倒なことになる。
「次、来るわよ!」
彼女の警告の直後、『魔物』は僕らに突っ込んでくる。
僕の眼前数センチのところに『魔物』の牙があった。よく「目にも止まらぬ速さ」なんて比喩があるが、まさにそれだ。少なくとも僕の目には『魔物』の挙動は捉えることは叶わない。
『魔物』の牙を彼女は大太刀で受け止めている。
その牙に僕の頭が貫かれずに済んだのは、僕と『魔物』との間に、大太刀を構えて瞬時に割り込んだ彼女のおかげに他ならない。僕は足手纏いでしかない。それはとっくに自覚していたことだ。彼女の足を引っ張る真似だけは避けたいと思っていたがこの様だ。しかし、今考えるべき事はそんなことではない。
僕はコンクリートの上を無様に転がりながら後退する。これ以上彼女の足を引っ張るわけにはいかない。
僕は倒れこみながらも彼女を見る。彼女は振り向きもしなかったが、気配で僕が距離を取ったことを悟ったのか。
「はっ!」
一歩足を引く。そのまま『魔物』に向かって正面に相対していた身体をひねる。『魔物』の側面に回るように身体をさばきながら『魔物』自身の勢いを利用して跳ねあげるように『魔物』を投げた。巨躯の『魔物』が宙を舞う。
だらしなくコンクリートの上に倒れこんだ僕の頭上を『魔物』が吹っ飛んでいく。僕は咄嗟にその行く先に目をやる。見上げたその先にあったもの。
電柱。
カタパルトから飛び出す戦闘機のような勢いで『魔物』は電柱から伸びる電線に叩きつけられた。電線には当然電流が走っている。
瞬間、パァーンという破裂音、炸裂する火花。
呆気にとられている僕を飛び越え、
「でやぁぁぁぁ!」
力なく落ちる『魔物』に彼女は大太刀を振りおろした。
『魔物退治』。それが『戦士』である彼女にとっての日常だった。
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