第38話 強襲(1)
異世界『ウル』に存在する大陸の中で最大級の面積を誇るバレット大陸。
その大陸の中でも数少ない中立国の一つである『バルト永世中立王国』の現在の季節は冬であり、朝にチラついていた雪はすっかり上がり、空は快晴だ。
雪が積もっておらず、外気温が寒くなければ家族や恋人、友人らと何処かへ散歩に出掛けたり市場に買い物に行きたくなるような綺麗な青空が広がっている。
そしてそんな快晴であるにも関わらず、何処からか雷鳴のような音が響いていた。
場所は王都テルムから離れた郊外の住宅街。
その住宅街から少し離れた街の外れ辺りから散発的に破裂音が響いている。
しかし、その音はよく耳を澄ませれば雷が避雷した際に発生する衝撃音とは似ても似つかない音と共に、何者かの怒声も複数聞こえたことだろう。
陣太鼓の鳴る音をもっと甲高くしたような連続して響く乾いた音。
時折その音に混じってものすごい質量を持つ岩のような何かがぶち当たって砕けるような音が鳴り響き、直後に黒い煙が空へと立ち上るが、もし地球の軍人や警察官辺りがこの音を聞いたらこのように言うことだろう。
――――『まさか、この音は銃声か?』と……
◇
雪の上にラッカー塗装が施された
旧ソ連製のAK47を基礎として発展したフィンランド軍の最新主力小銃であるRK-95が採用されたお陰で旧式化したRK-62ではあるが、 一丁あたりの調達価格が高いためにフィンランド軍全軍に充分な数量が行き渡らないRK-95に対し、まだまだ数の上では軍の主力であるRK-62を現代の戦闘に適応させるために改良され延命措置を施されたRK-62
そのRK-62M3のボルトキャリアーが目にも留まらぬ速さで前後するたびに撃ち終わり、軍用ライフル弾の撃発時に発生する発射ガスによって煤けた空薬莢が飛び出して宙を舞い、音もなく雪が積もった地面の上に落ちる。
時折、先に落ちていた空薬莢と新たに落ちてきた空薬莢とが接触してコインとはまた違った独特の金属音が響くが、その音は暴力的とも言える銃声に掻き消されてしまう。
マズルフラッシュを瞬かせる独特の形状を持つフラッシュハイダーが指向しているのは鎧を着た男達。RK-62M3に搭載されたダットサイト内には赤い光点が灯り、その光点が男達に重なった瞬間、ダットサイトは銃声が響くと同時に激しく振動した。
一瞬ダットサイト内から男達の姿が外れるが、ダットサイトが元の位置に戻った時には数瞬前に映っていた男達の内、何人かはそこには存在してはおらず、別の男達が代わりとしてダットサイト内に映し出される。
銃弾が無くなり空になった弾倉を捨てて、代わりに新しい弾倉を自動小銃に給填する直前、一瞬だけ銃から前方へと視線を移して銃撃を行なっている
未だ無事に自分の足で地面の上に立ち、木箱や曳き馬の存在しない横倒しにされた荷馬車を遮蔽物にして恐るべき脅威から身を隠している男達の足元には彼らの同僚達が数人、上半身を血塗れにして地面の上で物言わぬただの肉塊と化している。
死体となって地面に積もった白い雪を赤く染め上げているのは、どれも均一化された鎧を纏った男達。そのどれもが目を背けたくなるような惨状で雪の上に横たわっており、顔に付着した血液を拭い去り兜を被り直そうとしていたところ、眉間の間を撃ち抜かれた際に解放された軍用ライフル弾の衝撃力によって両目がポッコリと前方に押し出されて後頭部が吹き飛ばされ、顎の筋肉の力が抜けて開いたままの口から舌がダラリと飛び出して死んでいる者。
喉元を抉るように弾丸が命中したため、噴水のように流れ出る血をどうにか止めようと両手で必死に傷口を抑えたまま、地面の上を文字通り転がり回った挙句、苦悶の表情をその顔に貼り付けたまま死んでいる者。
運悪く木箱を貫通して来た銃弾に手甲ごと木っ端微塵に左手を吹き飛ばされ、仲間による応急処置で傷口に止血のための布を充てがわれたが、一向に止まる気配の無い流血のために真っ青を通り越して顔面を蒼白にし、今にも死地に赴かんとする者。
魔導士から放たれる攻撃魔法をある程度無効化出来る特殊な紋様が彫り込まれた盾や、一見すると地味に見られがちな対抗性魔法処理が施された魔鋼金属鎧ごと体を小銃弾で撃ち抜かれて背中や口、鼻、時には耳からも血を流して遮蔽物に身をもたれ掛けたまま死んでいる者などなど死屍累々の様相を呈している。
しかし、これらの死体となった者達はまだ
時折、障害物を避けるように上から投げ込まれてくる破片手榴弾によって防具を装着した手足やフェイスガードなどで防護されていない顔面を炸裂した手榴弾の破片によってズタズタに切り裂かれて爆風で潰され、身元の判別が困難な状態の死体や、至近距離で爆発した手榴弾の爆風によって破片で痛みを感じる前に頭部を兜ごと何処かに吹き飛ばされた死体もあった。
「班長死亡!
以降の指揮権は先任軍曹が引き継ぎました!」
「魔導士を引き連れた『特任』の到着はまだか!?」
「伝送器で連絡を取りましたが、到着まであと十分とのことです!」
「よし! それまで持ちこ…………」
指揮権を引き継いだ先任軍曹が指示を飛ばそうとした矢先、遮蔽物として利用していた荷馬車の荷台の分厚い木の板をブチ抜いた軍用ライフル弾が彼の側頭部に命中し、そのまま左眼へ向かって貫通して行く。一瞬にして先任軍曹の命を奪い、脳漿と頭蓋骨と破裂した左の眼球を雪の上にぶち撒けながら彼の体は崩れ落ちた。
「…………先任軍曹戦死!」
「何なのだ、あの武器は!?
木材どころか荷馬車の硬い車軸まで粉砕するとは、一体どんな魔法を使えば一瞬でああなる!?」
連続して響く銃声に混じって男達の怒号が交錯する。
バルト永世中立王国軍のとある部隊に所属する男達――――王国軍本営直轄師団第六歩兵連隊第六特科中隊・強制介入班、通称『介入』の兵士達は突如出現した地獄により未だ嘗て経験したことのない窮地に陥って
いた。
そして、迂闊に身を晒せば自分達の上官や同僚らと同じ運命を辿ると理解しているために、その場から動けずにいる。
そして戦場の悪魔は更に彼らを地獄へ引き摺り込まんと次の一手を打つ。
先程から絶え間無く続いていた銃声が止み、周囲に静寂が訪れた。
まるで、新たな嵐の到来を予見させるかのように……
「終わった……か?」
「アレだけ派手に攻撃してきたんだ。 とうとう攻撃の手が尽きたか?」
恐る恐る周囲を警戒しつつ態勢を整える介入の兵士達。
誰が命令したわけでもないのに即座に態勢を整え、反撃の機会を伺うのは流石という他ない。
普通の兵士であれば、先程の恐るべき攻撃によって心折られ敵前逃亡という愚を犯していたことだろう。
しかし、彼らは厳しい訓練に身を投じ、常に死と隣り合わせの実戦を経験して来た猛者達だ。
今まで経験したことのない正体不明の攻撃を前にしても新たな命令が下されない限り、『撤退』の二文字だけは有り得ない。
だが、彼らは自己の判断でここから大人しく撤退するべきだった。
どんなに後ろ指を指されようとも、どんなに笑われようとも撤退するべきだったのだ。
一向に自動小銃による射撃で完全に制圧することが出来ない介入の兵士らに対して、業を煮やした
慈悲の心を持つ者がいたら兵士らに逃げるように忠告しただろう。
銃に詳しい者がその光景を見たらこれから起こるであろう惨劇に目を覆うことになる。
兵士らに向けて照準を定めようとしている
距離にして約30メートルほどの場所から兵士達を障害物越しに狙っている銃。
ソレはロシア連邦軍の主力重機関銃で、正式名称を12.7mm重機関銃『Kord』という銃であった。
◇
朝ポツポツと降っていた雪はすっかり上がり、空は一面真っ青な快晴。
太陽の光が降り注いで少しずつ雪が溶け始めている。
「うん。 良い天気だ」
「そうね。 こういう日は市場に買い物に行きたいわ……」
「え? アゼレアって大公家のお姫様でしょ?
普通、市場には侍女の人とかが行くんじゃないの?」
「そうでもないわよ?
他国の貴族やその子弟については知らないけれど、私達魔王領の貴族では普通のことよ。
子供ならまだしも私くらいの年齢になれば、爵位持ちの家の娘であっても普通に市場や街に行って買い物や食事を楽しむわよ。
まあ、護衛や家の者が付いて来るのが前提だけれど……」
「へえ~」
「それで言えば、市場や街中だけではなく山や海も同じね。
護衛は必ず付ける必要はあるけれど、気の合う友人らと連れ立って遊びに行ったり観光に出掛けることだってあるのよ。
まあ私の場合、軍に勤めているからそんな機会は本当に数えるほどしかなかったけれど。
暇を持て余している貴族の子弟達は市井の友人達を別荘に招いて最近流行してる『
「ふーん……」
結構、魔族の貴族階級の子弟達はアクティブかつフレンドリーらしい。
てっきり、屋敷に籠って特定の友人以外とは会わなかったり、買い物は召使いの者が行ったりとかしてるものと思っていたが現実は違うようだ。
(それにしても市井の友人とか結構交友関係が広いんだな。
まあ護衛付きとはいえ、街や市場に買い物や食事に行くくらいだから当然と言えば当然か?)
「それにしても、建物の中にいる間に天気が快復して本当に良かったわ。
これで吹雪にでもなっていたら、あの娘達の移送が出来なくなっていたかも……」
「ああ、そうだね」
アゼレアの話に思考を現実に引き戻されて前方を見ると、そこには商会の持ち物であったと思われる馬車の上に乗せられ、これまた商会の備品だった毛布を被って座り込んでいる複数の女性の姿があった。
デリフェル商会に奴隷として囚われていた女の子達は総勢23人。
先に俺が商会から購入して保護した淫魔族のエリアーナを含めれば、全員で24人になる。
彼女らは、これからこの国のバルト永世中立王国軍警務隊の施設に移送されて健康状態と国籍を確認し、バルトから近い位置にある国から順に祖国で彼女らの帰りを待つ家族の元へと返される予定である。
幸いにも異世界ファンタジーによくある差別や迫害、家の口減らしのために奴隷として売られた娘はひとりもおらず、全員が誘拐又はそれに近い形で奴隷に堕とされてここにいるのだ。
だから奴隷ヒロインにありがちな「助けてくれてありがとうございます! これから一生尽くします! ご主人様!」なんてことや「私には帰る家も故郷もありません。 貴方を生涯の主人と定め付いて行きます!」という吊り橋効果で頭の中がお花畑な娘は出てこなかった。
もし
俺はアゼレアのことが好きだし、彼女も俺のことを想ってくてれているのに、そんな所に言い方は悪いが……帰る当てがない者を養うハメなるのは正直御免であるし、『一人の人間を養っていけるのか?』という自信や責任を背負う気は毛頭ない。
あくまで奴隷ヒロインというのは小説や漫画として第三者の視点から見るから良いのであって、現実問題として自分の下に迎え入れるとなると、かなりハードルは高い。いくら見返りとして性行為を好き勝手にさせてくれるとしても、相手の娘が独り立ちするまで面倒を見ないといけないのだ。
下手すると本人が死ぬまでである。
アゼレアと死ぬまで――――というか、俺もアゼレアも天寿を全うする日が来るのか甚だ疑問なのだが――――この世界を巡るのは良いが、それ以外の女性となると正直言って難しい。
彼女のように強く美しく、一個人としてしっかりとした考える力がある女性ならば兎も角、仕える=思考停止状態で依存する気満々の女性など、単なるお荷物以上に厄介な存在である。こちらを利用する目的でくっ付いてくる打算と損得で動いている女性のほうが、いざとなれば置いて行ける分だけまだ楽だ。
「ふう……建物全体の検索が終わったぞ。
やはり、ウィルティアのお姫様は見つからないな」
「そうですか……」
デリフェル商会の建物内部を検索していた冒険者のムシルが布で汗を拭きながら建物から出て来るが、それに気付いたアルトリウス君が彼らに駆け寄り、話し掛ける。
彼に話し掛けられたムシルの直ぐ後ろには鎧を着込んだマイラベルと国軍警務隊員の姿も見えるが、3人とも装備の表面に薄っすらと埃が付着していた。
「ああ。
一応隠し部屋などがないか壁や床、棚の後ろなどを中心に探してはみたが、俺達の方は空振りに終わった。
後はセマ達の結果待ちだな……」
「分かりました」
アルトリウス君はしきりにルナ第二公女の安否を心配していたが、捜索に当たったムシルの報告を聞いてガックリと肩を落としている。
彼はウィルティア公国の出身であり、自国のお姫様が襲われて行方不明と聞いて以降、ずうっと彼女のことを心配している。戦闘中はそうでもなかったのだが、中にいた商会の連中を排除していざ建物の捜索になると、アルトリウス君は目に見えてソワソワとして落ち着きがなかった
因みに、俺とアゼレアはいつ来るかもわからないデュポン達デリフェル商会の外回り組の連中を警戒すべく、国軍警務隊や聖騎士団と共に周囲の警戒に当たり、ムシル達冒険者組はアルトリウス君とアナスタシア、そしてブリジットを除いた面々は引き続き商会内部の検索を続行していた。
一応、冒険者達が証拠品となる商会の売上金を含む金銭や建物の空調維持に用いられている各種魔法石、その他備品や武器等を勝手に懐に入れないように監視も兼ねて国軍警務隊と聖騎士団からそれぞれ1人ずつ人員を出し合って、彼ら冒険者達に同行する形で建物の検索を行なっているが、これといった成果は上がっていない。
但し、これは冒険者である俺やムシル、アルトリウス君らにとっての成果であり、それとはまた別の意味で成果を求めている者もいるのだが、それを求めているのがアゼレアだった。
「クローチェ少佐殿。
我々の方の捜索結果をご報告申し上げます」
「よろしくお願いします」
お互いに敬礼を交わし、硬い表情のまま報告を告げる国軍警務隊員とそれを聞いているアゼレア。
関係者ではない者がこの光景を見れば不思議に思うだろう。
――――『何でバルトの軍人がアゼレアに捜索の結果を報告しているのか?』と……
その理由としては先ずバルトが魔王領の隣国であり、友好国であること。
そして、先に商会から救出されたのが魔王領民であるエリアーナであったことや、彼女が魔王領の貴族――――要するに伯爵家の娘であったことが関係している。
もう一つがデリフェル商会を取り仕切っているのがバルトの貴族であり、子爵家の長男であるデュポンであるからだ。
ここまで言えばもうお分かりとは思うが、隣国の貴族の長男坊が違法とされる奴隷商を経営し、あまつさえ友好国の貴族の娘を奴隷として捕らえていた。エリアーナが魔王領の貴族の娘であるという事実を知らなかったにせよ、彼女の容姿を見れば一発で魔族であるというのは子供でも理解出来ることである。
これだけで魔王領とバルト永世中立王国の国際問題に発展するのは必至だ。
そして、偶然かそれとも
アゼレアが奴隷として囚われていたエリアーナの姿を見た以上、もうこの事実を無かったことには出来ないし、相手が相手であるのでバルトも国の圧力で握り潰すことが出来ないでいた。
無論、アゼレアもその点は理解している。
だからこそ彼女はこの件を担当している国軍警務隊の面々に、場合によってはこの事件がただの人身売買で終わらずに国同士の問題になると彼らにやんわりと告げていた。
これを聞いた国軍警務隊警務少尉であるラージさんは上官に連絡を入れる前に、即座にアゼレアの要請を聞き入れるに至る。
その要請とはデリフェル商会から押収した顧客名簿を含む各種押収資料の開示だ。
現地責任者である彼が大公の娘とはいえ、魔王軍の一将校の要請を受け入れるというのはおかしい話だが、アゼレアが魔王領本国に連絡すれば、魔王領サイドから正式に捜査協力と押収物の開示要請が来るのは確実なので、ラージさんとアゼレアの捜査云々の話は儀礼的なものに過ぎない。
また他国の軍とはいえ、階級としてはアゼレアの方が上であるため、ラージさんとしても彼女の要請を無下にはできなかったということもあり、商会の家宅捜索の結果は彼女にも知らされる手筈となっている。
そのため、俺の後ろではラージさんの指示で家宅捜索に参加していた国軍警務隊の捜査員がアゼレアに対して捜索の結果を報告しているのだ。
「商会の事務室と思しき部屋を見つけましたが、中はもぬけの殻でした。
顧客名簿や奴隷の名簿などもありましたが……ざっと確認したところ、大尉殿が仰っていた魔族の方々の名前は数件確認出来ました」
「それは顧客・商品のどちらにも?」
「いえ、奴隷の名簿だけです……」
「そうですか……この件は本国に報告する必要があるので、後で名簿を見せて貰っても?」
「はい。
ですが、名簿の数は量が多いので先ずは証拠品として押収し、我々警務隊本部に運び込んでからになりますがよろしいでしょうか?」
「本音を言えば直ぐにでも確認したいところですが、ここは魔王領ではなくバルト。
そちらの捜査機関の都合もあるでしょうし、私も魔王軍に所属する軍人の端くれです。
包み隠さず見せて貰えれば、それで構いません」
「……ご配慮いただき、ありがとうございます」
最後に釘を刺すように言ったアゼレアに対して警務隊員はその鋭い視線に一瞬鼻白んだが、直ぐに真顔になって再度敬礼をすると上官へ報告すべく、その場から逃げるようにして立ち去って行った。
「これは早々に
俺以外には聞こえない声でボソッとそんなことを呟いたアゼレアはおもむろに右手を足元にかざし、魔法を発動させた。
以前見た血液を媒介させた戦術魔法の血のように赤い魔法陣と違い、薄いピンク色の魔法陣が彼女の足元に現れる。魔法陣の直径は約50センチほどで、外縁部に日本語でも英語でもない独特の文字が書かれ、円の内側には六芒星が2つ重なるようにして描かれており、その魔法陣の中心から何かが現れ始めた。
「これは……蝙蝠?」
魔法陣から出て来たのは1匹の蝙蝠だった。
大きさからして地球で言うところのオオコウモリという種類だろうか?
サイズは体長約20センチ、翼を広げれば60センチを超える大型の蝙蝠で、耳がウサギのように大きいのと目が赤いのが特徴だ。体にはモフモフの体毛があり、全体的に黒い体色をしている。
「これが私の使い魔よ。
孝司は見るの初めてだったかしら?」
「そうだね。 へえ~これがアゼレアの使い魔……」
魔法陣から出て来た使い魔の蝙蝠を抱き上げてよしよしと頭を撫でるアゼレア。
撫でられている蝙蝠は気持ちよさそうに目を細めて小さく鳴き声をあげ、もっと撫でろと言わんばかりに彼女の手に頭を擦り付けている。
「この子に魔王領まで飛んで行ってもらって、エリアーナの保護と奴隷売買の被害者である魔族の同胞達を調べてもらうように専門の捜査官の派遣を要請するのよ」
「ふーん。
でも、エリアーナさんの保護は兎も角、捜査官の派遣はこの国と調整しないと不味いんじゃない?」
「本来ならばそうしないといけないところだけれど、この事件は魔王領とバルトの国際問題に発展する可能性が高いわ。
ラージ達国軍警務隊の連中は主犯格を逮捕できればそれで良いのでしょうが、国の外交を司るバルト政府の者達はそれだけで終わる筈ないわよね?」
「ああ、なるほど……」
やはりアゼレアは隣に位置する友好国とはいえ、この国の上の者達のことは完全には信用していないらしい。
まあ、当たり前と言えば当たり前ではあるが、魔王領との外交問題に発展するのを恐れた誰かが商会からの押収物を処分してしまう前に、魔王領の専門家を介入させてしまおうという腹積もりらしい。
しかし……
「でもここから魔王領までかなりの距離があるけど、捜査官が派遣されて来るまで時間が掛かるんじゃないのかな?」
「それは心配しなくていいわ。 見ていて」
「ん?」
疑問に思う俺を他所にアゼレアは抱き上げていた蝙蝠を正面に見据えて目を閉じる。
時間にして約10秒ほどそのままの姿勢を保っていた彼女はゆっくりと目を開いて、そのまま蝙蝠を少し離れた場所に下ろす。
すると、蝙蝠は直ぐに翼を羽ばたいてその場でホバリングし始めたが、その蝙蝠のすぐ目の前に直径1メートルほどの青い光を放つ魔法陣が現れ、その魔法陣の中に蝙蝠が進入した瞬間……
「ぶほッ!?」
なんと空母からカタパルトを利用して発艦する艦載機宜しく、凄まじい加速力で彼方へと飛び去って行ったのだ。
「え? え、ええェェーーーーッ!?
アゼレア、あれ一体何!?」
俺が驚きの余り吹いたときには、アゼレアの使い魔は最早肉眼では視認できない距離にまで飛翔しており、青い魔力の残滓がキラキラと尾を引きながら消えていくところだった。
よく見ると蝙蝠が飛び去った後の地面には衝撃波で地面が少しえぐれているではないか。
しかも、耳がキーンとする上にムシルやマイラベル達が驚いた顔でこっちを見ていた。
「魔力が増えたお陰でそれに比例するように加速陣の魔力が強力になっているわね。
本当はもっと遅い筈なのだけれど……」
「え? まさかアゼレアもこうなるって知らなかったの?」
「当たり前じゃない。
使い魔なんて久しぶりに使役したんだもの。
でもまあ……あの速度だと直ぐに魔王領まで着きそうね」
「うん。
目的地が何処かよくわからないけれど、たぶん1時間もしないで着くんじゃない?
っていうか、蝙蝠はバラバラになっていないのかな?」
「それは大丈夫と思うわ。
私の使役する使い魔の周囲には防護魔法障壁が展開されているから、風圧で潰れたりすることはない筈よ?」
「そう。
ところで、さっきの蝙蝠は魔王領の何処に向かって飛んで行ったの?」
「それは、「ちょっと、さっきの物凄い音は何なのよ!?」
アゼレアが話しているところへ割り込む形でリリーのキンキン声が耳を打つ。
後ろを振り向くと、女冒険者のリリーを先頭にセマ達が驚いた表情を顔に貼り付けたまま、こちらへやって来るのが見えた。
「あら、そっちも捜索は終わったのかしら?」
「終わったのかしらじゃないでしょ!
いったい、さっきの音は何?」
「貴女には関係のないことよ。
これは私達魔王軍に関すること……ま、要するに軍機ね」
「ぐぎぎぎぎぎッ!!」
アゼレアに体良くあしらわれてリリーは両の拳を握り、漫画のキャラのような歯軋りをしているが、どうもアゼレアとリリーはお互いの相性が良いとは言えないようだ。どちらかと言えば、リリーのほうがアゼレアに突っかかっているように見えるが、アゼレアは大人の余裕で見事に受け流している
(やはり、リリーのアゼレアに対する態度は例の死体の件が原因なんだろうなぁ……)
アゼレアがデリフェル商会の内情を聞き出すために商会の大番頭であるテラビータに対して行った尋問と言う名の拷問。その惨状の結果、出来上がったのは見るも無惨な破壊し尽くされた彼の死体というか残骸である。
これを見たリリーは激昂して終始不機嫌な状態だった。
最初こそアゼレアを怖がって彼女を睨みつける程度であったが、時間が経つにつれ事あるごとにアゼレアに敵意剥き出しで食って掛かるようになっていったのだ。
しかし、アゼレアはそんなリリーの態度など何処吹く風といった感じで相手にせずに受け流しているだけなのだが、どうも彼女はリリーの反応を面白がっているフシがある。
まるでペットの犬や猫をわざと怒らせてその反応を面白がっている飼い主のような感じで、余裕を持ってリリーに接しているが、そんな彼女らを見て焦っているのが冒険者クラン『流浪の風』を率いているリーダーのセマだった。
◆
セマを含めて総勢四人とはいえ、冒険者クランを率いるリーダーとして彼は社会の動静に対して常にアンテナを張って行動している。これは人の上に立つ者としては当然のことなのだろうが、これが商店や商会の経営者ではなく冒険者クランのリーダーとなると、勝手が違って来る。
冒険者というのは日本で言うところの何でも屋のそれに近い。
とは言っても、警備や護衛、魔物の討伐や傭兵業と命を賭けた仕事の依頼も多くあるので、一概に何でも屋と同じと捉えるのは少し違う。
どちらかと言うと命を賭けた仕事が本業で、何でも屋の方が副業といったほうがしっくりくるだろうか?
なのでセマの元には魔物の出没状況や魔法に関する情報、迷宮や財宝などの一攫千金等の噂以外にも傭兵稼業に就いている冒険者達から戦争や紛争に関する情報もそれなりに耳へ入ってくるのだ。
もちろん、そこには魔王軍に関する情報も含まれるのだが、以前バルトまで一緒に旅をしていた傭兵や護衛などの荒事を専門にしているベテラン冒険者のスミスさんや軍人であるアゼレア自身が言っていたように、魔王軍は国外に軍を派遣していたりする。
これは殆どの場合、紛争地の治安維持活動や現地に派遣されていた技術員や指導員の保護など、地球で言うところのPKOやPKFのような軍事活動がメインのため、他国の軍と協力して行うのが常識なのだが、時には軍事顧問として現地の軍の指導や作戦行動のサポートもしているらしい。
その場合、派遣される魔王軍の関係者は見た目が人間種に近い種族や人間種の将兵らが対象となる。これは以前スミスさんが言っていたように、現地住民や他国の人間種の兵士らを刺激しないようにとの配慮であるが、それ以外にも派遣される魔王軍人らが種族的外見で差別されるのを極力避ける意味合いもある。
そしてその派遣される将校の中には当然と言うかアゼレアはいた。
もちろん彼女が国外派遣軍の中にいるのは不自然ではない。
彼女は吸血族と淫魔族のハーフで外見は人間とほぼ変わらないし、吸血族特有の人間種より長い犬歯の牙はアゼレアが興奮して吸血行為に走らない限り見ることはないので、普通にしていれば人間種の中にいても違和感は少ないだろう。
しかし上級魔族、ましてや大公家の次女であり、魔王軍北部方面軍総監の娘であるアゼレアが如何に軍人とはいえ、わざわざ魔王軍の国外派遣軍の一部隊を預かる将校として外国に行くのは身体的外見は兎も角、身分的には不自然に思えるのだが、彼女の半ば伝説ともなっている戦績を聞けば納得できると言うものだ。
曰く、二百人からなる敵軍の脱走兵を中心とした盗賊団をたった一人で
曰く、敵兵約千五百人以上が常駐する砦へ忍び込み、僅か三人の部下と共に一晩で砦を陥落させる。
曰く、敵軍の精鋭中の精鋭である一個魔法旅団に対し、広域戦術魔法を用いて一瞬で叩き潰す。
曰く、騎竜ニ個小隊を率いて五千人を超える敵軍中央へと切り込み、そのまま敵本陣まで強襲突撃を敢行して大将の素っ首を側近諸共斬り落とした等々。
他にも任務の性質上、軍機で口外できない内容の作戦も含めれば、かなりの武功を挙げているらしく、普通に聞いていれば俄かには信じられないような話ばかりだが、幾つかは部下や部隊を率いて戦功を上げているだけに嘘とは思えない。
もし、これが全部アゼレアたった一人で殺ったのなら眉唾に聞こえるが、そうでないところが余計恐ろしいくなる。
そしてこれらアゼレアが戦場で挙げた武功も魔王軍の軍事行動の結果の一つとして、戦場から帰って来た傭兵や冒険者らの経験談や酒場での話の肴としてセマの耳へ入るのだ。
しかも、アゼレア本人の預かり知らないところで付いた戦場での通り名と一緒にである。
そのためセマはリリーが彼女に食って掛かっているところを見ると、内心生きた心地がしなかった。
もし彼女がその気になれば、自分達はあっという間に殺される。
散々、酒場では魔王軍の強大さは耳にタコが出来るほど聞かされて来たのだ。
不安になるなと言うのが無理な話である。
人間種は人にもよるだろうが、戦場で満足に戦える期間は成人して以降ならば精々二~三十年程度が限度だ。それ以上になると身体の筋肉や反射神経は徐々に、時には著しく衰え、持久力も次第に減衰していく。
中にはそれまでの経験を買われて将軍や軍師といった戦争を指揮する側に回る者もいるが、それは少数派だ。殆どの兵士や傭兵らは引退するか後進の育成に専念することになる。
しかし、魔族や最近『エルフ』と呼ばれている長耳族などは別だ。
彼らの寿命は短い者でも人間種の二倍以上あり、中には『永遠に死なないのではないのか?』という種族もいる。そんな彼らが所属する軍はすこぶる強く、それはただ単に個々人の戦闘能力だけではなく、指揮系統から兵站の分野に於いてまで何百年という途方も無い期間の――――それまでの経験が生のまま活かされているからだ。
要するに五十年前や百年前、もっと言えば五百年以上前に当時の戦場に立っていた者がそのまま軍に健全なまま残っているからであり、当時の経験がそっくりそのまま軍の各部署や部隊間において本人達そのものによって活かされているからに他ならない。
こうなると、人間種だけで構成された軍ではよほどの練度と将兵達の統率が取れていないと太刀打ち出来ないだろう。
なんせ寿命が短い人間種はその限られた時間の間に後世へと経験と知識を引き継いで残さなければいけないが、それが次代の者達へ正しく理解されているとは限らず、伝言ゲームのように途中で必ず齟齬や認識の違いが生じてしまう。
しかも、人間種の先達らはその時には既にこの世から別れを告げ、とっくの昔に墓の中に入ってしまっている場合が多く、例え生きていたとしてもマトモに会話が成立するかも怪しい。それに比べて魔族や長耳族の先達らは本人が死亡している場合を除き、殆どの者達は現役であり、その場で直接意見を聞くことが可能なのだ。
そしてその先達らは現役であるが故に強い。
ただ単に魔力が強いだけの脳筋ならば手玉に取ることも可能なのだろうが、これに長年蓄積されて来た経験と知識が付随してくるのだ。
彼らを戦場で打ち負かそうと考えるのならば、彼らが知らない全く新しい戦術や兵器、戦闘魔法を開発して運用方法を確立する必要がある。
(リリー、頼むから『鏖殺姫』を怒らせるような真似だけはするなよ!?)
冒険者クランのリーダーを務めているので表情にこそ出さないが、心の中では絶叫に近い悲鳴を上げているセマはリリーがいつ一線を超えてしまうのかとハラハラしていた。
と、同時に安堵してもいたのである。
魔王領が覇権主義国家でなかったことに……
(本当にこの大陸の魔族が平和主義で良かった。
もし魔族達が大陸の征服に乗り出していたら、俺達はここに存在していなかっただろうな……)
目の前の女魔族は自分達に迫っていた投擲魔導弾を恐れることなく剣で斬り伏せて迎撃し、誘爆した魔導弾の爆発にも平気な顔をして立っていたバケモノだが、もしあの力がこちらに向いたらと思うと恐怖で身が竦んでしまう。そして彼女だけが特別というわけでも無いということも同時に理解していた。
魔族は魔法に対する耐性が強く、また魔法に対する親和性もそれなりに高い上に、体も人間種と比べると格段に強く頑丈である。
それは鋼鉄で作られた扉を蹴りの一撃で吹き飛ばしたアゼレアの力を見れば一目瞭然で、彼女よりもか弱い存在で軍人ではない淫魔族のエリアーナでさえ、人間の大人であるタカシをプラプラと宙に浮かせて締め上げていたのだ。
(アゼレア・クローチェ。
龍族をも圧倒する力を持つ魔王領でも一二を争う武闘派魔族か。
あのバケモノだけは絶対に怒らせないようにしなければいけないな……)
シグマ大帝国の帝都で初めて出会って直ぐに別れたタカシがどういう経緯と理由であのバケモノと出会って行動を共にしてるのかは判らないが、碌でもない理由というのだけは分かる。
そしてもう一つ分かっているのは、そんなバケモノに付き合うことが出来るタカシも同じバケモノでないにしても、かなりの変人だということだ。
(もし彼奴らが戦闘を始めるような事態に陥ったら、巻き込まれないように注意しなければいけないな。
特にムシルとリリーは戦闘に夢中になると周りが見えなくなる癖があるから、俺がしっかりしなければ……!)
――――でないと、巻き添えを食ってクランのメンバー全員が死んでしまう可能性が非常に高い。
そう考えたセマは未だアゼレアに突っかかっているリリーに注意を払いつつ、自分達と同じ冒険者であるマイラベルと話し込んでいるムシルのところへと向かう。
もしもの時に備えて撤退の手順を予め決めておくために……
◇
「ねえ、エノっち達はこの依頼が完了した後はどうするの?」
「どうするって言われても……ねえ?」
それまでアゼレアに文句を言っていたリリーが突然こちらへ話を振って来た。
どうやら何を言っても余裕の表情で受け流してしまうアゼレアに対して疲れたようで、リリーは気分を変えようと思い俺に話しかけているのだが、正直言って聞かれた側としてはどう答えて良いか返事に困る。
そのため俺はアゼレアに対してどうするのかという問いを彼女に向けた。
当初はこの依頼が終わったら、魔王領からこの国へと疎開して来ているアゼレアの母親達が現在避難しているセーフハウスに行くつもりだったのだが、商会に魔族の女性達が囚われて奴隷として売買されているという事実が発覚したのでそうも行かなくなった。
しかも、軍人であるアゼレアが魔王領本国に使い魔を使役して連絡を入れてしまったので、恐らくだが商会の建物に突入して現場を目撃した彼女から事情を聞くためと、国軍警務隊が押収した名簿の確認のために魔王領から派遣されて来るであろう捜査官と会わないといけない可能性が高いのだ。
「私が魔王領に使い魔を飛ばしたから本国から捜査の担当者が来るまで足止めね。
だからこの依頼を完遂したら、王都テルムの宿で
――――“ゾッ…………!”
何だろう?
今、一瞬だがアゼレアがリリーの方からこちらを向いたとき、完全に目が獲物を見る肉食獣のような視線を俺に飛ばして来たのは?
「そう……あたし達も冒険者会議が始まりまで王都かその近郊の宿に泊まるつもりだから、もしかしたらまた一緒に仕事をする機会が来るかもしれないわね。
あたしはエノっちがいるだけでいいんだけれど……」
最後はゴニョゴニョと小さい声で言っていたのでよく判らなかったが、リリー達『流浪の風』も暫くの間はバルトに滞在するらしい。
「じゃあ、あたしはセマのところに戻るわ!」
アゼレアのことはガン無視して踵を返して去って行くリリー。
彼女の後ろ姿を見送っているとポンと肩を叩かれた。
「やっぱりエノっちは、ああいった人間種の小娘お好みなのかしら?」
「ん!? そんな訳ないじゃん!
って言うか、いきなりどうしたの? アゼレア?」
「ふむ……あの娘が最後何て言ったのか聞こえなかったのかしら?」
「うん? 全然」
「なら良いわ。 ところで孝司?
この依頼が終わったら覚悟しててね」
「へ?」
なんか先程とは打って変わって雰囲気がガラリと変化したアゼレアはセマやアルトリウス君らがいる方向に背を向けて俺の正面に立ち、頬を上気させて妖しく光る濡れた両の瞳で俺の目を真っ直ぐ見据える。
「忘れたの? 私の血の半分は淫魔族。
闘ったお陰でカラダがもの凄く昂ぶっているのよ。
この意味……分かるでしょう?」
そう言って右手を伸ばしてこちらの頬をスリスリと撫で、最後に左の耳を弄るアゼレア。
耳を弄られたお陰で首筋がゾワゾワとして、何とも言えないむず痒い気持ちが込み上げてくる。
「ハァ……宿に戻ったら徹底的に絞り上げてあげるわぁ。
一緒に天国にイキしょうね、孝司?」
「う、うん……」
「フフフッ…………!」
最後に流し目でこちらから視線を外しつつ甘く熱い吐息を吐いた後、何食わぬ顔表情に戻り背を向けるアゼレアを見て俺は内心ビビっていた。
(ヒイイィィィィーーーーーーッ!!??
ヤバイ……ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイィィーーッ!!
こ、これ、宿に戻ったら死亡フラグ確定じゃね!? 俺、本当に死なないよな!?)
前回も全く動けなくなるほど絞り取られたのだ。
今回も無事でスムとは思えない。
しかも、アゼレアは回を重ねるごとにアレが上手くなってイッてるのだ。
(この世界にはオトコの尊厳なんて無いのだろうか?
あれ? 今思い返せば、アゼレアと出会った当初から無くね?)
数歩前歩くアゼレアの後ろ姿を見ながら内心、彼女の尽きることの無い情欲に対する恐怖から現実逃避しているときだった、突如としてアゼレアがこちらに振り向き飛び掛かって来たのである。
「え? ちょ、アゼレア!?」
「孝司ぃ、伏せてぇー!!」
早口で言いながら俺に飛び掛かり、雪が積もった地面の上に背中から倒れた俺にそのまま覆いかぶさるようにして一緒に倒れ込んで来るアゼレア。
彼女の立派な胸の双丘がジャケット越しに自分の顔へ押し付けられると同時に、つい最近聞いたことがある爆発音が響き、次いで生暖かく焦げ臭い風を自分の顔に感じた。
そして追い討ちを掛けるように上体を起こしたアゼレアの、その美しい凛とした声が切迫感満載で間近に耳へと入る。
「敵襲ぅーーッ!!」
アゼレアが発した声は俺だけではなく、周囲にいる者達に対して何者かの襲撃を告げる警告の叫び声だった。
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