第31話 集合

 唐突だが、この異世界『ウル』にも他の異世界ファンタジー小説の例に漏れず奴隷が存在している。


 国が違えば法律も違うのが当たり前なので当然奴隷に関する法律も違ってくるが、どこかの小説と違って奴隷だから何をしても良いだとか、所有者は絶対的な支配者だから殺そうが犯そうがそれは自由……などといった無法地帯状態ではない。


 もしそんなことを許せば、早晩街は犯罪者とその予備群で溢れかえり、あらゆる人々が恣意的に奴隷へと堕とされて畜生以下の行為に晒されることだろう。


 俺がいるバレット大陸にも奴隷は存在しているが、基本的に国が管理している場合を除き個人が奴隷を所有することを法で禁止している国は多い。


 他の大陸や島々がどうなっているのかは知らないが、少なくともこの大陸では個人の奴隷の所有を禁止している国が多く、公的機関以外の組織や集団に対しても奴隷の所有を原則禁止にしている。


 これは王族や貴族、領主に対しても同じだ。

 では国や公的機関が管理している奴隷とはどんなものなのかというと殆どの場合、『犯罪奴隷』が多い。


 犯罪奴隷とは文字通り犯罪を犯した罪人を奴隷として働かせるものなのだが、犯罪者なら誰でも彼でも犯罪奴隷になるわけではなく、止むに止まれない事情故に犯罪者となってしまった者が犯罪奴隷になるのだ。


 この止むに止まれなない事情というのは、例えば物盗りから自身または家族を守るために相手を弾みで殺してしまったとか、仕事中の過失で他人を死に至らしめた、食い詰めた農家や労働者が食べ物や金銭を盗んだなどだ。


 こういった犯罪者になりたくてなったのではない者に対して量刑を減刑する目的で被疑者が犯罪奴隷となり、本人の性別や能力を考慮して公的機関や軍隊などで一定期間奴隷として国に貢献奉仕する。


 もし、これらの犯罪奴隷に対して国や公的機関の役人などが権力を濫用して暴行や性的虐待を働いた場合、状況によっては役人の方が厳罰に処せられる。


 逆に薬物密売や強盗、強姦、連続殺人など自らの意思で罪を犯した者は逃亡の恐れや派遣先で更に犯罪を犯す恐れが非常に高いので、犯罪奴隷になることは絶対にない。


 また、犯罪奴隷は国の司法機関が一元的に管理運用しているので、王族や貴族などの権力者が間接的に奴隷を所有できない仕組みになってもいる。


 基本的に犯罪奴隷になった者は元は善良な一般市民である上に犯罪を犯した事情が事情であるので、犯罪奴隷が派遣される所では暖かく迎え入れられる場合が多く、犯罪奴隷となる期間は長くても10年程だ。


 期間が終了した頃には量刑もほぼ終わっている場合が多いので、裁判などを経て犯罪奴隷になった者は判決を聞いた瞬間、嬉しさのあまり泣き崩れる者もいるのだとか。


 では何故、国以外に奴隷の所有や運営を禁止しているのかというと、犯罪の防止と衛生上の配慮から奴隷の所有が禁止されている。


 まず犯罪防止の観点から言うと、奴隷を所有している者は多かれ少なかれ奴隷に対して暴行を働いている場合が多く、奴隷が女性の場合、これに性的虐待が追加される。


 組織内の地位を利用して部下に言葉による暴力を日常的に行なっている者もいるだろうが、こういった者は一度組織の枠を出ると良識が枷になって人畜無害な人間になる者が多い。


 これは自分の地位が組織内でしか通用しないことを知っているのと、組織の枠から切り離されるときに本人の気持ちが切り替わるからであるのだが、こういった者が組織の枠から出ても周囲に精神的、肉体的に暴力を振るった場合どうなるだろうか?


 例えば毎日会社で部下に暴言を吐く上司、セクハラが日常の習慣になっているイヤラシイ上司など、こういった上司が会社の外でも同じことをしていたら?


 前者であれば名誉毀損で訴えられるし、相手によっては逆に殴られることもあるだろう。

 セクハラに関しては完全に性犯罪だ。


 “酒に酔っていた”や“ついうっかり”は警察官の前では通用しないし、SNSが普及した現代では揉み消すことすら難しいだろう。


 他にも選挙の時には有権者らにひたすら平身低頭していたのに、いざ選挙に勝った途端に態度が豹変する一部の政治家、制服や何らかの身分を示す手帳などといった“権力の衣”を身につけると態度が横柄になる一部の公務員、常日頃から他人の気持ちも考えずに無茶な取材をするマスコミ、集団になった途端何をしても構わないという気持ちになる子供や大人、とある某政治的反戦団体組織の手先に某特定民族や某世界的巨大宗教の信徒達などなど…………


 こういった者達が自分に一切逆らえない奴隷を所有することになったらどうなるだろうか?


 最初は大人しく自分の奴隷だけに犯罪紛いのことを行なって満足していたとしてもそこは人間。


 次第に満足感が無くなり、新たな奴隷を買い込むならまだ良いが、何を勘違いしたのか自分が絶対的に偉くなったと思って奴隷以外の者にも奴隷と同じような態度や行動を示したり、下手をすると自分の好きな異性や嫌いな者を好き勝手にしたいという欲求が芽生え、あらゆる手段を講じてでも奴隷に堕とそうと企てる者も出てくるだろう。


 何れにしてもそこに新たな犯罪行為が生まれるのは想像に難くない。

 こういった人心の腐敗が芽生える可能性が高いので、バレット大陸の殆どの国では個人の奴隷所有を法で禁じているらしい。


 また衛生上の観念からも個人の奴隷所有を禁じている国も多い。

 18禁の小説や漫画、ゲームなどで奴隷は度々登場するが殆どの場合、女性や子供が奴隷所有者の性の捌け口になっていることが多いが、対象の奴隷の健康状態や衛生環境が低ければ低いほど、性病を筆頭に何らかの感染症に罹る可能性が高い。


 複数の男女で奴隷を輪姦する場合などは、その可能性が特に顕著だ。


 しかも自動車のように飽きたり使えなくなると新しいのを購入し、古いのは中古として売りに出せる環境が整っている場合だと、そのリスクは途轍もなく高くなる。


 医療環境が整っていない異世界だと、それがどこまで広がるかは想像もつかない。

 浄化魔法や治癒魔法があるとはいえ、奴隷を介して性病や感染症などが蔓延したりすると、満足に治療を施すことさえ困難だろう。





「まだこの大陸のあちこちに奴隷が普通に存在していた時代、奴隷に何をしても許されるということを逆手に取った『とある国の王』がいたわ。

 その王は自分の国が攻め込まれた時、将軍や軍の魔法使い、軍医らと共謀して敵軍が攻めて来るのと同時に、砦や城の内部へ黒腐病こくふびょうに侵された若い女性奴隷を残して早々に逃げ出したらしいわ。

 当然、残された女性奴隷達は途方もない数の兵士らに犯され全てを呪って死んでいった。

 そして、女性奴隷達を散々犯した兵士らの半数以上が黒腐病に侵されてしまったことに気付かず、戦闘終結後に故郷へと帰り、久々に再開した妻や恋人と愛を育んだ。

 自分が攻め入った国で狼藉を働いたことを秘密にしてね。

 中には自分の納める街の娼婦を抱いた領主や部下の女性兵士を抱いた将校もいたわ。

 その結果どうなったと思う?」


「侵攻して来た敵国が逆にその黒腐……病によって侵されてしまった?」


「そう。 

 攻め込んで来た国はそれが元で自国内で多数の国民や兵が黒腐病に罹り、戦争どころでは無くなったわ。

 しかも、自分達が攻め込んでいた相手国が逆襲に転じ、侵攻して来るっていうおまけ付きでね。

 奴隷を使って敵国に黒腐病を広げることに成功した王は自軍に捕虜の一切を許さず、相手国の兵や国民の一切を焼き払うように厳命したらしいけど、一部の兵士らが命令を無視して捕虜として捕らえた女性奴隷を犯したことで、自軍にも黒腐病に罹る兵士が続出し始めたのよ。

 結局、周辺各国は『自分達の国にも黒腐病が広がってしまうのでは?』と危機感を抱いて国境を封鎖。

 国内の治安組織や他方面の国境警備の任務に就いていた軍の部隊に市中の魔法使い達さえも総動員して、両国諸共焼き払った。

 時には何百人という市民を赤子や幼い子供、老人に至るまで生きたまま火炎魔法で焼き払ったというのだから堪らないわ。

 私が聞いた話では、当時の魔王領にも協力要請が来て龍族を中心とした中央方面軍主力が出撃し、文字通り国は灰燼にきしたらしいわね」


「そうなんだ……」


「それ以降、所有者は奴隷に対して健康と衛生を保つ義務が発生したけれど、最終的に当時の各国は奴隷の個人所有を禁止した方が治安維持上でも公衆衛生上でも楽だということで、法で所有を禁じる国々が大半を占めるようになったと父が言っていたわ」





 このような話をアゼレアから聞かされたのだが、これを聞くと確かに医療が発達していない異世界だと奴隷の個人所有を法で禁じるのも分かる話だ。


 労働力が欲しければ人を雇えば良いし、性欲を満たしたいなら娼館に行けば良い。

 それで言えば、奴隷を所有して好き勝手したいという奴は潜在的犯罪者だろう。


 因みに『黒腐病』というのは粘膜・血液・唾液などを介して感染する細菌で、罹患すると発症率は60%以上という確率で、症状は手足の末端が次第に壊死し、黒く炭化したようにボロボロになっていく感染症だ。


 死亡率は7割以上と高いのが特徴で、空気感染をしないのが唯一の救いだが、それでも医療が整っていない異世界では何の救いにもなっていない。


 さて話は戻るが、奴隷の個人所有が法で禁じられているとは言っても裏世界では現在でも奴隷の売買、要するに人身売買が続いている。


 アゼレアは魔王軍国外派遣部隊を率いる指揮官の1人としてバレット大陸の幾つかの国々の紛争地帯で戦っていたが、治安が存在しない地域では奴隷は普通にいたという。



「戦争には奴隷が付き物だけれど、黒腐病の件で奴隷の数は確実に減ったわ。

 敵国の国民や捕虜を虐待したり奴隷化を施すと現地住民の協力が得られないばかりか、住民が神出鬼没な敵兵に早変わりして侵攻に支障が出るから、最近では敵国民への虐待や虐殺は厳罰に処するよう軍規で定めている国も多いわね。

 まあそんなことをすれば、いずれは自分達に降りかかってくるというのもあるだけれどね。

 とは言っても、国家予算が少なく資源に乏しい小国や兵達への教育水準が低い国が相手の場合、侵攻を受けた国の国民や非戦闘員が奴隷に堕とされたり、虐待を受けることは多々あるわ」



 事実、アゼレアは目の前で他国の兵士達の目があるにも関わらず、敗戦国の国民に対して暴行を行う小国の兵を見てきたという。その度にアゼレア達は騒動の鎮圧に手を焼いたらしい。



「酷い所になると他国の兵士さえも襲う民度の低い国の軍もあったわ。

 私達魔族は派遣先の国や地域によっては露骨な差別を受けることもあるけれど、こと戦闘地域では皆気が昂ぶっているから更に暴力が追加されたりする。

 中には奴隷商人が高値で買ってくれるからと、女性魔族の兵や将校を集団で襲う不届きな小国の兵士達もいたわね」



 因みに、アゼレア自身も派遣先で奴隷商人の手下や盗賊団、現地の兵士らに襲われたことなど何度もあったらしい。そして、その殆どが強姦や奴隷目的の犯行で、中にはアゼレアの実力を知った上で数十人の集団で襲って来た例もあったという。



「その不届きなアホ共はどうなったの?」


「一人残らず胴体か首を引き千切ってやったわ。

 ああ、でも全員じゃないわねぇ。

 逃げた奴らは魔法で蒸発するか、全身から血を噴き出して死んでいったわね」



 まあ、やはりというか当然というか予想通りの結末でちょっと安心した。

 多分、当時のアゼレアの戦闘力であっても人間達にとって太刀打ちできる彼女ではないので問題無いのだろうが、それでも襲われたと言われれば心配にはなる。



「国同士の戦争になると、必ず一儲けしようと企む武器商人や盗賊団といった有象無象の輩が戦場の周りをウロウロしているわ。

 戦争の犠牲になった戦争孤児や女性を目当てに奴隷商人も当然暗躍する。

 武器商人の中には奴隷商人と兼業の者も多いから、行きは売るための武器を荷馬車に満載し、帰りは奴隷と金目の物を満載して戻る……なんて光景が戦場のあちこちで見かけたわ」


「でも、それって奴隷商人というよりは只の人攫いだよね?」


「ええ。

 でも奴隷商人が街を闊歩し、店に奴隷となった被害者達が種族や性別、年齢に関係なく並べられていた時代は本当に無法地帯だったわ。

 奴隷に堕とされた経緯も適当に書類をでっち上げられて攫われた被害者達がさも正式な手続きの元、奴隷になったように仕立て上げられるのだから異常よ。

 そうなると国としては調べようが無いし、自ら進んで調べようともしない。

 これがどういうことか分かるかしら?」


「国の役人や貴族が買収されていたとか?」


「そうよ。

 当時は奴隷の個人所有が許されていたから、役人や貴族は好みの奴隷を優先的に奴隷商人から回されていたし、奴隷そのものが金と並んで贈収賄の道具にもなっていたわ」


(まあそうなると奴隷をきっかけに人心の腐敗はどんどん進んで行くわなあ。

 そりゃあ、治安が悪くなるわけだわ)


「それに、奴隷そのものに価値を見出す風潮も重なって珍しい能力を持つ者や獣人や亜人、中には魔族さえも奴隷化の標的にされたりしたわ。

 当時から獣人や亜人を主体とした国は複数存在していたから、奴隷が原因で新たな戦争の火種になったことなど一度や二度ではないわね。

 魔族に関しては私達魔王軍が奴隷に堕とされた同胞を武力でもって奪還していたけれど……」


「じゃあ、ある意味奴隷が各国で法によって禁じられたから今は大きな戦争が起きてないと?」


「全てがそうだとは言い切れないけれど、少なくとも奴隷の存在が何らかの影響を与えているのは確かね。

 奴隷は労働力としては勿論、性処理や使い捨ての兵力としても魅力的だし、魔法の実験にも使えるから所有者にとっては金銭以上に使い勝手の良い“道具”という側面もあるわ。

 しかも、魔法で行動を束縛すれば全て思い通りに出来るとあれば、心根の卑しい者の目にはこの上なく魅力的な品物に映るのではないかしら?」


「じゃあ、例のサディアスっていう奴も同じように奴隷のことを見ていると?」


「ルークの話を聞いているとそういうことになるのかしら?

 まあ、大なり小なり奴隷の所有者は奴隷を使い勝手の良い道具としてしか見ていない場合が多いけれど。

 サディアスのタチの悪い所は非合法とはいえ、奴隷を結構な頻度で購入していることよ。

 奴隷市場が今でも合法的に存在している地域はこのバレット大陸では東側と南側の沿岸部に広がる幾つかの国々だけれど、奴隷の主な消費地の一つだったバレット大陸の中央部と北側及び西側地域では奴隷が非合法化されたことで奴隷市場は一気に縮小したわ。

 お陰で一番需要が多かった労働奴隷と戦闘奴隷は今ではその殆どが奴隷市場から姿を消したと言われているけれど、代わりに性処理用の奴隷は非合法化を受けて価格は跳ね上がったと聞いているわ。

 市場が縮小し、数が減った上に価格が上昇した性奴隷を使い潰して新しい奴隷を次々と買い足すサディアスはかなりの外道でしょうね。

 見た目は人間でも中身は悪魔族さえ、裸足で逃げ出すほどのドロドロとした真っ黒い欲望が詰まっていて、それが外に溢れで出るとしか思えないわ」


「ってことはそのサディアスと奴の欲望を叶えているデュポンとかいう子爵家の長男は気をつける必要があるね」


「そうね。

 当時の奴隷商人は表と裏の世界の間を行ったり来たりする微妙な者達が多かったけれど、バルトやシグマのような奴隷が法で禁じられた国で活動する奴隷商人は完全に裏の世界の住人よ。

 それが子爵家の長男でも例外はないわ。

 と言うか、権力を持っている分、そこらへんの盗賊団の首魁よりも面倒かもしれないわね……」


「うーん、じゃあどうすれば良いと思う?」


「あの男はやり過ぎなければ大丈夫とか言っていたけれど、商会を隠れ蓑に手広く奴隷の売買をしていることを考えるとかなりの数の手下や私兵がいる可能性が高いから、生半可なことをせずに徹底的に叩いた方が良いわ。

 特に今回はルナ第二公女殿下の命が掛かっているし、殿下を救出した後は奴らの拠点を破壊するためにも以前オーガを討ち倒した時のような兵器を使わないといけないかもしれないわよ?」


「ええぇ……?」


(拠点を破壊って、要するに公女様を助けたら後は皆殺しってこと?

 しかも、対戦車ミサイルを使うとかって……そんな物騒な展開になるの?)



 俺はてっきり日本にいた頃、テレビとかで見る警察密着番組に出てくるガサ入れのような展開+対人戦闘を想像していたのだが?



「因みにだけど、私兵ってどんな奴がいると思う?」


「恐らく元軍人に魔法使い、場合によっては年間契約の冒険者や傭兵、没落した元騎士なんかもいるのではないかしら?

 後は元盗賊の他に用心棒とかを生業にしている裏の世界の剣客や弓使いとかね。

 まあ、要するにスミス達をもっと物騒にした連中がわんさかといると思えばいいわ。

 それに外道息子とその同類はウィルティアの第二公女を監禁しているわけだから、捕まれば外交上の配慮から見ても極刑は免れないし、配下の連中も知らなかったでは済まされないと思うから、連座制で重罪は確定でしょうね。

 多分、捕まらないために必死で抵抗してくるだろうから、戦闘は避けられないと思うわ」


「うへえ……」



 ある程度予想していたとはいえ、そんな連中と戦うと思うと不安でしょうがない。

 


(こりゃあやっぱり、ルークさんから話を聞いた当初に考えていた通りに7.62mm口径の軍用ライフルを使わないといけないかもしれないなあ……)






 ◇






「ふーむ、どれにしようかな?」


「まだ悩んでいるの?」


「ん? うん……」



 お互いパジャマ姿でありながら、俺は宿の床に座り込み、アゼレアはベッドに腰かけている。


 ルークさんからの依頼を請けた後に遅めの昼食を摂り、明日に備えるために寄り道はせず、公衆浴場で汗を流した後に宿の食堂で夕飯を食べながら奴隷についてアゼレアから話を聞いていた俺は、部屋に戻るとパジャマに着替えて就寝の用意を終わらせて直ぐに明日の準備を始めた。


 アゼレアは明日着る予定の衣服の準備と装備の用意をするだけだったのだが、俺の方は使いたい銃を出し過ぎてどれを使うのか迷いに迷っていた。



「私の方はもう終わったわよ。

 孝司も早く決めて寝ないと寝坊してしまうし、依頼遂行中に支障をきたすわ」


「うん……」



 アゼレアの言う通り早く決めないといけないのだが、目の前にあるどれもが良い銃ばかりなのでこれがなかなか決められないでいた。


 しかし、これでも数を絞った上でなので、10分くらい前まではかなりの数の銃が床に転がっていた。





 旧ソ連製の『AK-47Ⅲ型』に始まり、『AKML』に『AK-103』、最新の『AK-15』、旧東ドイツ製『Mpi-KMS』と『KMS-72』、ハンガリー製の『AMD-65』と『AMP-69』、ポーランド製『PMK-DGN-60』と『ベリルM762』、フィンランドの『RK62M3』と『RK95』、ブルガリアの『AR-M75F』と『AR-M4SF』、チェコ製『Vz58』、ルーマニアの『AIM』、果てはユーゴスラビアの『M70』やエジプトの『ミスール』、中国製の『QBZ-56C』まで……





 今回は対人戦になるの可能性が非常に高く、個人的な予想ではチェインメイルや金属鎧を着込んだ者もいると思うので、5.45mm×39弾より弾頭重量が重い7.62mm×39ワルシャワパクト弾を使用するAKシリーズとそのファミリー達のどれかを使ってみようと思い、好みの銃達を調子に乗って出しまくった結果、決められなくなったのだ。


 最終的に候補に残ったのは以下の銃である。





 ロシア製 『AK-15』

 ブルガリア製 『AR-M75F』

 ポーランド製 『ベリルM762』

 フィンランド製 『RK62M3、RK95』

 チェコ製 『Vz58』





 これだけの銃が残った。

 他の銃はストレージに戻したが、まだ6丁の銃が残っている。


 しかし、決められないのだ。

 『Vz58』を除く5丁は『AK-47』の血を色濃く引き継ぐ銃達であり、膨大なAKシリーズの中でもトップクラスの性能を有している。

 それにしても……



「お前痩せすぎだろ『Vz58』。 『AK-74ななよん』より細いってどうなん?」



 俺はVz58を手に取った瞬間、思わずこんな台詞が口から出た。

 もし彼女が喋ることができたら、多分「ほっとけ」と言っただろう。



「うーん、迷うなあ……」


「そこまで迷うのなら私が選んでみようか?」


「え? いや、それは……」



 いつまでも決められずにウンウン唸っている俺を見兼ねて提案して来たアゼレアの意見に一瞬否定しそうになったが、これはこれで面白いなと思った。


 銃器とは無縁だった異世界人のアゼレアがどれを選ぶのか少し興味がある。

 ここに並んでいるのは旧共産圏国が作る自動小銃の中でも信頼性の高い銃ばかりなので、どれを選んでも困ることはないので、俺は思い切って彼女の提案を受け入れることにした。



「そうだね。

 こうしていても時間の無駄だし、ここはひとつアゼレアに決めてもらおうかな?

 じゃあアゼレア、どれが良いか決めてみて」


「では、選んでみるわね」



 そう言って床に並べられた6丁の自動小銃に傍に座り、ジッと銃を見つめるアゼレアは真剣な顔で見定める。



「ん〜…………これっ!」


「ほう?」



 1分ほど各自動小銃を見ていたアゼレアは唐突に1丁の銃を指差す。

 彼女が選んだ銃は……



「RK62M3か……」



 彼女が選んだのはフィンランド製のRK62M3という自動小銃だった。



「どうしてこの銃を選んだの?」


「なんとなくって言うか……見た目がごちゃごちゃしてないから?」


「ふーん……」



 しかし、これはこれで良い銃を選んだなあっと俺は密かに関心していた。

 このフィンランド製『RK62M3』という銃は1960年にフィンランド軍に提出されたパイロットモデルとして作られた『RK60』を元にフィンランド軍の要望を取り入れて改良して新たに生産されたのが『RK62』という自動小銃だ。


 ではこのRK62M3という自動小銃はどういう銃かというとRK62を近代化改修した最新モデルだ。


 見た目は一瞬同じフィンランド製の『RK62/76』に見えなくもないが、あちらが金属製プレスフレームなのに対し、RK62は金属削り出しのフレームである。

 なので重量としてはRK62の方が重い。


 特に改修型のRK62M3はストックの交換やアクセサリーレールの追加などで重量が増しており、これにダットサイトなどの照準補助具を追加するとその分重くなり、銃弾をフル装弾した弾倉を足しと最終的な重さは5kgを超える。


 因みに旧ソ連で言えば、削り出しフレームのRK62がAK-47、プレスフレームのRK62/76がAKMに相当する。


 作動方式もAKと全く一緒であるので、AKを使ったことがある者は直ぐにRK62を操作できるだろう。


 しかし、あくまで一緒なのは操作方法だけで、性能はオリジナルの旧ソ連・ロシア製のAK-47・AKMシリーズを超えており、7.62mm×39ワルシャワパクト弾を使用するAKとしては後継のRK95と共にトップの位置に君臨している。


 この時は大して考えていなかったのだが、アゼレアが近代化改修の施され性能がより向上したRK62Mを選んだのはもしかしたら必然だったのかもしれないと思ったのは依頼を完了した後だった。


 RK62M3を残して他の銃は全てストレージへと戻す。

 そして、一番最後に戻したRK95を手に取ったとき、無意識に俺はこんなことを口走っていた。



「イッてまいそうどす!」


「何を言っているの?」


「え? ……はっ、俺は何を言っているんだ!?」


「何?

 もしかして、明日のことを考えると興奮して寝れないのかしらぁ?」



 そう言いつつ、両目を妖しく輝かせながら俺に近づいてくるアゼレア。



「NO、NO! 違う、違う!

 何でかこの銃を持ったら、京都弁を話す耳の長いドSな女学生さんが脳裏に浮かんだんだよ!」


「何それ?」


「俺にも分からないよ……」



 アゼレアが変な顔して俺の方を見るが、俺も何であんなことを口走ったのか訳が分からない。


 ただ、ひとつ分かったのは「往生際が悪うおす!!」と言っていた耳の長いドSな女学生は口径が5.56mmNATO弾であって、7.62mmワルシャワパクト弾ではなかったということだ。

 どうしてあんなことを言ったのだろうか?

 何かの呪いなのだろうか?



「まあ、いいや……」


「ん?」



 不思議そうな顔をするアゼレアを置いといてRK62M3の準備をテキパキと進めていく。



「ふーむ、一応『CZ806』も用意しておくか……」



 先のシレイラ公女魔物襲撃事件では頼りになった自動小銃だ。

 あの混乱の中でも実銃素人の域を出ない俺が問題なく使えたので、万が一、RK62M3が使いにくいと感じたら直ぐに切り替えられるように準備をしておこう。


 この銃は14・11・8インチと異なる長さの銃身が用意されているが、小柄な銃本体のサイズは変わらない。なのでRK62M3では使いづらい狭い空間であっても中間の11インチで充分に取り回しが可能だ。


 しかもバリエーションとして7.62mm×39弾を使用できるように設計されており、既にパキスタン軍高官に対し、次期パキスタン軍正式採用銃に実機が提示されている。



「さて、ちゃっちゃと終わらせてしまうか……」





 ――――1時間後





「ふう、やっと終わった……」



 あれから約1時間ほど明日の準備を行なっていた。

 具体的にはRK62M3とCZ806に始まり、フルオートマチック機能付きのマシンピストルやリボルビング式のグレネードランチャーと各種榴弾にショットガンなどの銃火器の準備に、屋内突入用のドアブリーチング用の油圧ジャッキやバッティングラム、金属製のドアや鉄パイプを切断破壊する爆薬にファイバースコープやコンクリートマイクに対人センサーやガソリンなどを用意していた。


 他にも多彩な種類があるブルガリア製の各種手榴弾を準備してようやく準備が完了する。


 お陰ででパジャマはガンオイルと機械油の匂いが染み付いてしまったので、俺が寝るのを待っていてそのまま船を漕いでいたアゼレアを一旦起こし、部屋ごと浄化魔法で綺麗にしてもらってベッドにへ入った。


 隣でスヤスヤと寝息を立てているアゼレアを起こさないようにしながら、各種突入用器具の説明書を読んでいた俺は読み終わった後直ぐに目覚まし時計のタイマーをセットしてから寝床につく。






 ◇






 午前4時ごろ、目覚まし時計の電子音が鳴り響いて目を覚ました俺は、隣でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているアゼレアを起こし、朝の身支度を終えた俺と彼女は装備の点検をしてから部屋を出る。



「孝司、準備できた?」


「うん、大丈夫」


「じゃあ行きましょうか」


「ああ」



 忘れ物がないか確認して部屋の鍵を掛けて階下に向かう。

 宿は寝静まっており、受付の従業員以外人影は見当たらない上に、食堂もまだ閉まっているので朝食を手べることは叶わなかった。


 一応部屋を出る前に水だけは飲んでいたが、脳や体にエネルギーを回すという観点から見ると何も食べないのはさすがにマズイ。


 受付の従業員に出かける旨を伝えて宿を出た俺とアゼレアは、昨日ルークさんと会った路地裏の食堂兼酒場へと向かう。距離としては徒歩10分くらいなので慌てることなく、しっかりとした足取りで歩いて行く。


 周囲はまだ暗く、すれ違うのはこの国の治安維持を司っている兵士の他は俺達と同じように依頼をこなす為に朝早くから出かけているか、逆に徹夜で依頼を達成して宿へ戻る冒険者くらいしか歩いていない。



「アゼレア、流石に朝から何も食べていないというのは良くないから、せめてこれでも飲んで」



 そう言いながらストレージから出して彼女に渡したのは、金色のパウチ容器に吸出し用の飲み口が付いたゼリー飲料だ。ローヤルゼリーやクエン酸、ビタミンCなどが配合されたゼリー飲料で、朝食の代わりと言っては何だが、空腹の状態よりは遥かにマシだ。



「これ何?」


「ゼリー飲料と言って水と氷の間のプルプルとしたスライムみたいな飲み物が中に入っているやつでね。

 胃が空っぽの状態じゃ力が出ないから、せめてちゃんとした朝食を食べるまでの間はこれでお腹を満たしておいてもらおうと思ってね?」


「ふうん……」



 スライムと聞いて怪訝そうな顔をした彼女は、蓋を開けた容器を俺から渡されて飲み口に鼻を近付ける。



「何だか甘い匂いがするわね……」


「まあ不味くはないから大丈夫だよ。 吸い出すようにして飲んでみて」


「……ええ」


 恐る恐る口を近付けてゼリーを一口飲んでみるアゼレア。

 暫くの間、ゼリーの感触を確かめるようにしていた彼女は、二口目から思いっきり吸い込むようにして中のゼリーを飲んでいく。

 そこまで大きくないパウチ容器に入っていたゼリーはすぐに無くなり、容器はペシャンコになった。



「うん……甘酸っぱくて、中々美味しいじゃない!」


「口に合ったようで良かったよ。

 取り敢えずはそれで大丈夫だと思うけど、後でちゃんと朝ご飯を食べようね?」


「ええ」



 ゼリーを飲んで目が覚めたのか、さっきまで若干眠そうにしていた彼女の目がパッチリと開いて赤金色の目に生気が灯る。ごみを回収し、俺も同じゼリー飲料を飲みながら彼女と共に目的の建物に向けて歩を進めた。





 ――――10分後





 目的の食堂兼酒場に着くと入口が開いており、まだ暗い時間にも関わらず室内からは淡い光が漏れている。ルークさんと会った時もそうだったが、この店には元々看板というものが無い。


 ギルド統括本部情報科の所有であるためか外観も特徴的な飾りなどは一切無く、木造モルタル造りの建物は小さな窓と扉しか付いておらず、意識していないと通り過ぎてしまいそうな雰囲気だ。


 多分、昨日この建物の中に入っていなかったら確実に通り過ぎていただろう。

 しかも、どんな店なのかを示す物がないので、扉が開いていて店内の様子が分かったとしても一見さんにとっては怖くて入りづらい店に違いない。


 かく言う俺も扉が開いているのに店内に入って良いのか分からず、出入り口の所で佇んでいた。



「ほら、孝司。

 そんなところにボーっと突っ立っていないで、早く中に入るわよ」


「あ、う……うん」



 そんな俺を尻目にアゼレアは店内へと臆することなく入って行く。

 彼女の呼び掛けに対し、本当に入って良いのか半信半疑になりながらも、俺は店内へと足を踏み入れる。



「ご主人様、このハムも美味しいですニャ」


「ありがとう。 エルネ」


「アル、ハムもいいけど野菜もちゃんと食べなさい」


「う、うん……」


「エルネ、アルティーナ、お前達二人共そうやって左右からアルの眼前に食べ物を突き出したら、食事ができないだろう」


「あらあら?

 そう言いながら、彼に食べて欲しそうに皮を剥いだ果物を所在無げに手に持っているのは誰かしら?」


「なっ!? わ、私は別に……

 こ、これは、そう!

 私が食べるために用意したんだ!

 何故、私がアルに食べてもらおうと思うんだ……!?」



 …………何だろう?

 暗い時間帯の早朝にも関わらず、この甘々ハーレムの食事風景は?


 俺とアゼレアが店内に足を踏み入れると、店内の一角にあるテーブル席では見ているこちらが砂糖を吐きそうな展開が待ち受けていた。


 丸い木のテーブルを囲む5人の男女。

 男女と言ってもその男女比は1人を除いて全員女性なのだが、1人の男の子を囲むように4人の女の子が座り、男の子に料理を食べさせようとキャッキャ騒いでいる。


 しかも、俺にはその5人に見覚えがあった。



(あれ? もしかして、アルトリウス君達か?)



 俺とアゼレアの入店にも気付かずに、未だ彼を囲んで嬉し恥ずかしの青春ハーレムを謳歌している。



「えっとお、あのアルトリ……ん?」



 俺がアルトリウス君たちに声をかけようとしたところ、不意に肩を叩かれたので何かと思い振り返ると、アゼレアがこちらを見ながらフルフルと首を横に振るが、その目には「今は声をかけるな」と言うメッセージが込められていた。



「……分かった」



 アゼレアの意を汲み取り、俺達2人は彼らの横を我関せずといった感じで静かに素通りして店内のカウンター席へと移動する。


 カウンター奥の厨房では2人の男性が何やら料理を作っており、良い匂いがこちらまで漂ってくるが、俺達に気付いた頭に赤いバンダナを巻いたイケメンの兄ちゃんが、ニッコリと笑顔を浮かべながら挨拶をしてくる。



「おはようございます。 いらっしゃいませ」


「あ、おはようございます。

 えっとお、ギルド統括本部情報科科長のルークさんから請けた依頼でここに来たんですけど……」


「はい。 科長のバンナーから伺っています。

 ただ、皆様全員がこちらに到着するのはもう少し掛かると思いますので、ここでお待ち下さい。

 それと朝食の用意をさせていただいています。 もしよろしければどうぞ」


「……いいんですか?」


「はい。

 これはバンナー科長の指示でして。

 こちらが指定した集合時間では、他の食堂は恐らく空いていないであろうとのことで、ここで皆様の朝食を用意して欲しいと頼まれました」


(ありゃりゃ? ルークさんってそんな指示を出してたの?)



 こっちが依頼を請ける側とはいえ、このような気遣いをされると何だか申し訳ない気持ちになる。



「すいません。

 こんな早朝から……何だか申し訳ないです」


「いえ、気にしないで下さい。

 それよりどうですか?

 もし朝食がまだでしたら、お待ちしてる間に食べられませんか?」


「すいません。

 では、お言葉に甘えてご馳走になります」


「私もご馳走になるわ」


「それでは、そちらの席にお掛けしてお待ち下さい。

 因みに、お二人は苦手な食べ物とかありますか?」


「いえ、特には……」


「私も無いわ」


「分かりました。

 それでは、直ぐに料理に取り掛かりますね」



 そう言って厨房に入って行ったイケメン兄ちゃんは、約5分程でカウンターへ戻って来た。



「お待たせしました。

 厚焼きベーコンとチーズを挟んだサンドイッチとポテトサラダです。

 こちらのスープは南瓜と玉蜀黍を細かくすり潰し、裏漉しして牛の乳で煮詰めたスープになります。

 お代わりは自由ですので、必要な際はお呼び下さい。

 では、ごゆっくり」


「ありがとうございます」



 そう言って異世界のお客さんを相手にしている、とある洋食屋の主人のような雰囲気で厨房に戻るイケメンの兄ちゃんを見送った俺とアゼレアは、いそいそと用意された朝食に手をつける。



「それでは……いただきます!」


「私もいただくわ。 うーん、美味しそう!」



 見た感じ、朝食用としては結構ボリューム感ハンパないサンドイッチを頬張り、咀嚼した後にスープを飲もうとカップから口に含んだ瞬間、早朝の店内に大きな声が響き渡った。



「あぁーーッ!? あんた、もしかしてエノッチ!?」


「ブウゥゥゥゥーーーー!!??

 エホッ! ゲホ、ゲホ………ゲホッ!! な、何だ!?」


「ちょっと孝司、大丈夫!?」



 盛大にスープを吹いて咽せている俺を心配するアゼレアに対して、手で大丈夫と合図を送りながらハンカチで口元を拭いつつ、声がした方向を見ると、冒険者の格好をして栗色の髪をひっつめた勝気そうな雰囲気の女の子が店の出入り口に立っていた。



「ゲホッ! ゲホッ! ハアハア……!

 ん? あ、え!? もしかして君、リリー!?」


「やっぱり、エノッチだった! 久し振り、元気してた?」


「いや、元気も何もそっちこそ何でここに居るの?」



 いきなり何の前触れも無く登場した懐かしい顔に、俺は不意打ちを食らったような感じで考えが纏まらない。っというか、何でリリーがここに居るのだろう?


 

(匂いにつられて朝飯を食いにでも来たのか?

 というかリリー、声がデカいよ)



 余りにも大きい声を上げるので、アルトリウス君達が甘々ハーレムから急に現実に引き戻されて驚いた顔でこっちを見ている。



「それはこっちが聞きたいわよ。 エノッチこそ、何でここに居るの?」


「いや……ギルドからの依頼でここに来てるんだけど?」


「それは奇遇ね。

 私達のクランもギルドから依頼を請けてここに来たのよ。

 で、店に入ったら何処かで見たような後姿が見えるから、もしかしてと思ってたらやっぱりエノッチだったって訳」



 リリーがそう言った直後、店の出入り口が騒がしくなったと思ったら彼女のクランメンバー3人が姿を現す。



「おい、リリー。

 走って行くのは構わんが、早朝とはいえ一人で暗い路地裏に入って行くなよ!」


「全くだぞ。

 シグマを騒がせてた通り魔みたいな奴が居たらどうするんだ?」


「そうですわ、リリー。

 もう少し落ち着きを持って行動しませんと……って、あら?

 そちらに居るのは、もしかしてエノモトさんですか?」



 店に入って来て早々、リリーに注意をする冒険者クラン『流浪の風』のリーダーであるセマとサブリーダーのムシル、そしてリリーと同じ女性メンバーのエフリ―。


 シグマ大帝国に入城する際に知り合ったリリーを含めた『流浪の風』の4人は少し服装が変わっていたが、容姿と言動はあの時のままだった。


 最初、彼らは勝手な行動をしたリリーを注意していたが、エフリーがこちらに気付いて声を上げるとセマとムシルも驚いた様子でこちらへ顔を向ける。



「久しぶりですね『流浪の風』の皆さん。 お元気でしたか?」


「これはエノモト殿、お久しぶりです。

 シグマ大帝国で会って以来ですが、その節はうちのリリーがご迷惑をお掛けしました」


「いえいえ、とんでもない。

 それよりも、皆さんその様子だとお元気そうで。

 ところで皆さん、こちらにはギルドの依頼で来たとリリーから聞きましたけど?」


「ええ。

 一昨日、ギルドの統括本部において依頼を請けまして。

 ここが集合場所だと聞いて、やって来ました」


(成程ね……)



 ここが集合場所だと聞いて来たということは、彼らがルークさんの言っていた冒険者達なのだろう。俺はそんなことをおくびにも出さずに笑顔のまま、自分達も同じだということを伝えるために口を開いた。



「奇遇ですね。

 私達もギルドで依頼を請けてここに来たんですよ」


「そうですか。

 と言うことはエノモト殿はあの後、冒険者になったんですね。

 で、エノモト殿? と言うのは?」



 リーダーのセマが俺の言った言葉を振り返りながら、アルトリウス君達の方を見る。

 どうやら彼は俺が言った『』という部分は、向こうのテーブル席に座っているアルトリウス君らのグループだと思ったようだ。



「いや、彼らとは知り合いですが私の仲間は……って、あれ?」



 後ろを振り返ると、食べかけの朝食を残してアゼレアが居なくなっていた。



「どうかしましたか、エノモト殿?」


「いや、今さっきまでここに彼女が……」


「彼女?」


「え、何々?

 もしかして、エノッチにカノジョがデキたの?

 ねえエノッチ、一体誰なのよ? エノッチのカノジョ、紹介してよ〜」


「それは私のことよ」



 ニヤニヤと笑いながら、俺を肘で突いているリリーを見ていたセマ達の後ろ、ちょうど出入り口の所から声が響き、俺が視線を出入り口の方に向けてセマ達が驚いて振り返ると、ドヤ顔をしたアゼレアの姿があった。



「なっ!? いつの間に……」


「うわ! すっごい綺麗なひと……」


「女性の……魔族の方かしら?」


「むう、デキるな……」



 4人が4人共それぞれ驚きを隠せず、といった顔でアゼレアを見ている。

 アゼレアは彼らの間をすり抜け、そのままこちらに歩いて来て俺の横に立つ。



「初めまして。

 孝司の仲間でカノジョのアゼレア・クローチェよ。 よろしくね」



 これが冒険者クラン『流浪の風』とアゼレアが初めて出会った瞬間だった。






 ◇






 アゼレアとクラン『流浪の風』のメンバー4人がお互いに挨拶をした後、傍らでこちらを見守っていたアルトリウス君達のクランも交えて自己紹介が始まる。テーブル席を2つ繋げて座って食事をしながらバルトの国軍警務隊の人が来るまでの間、皆和気藹々と話をしていた。


 最初は少しぎこちなかったが、やはり冒険者として共通の話題が出始めると緊張は次第に無くなっていき、お互いに波長の合う者が隣同士になって朝食を食べながら話をしている。





「ほう? その歳で等級が二級とは恐れ入るな」


「いえ、セマさんこそ僕と3つ違いじゃないですか。

 それに『流浪の風』と言えば、4人だけで地竜を討ち取ったクランとして有名ですよ」


「いや、あれは仕掛けた罠が偶々上手くいったのと、小型の個体だったからだ。

 それでも、実際には死ぬか生きるかの瀬戸際であの時は必死だった」


「そうだな。

 相手はあの地竜だからなぁ……あの時は本当にあらゆる幸運に助けられた。

 奇跡とはああいうことを言うのだろうな……」





「アルティ―ナさんって『水の神リオナ』の神官さんなんですか?

 確かに冒険者にとって水魔法は神聖魔法や精霊魔法などと並んで、なくてはならない魔法ですね」


「でも水魔法って地味な存在に見られるのよね。

 本当は氷の矢を降らせたり、魔物を凍らせたりとか高圧水流で押し流すこともできるのに、飲料水や洗浄用の水を作ることくらいしかできないって思われやすいのよ。

 神聖魔法を使えるエフリーさんが羨ましいわ……」





「リリーさんって弓が得意なんですかニャ?」


「凄いですわ。

 弓は剣と違って、技術を習得するのに長い時間が掛かるとお聞きしましたわ」


「別に大したもんじゃないわよ。

 うちのクランはセマもムシルも前衛担当な上に、エフリーは神聖魔法の中でも特に治癒魔法に特化しているから、あたしが唯一の後衛なの」


「そうなんですか?」


「いいですニャア~。

 私はトレジャーハンターをしていた時に弓を使おうと努力した時もあったですニャ。

 でも、矢が中々当たらなくて諦めましたニャ……」


「そうね。

 結局、エルネは弓は諦めて短剣の修練を始めたんですものね」


「じゃあ、武器はその短剣だけ?」


「違いますニャ。

 ご主人様に貰ったこの短剣とは別に、投擲用の小刀ナイフも使いますニャ。

 弓は全く当たらないのに、小刀だけは凄く当たるんですニャ……」


「そ、そうなんだ……」





「へえ、そんなことがねえ……」


「はい。

 アル……いえ、アルトリウスがその一件以来気に入られて追い回されてる始末でして……」


「大変ねぇ。 あなた達も」


「正直言って頭が痛いです。

 辺境伯付きだった私も貴族のことはよく知ってますが、あのような大胆な行動に出られると、正直どうしたらよいか……」


「うーん、魔王領の貴族でもそこまでお転婆な行動に出る娘は中々いないわねえ……」





 お互いが座っていたテーブル席を繋げ、すっかり打ち解けた様子の彼らを見ながら俺はカウンター席に座って微笑ましい気持ちになっていた。


 アゼレアもアルトリウス君率いるクランのサブリーダーであるマイラベルという騎士の女の子と、何やら笑ったり難しい顔になったりしながら話し込んでいるが、和やかな雰囲気で彼らとの距離は確実に縮まっているようで何よりである。


 因みに、俺はあの輪に入ることが出来ず、カウンターで一人寂しく座っているボッチではない。

 こっちはこっちでやるべきことをしていた。



「どうかしましたか? エノモトさん」


「いえ、何でもありませんよ」



 カウンター席に座る俺の左隣には一人の男が座っている。

 歳の頃は20代半ばと言ったところか?


 中肉中背で短髪にした金髪をひっつめており、明るめの赤茶色のズボンに黄色い綿のシャツに焦げ茶色の皮のジャケットと、この世界では珍しく少し派手目の服装をしているお陰で少しチャラそうな雰囲気をその身に纏っていた。


 しかし、その鋭くも綺麗な青い目には確かな知性が宿っており、彼が単にチャラい優男でないことを証明している。この世界には眼鏡はあってもサングラスという物がないのでしょうがないが、もし地球であれ如何にもな雰囲気で似合ったことだろう。


 この男の名はアジルバ。


 アゼレアが『流浪の風』のメンバーと自己紹介をし終わる頃、この店に入って来たギルド統括本部情報科所属の非公式職員で、今回のリヒテール子爵家の長男デュポンが仕切ってるデリフェル商会におけるルナ第二公女救出依頼のエスコートを科長のルークさんから任されているという。


 しかし、彼が只の職員でないことは欧米のスパイ映画の数々を見てきた俺にはなんとなく分かるのだ。


 季節が冬であるため服の所為で彼のはっきりとした体格は今一つ分からないが、それでも背凭れが無い丸椅子に座っている彼の背筋が一切猫背にならず、ずうっとビシッと背を真っ直ぐにして綺麗な姿勢を保っていることから彼がタダ者でないことが伝わってくる。


 恐らく、長年軍務に就いてきたアゼレアや元軍人だったスミスさん達ならば、一目見ただけで彼がどんな仕事に就いているのか瞬時に見抜いたことだろう。


 それが証拠にアゼレアは彼が自己紹介をした後、『流浪の風』や『早春の息吹』のメンバーをテーブル席に連れて行って俺と彼がサシで話せる状況を整えてくれた。


 因みに、アルトリウス君は兎も角、セマはアジルバのことを少し気に掛けていたので、彼もそれなりに勘が鋭いようだ。



「先程、話したようにデリフェル商会は、ウェブリオ伯爵領と隣接しているリヒテール子爵領のスイキクという街の外れに位置してます。

 この商会は一応、商人の慣例に則って『デリフェル商会』としての看板は掲げてはいますが、実質的にデュポンが奴隷売買を手広くを取引するために設立した商会ですので、警備は厳重です。

 表向きには織物や小麦の取引をしているようですが、商業科の商取引記録ではそこまで利益は出せていませんね。

 国軍に気取られないように奴隷の搬入は深夜、しかも馬車ごと建物に入れるように正面玄関とは別の所に巨大な専用の搬入口を設けています」


「しかし、国軍に気取られないようにと言っても、奴隷を輸送中の馬車を臨検すれば直ぐにお縄に出来そうに思えるんですけどねぇ……」


「それがそうもいかない事情ってもんがあるんですよ。

 輸送に使う馬車は商会ではなく、子爵家の紋章が入った馬車な上に商業大臣の輸出入許可証と馬車が通過する進路上に存在する各領主達の正式な通行許可証を持ってるんで、司法省の正式な捜索令状がないと臨検が出来ないんです。

 それに、奴隷は心身を拘束する魔法で声が出せないどころか体を動かすことが出来ず、仮に馬車の傍を国軍の兵士が通っても助けを呼べないんですよ。

 しかも、ご丁寧なことに奴隷を輸送する大型馬車は、荷台の中心部にある檻の外板に擬装用の藁やら中身が入った樽や木箱を巧みにくっ付けてあるんで、他の荷馬車と見分けるのが難しいらしくて……」


「へえ……」


「他にも大臣やら通過する各領主や国境の兵士らに金品を贈っているという情報もあり、今まで捜索らしい捜索は行われていないのが現状です」



 何だか、何処ぞの某特定アジアの貨客船のようだ。



「しかし、そこまでして奴隷の売買っていうのは魅力的なんですか?」


「ええ。

 この大陸のほぼ七割の国々では奴隷が禁止されていることもあって、奴隷……特に性奴隷の需要は逆に高くなる傾向が続いています。

 禁止されると、逆に手に入れたくなるのが人間のさがっていうんでしょうね。

 中には美少年を定期的に買う貴族家の夫人もいるそうですよ?」



 何ともゲスい話である。

 しかし、新しい奴隷を買った場合、先に買った奴隷はどうなるのだろう?



「基本、古い奴隷は死ぬ運命にありますね。

 サディアスのように、最終的に惨たらしく殺すことまでが目的の外道もいれば、そういう外道に売るか所有権を譲り渡す奴もいます。

 他にも私兵達に下賜して奴らの便所同然になっちまうとか。

 もっと酷いのになると、密かに人体実験を行っている魔法使いに古い奴隷を提供する奴もいます。

 稀に奴隷に情が移って開放したり、そのまま妾に迎える者もいますが、本当に極稀な話ですよ」


「ふうむ……そんな有象無象の外道が集まってる商会にこれから行くことになるわけですが、正面切っても入れてはくれないでしょうねえ?」


「そこは何とかなると思いますよ」



 そう言いながらアジルバは一枚の藁半紙を懐から取り出す。

 テーブルの上に広げられた紙には日本語で紹介状を示す文言が書いてあった。



「これは?」


「この書状はソルニック男爵家発行の紹介状ですよ。

 男爵家の現当主であるライアンス・ソルニック男爵は男色家、特に少年が大好きでしてね。

 それでバンナー科長がちょいと相談に行ったら、有難いことにを用意ししてくれたんですよ」


「へ、へえ……」


(怖ッ!!

 それって要するに、ギルドの情報科の科長が脅したってことでしょ?)



 返答に詰まる俺を無視してアジルバは話を先へと進める。



「エノモトさんにはコイツを持って客として中に入ってもらい、建物内部の構造と大凡の人員配置を把握してもらいたいのです」


「はあ!?」


(おいおい、何で俺が違法風俗店をガサ入れする生活安全課の刑事みたいな真似をしないといけないんだよ!?

 しかも、バレたらその場で100%殺されるだろう!)



 アジルバの目を見ると冗談で言っているのではないことはすぐに分かった。

 彼は本気で俺に商会の潜入捜査をさせる気だ。



「いや、そう驚かなくても。

 これは最初、適当な冒険者を見繕って商会内部に入ってもらおうと思ってたんですが、向こうには雇われの現役冒険者も用心棒代わりに数人いるんで、下手をすると顔が割れる可能性があったんで実行しようかどうか迷っていたんですが、エノモトさんを見て直感的にあなたしかいないと思ったんですよ」


「ええぇ……何で自分が?」


「そりゃあエノモトさんの身形と顔見れば、あなたが冒険者なんて誰も思いませんよ。

 ぱっと見、金のある商人か良くて何処かの外国の裕福な貴族家の次男坊か三男坊辺りにしか見えませんて。

 大体、そんな庶民に買えないような縫製が異様に整った服を着込んでいる冒険者とか、何の冗談かと思いますよ?」


「そ、そうなんですか?」


「一般人は兎も角、俺達のような業界人や街中の商売人、それに高級品を見慣れてる貴族辺りがエノモトさんを見て、冒険者って思うほうがよっぽど変ですよ」


「はあ、そうですか……って、あれ?

 この紙には紹介状を書いたっていう貴族の名前がありませんけど?」


 商会に見せる紹介状の内容を読んで行くと、貴族の名前がどこにも記載されていないことに気付く。裏側に書いてあるのか?とも思ったが、紙の裏は真っさらだった。



「そりゃあ、当たり前ですよ。

 万が一でも、この紹介状を官吏に見つかれば、書いた方は無事じゃあ済みませんからね。

 このような危ない書状を書く場合、こういうお互いにしか解らない記号を入れて誰が書いたのか判るようにしてあるんです」



 そう言いながら、アジルバが書状に書いてある一つの記号を指差す。

 そこには鳥のような記号が切手のサイズで書いてあるのが確認できた。



「こういう危険な書状は本人が書くことは、まずあり得ません。

 普通は裏の代書屋が書いて、最後に本人が記号だけを押印するんです。

 これは最近、シグマ大帝国を中心に普及し始めた筆跡鑑定っていう捜査の目を掻い潜るためですね。

 万が一、書状が押収されても誰が書いたのか解らないんで、証拠品としての価値が低くなるからです」


(ふーん、ということは指紋の分析に関してはまだまだ普及していないということか?)



 しかし、これは良いことを聞いた。

 異世界とはいえ、筆跡鑑定という手法が犯罪捜査の手段として用いられているとは夢にも思わなかった。


 やはりイーシアさんの言う通り、異世界だからと侮っていると足を掬われかねない。

 油断大敵である。



「はあ……で、私はどのようにして商会へ潜入すれば良いのですか?」


「まあ、大雑把に言って奴隷を買いに来た、好色な貴族家の馬鹿息子を演じてもらえればと。

 いや失礼、一応演技としてなので気を悪くしたのなら、すみません」


「ああいや、別に怒っている訳じゃ……ただ私1人で中に潜入するのかと思うと……ね?」


「それに関しては、もうすぐ国軍警務隊から派遣されてくる専門の捜査官が同行しますがね……って、どうやら着いたみたいですよ?」



 そう言って人の気配を感じ取ったのか、アジルバは店の出入り口の方へと視線を向ける。

 同時にアゼレアやセマ、マイラベルや猫耳獣人のエルネも同じ様に話を中断し、視線を店の出入り口に向けた。


 その直後に店の扉が開かれて人が店内へ入って来る。

 アジルバから直前に捜査官が来るという話を聞いていたため、てっきり日本警察の刑事の様な人が来るものとハナっから思っていた俺は入店して来た人物を見て一瞬、我が目を疑った。



「女の子?」



 店内に入って来たのは肩甲骨まで伸びた見事な長いウェーブの金髪と少しながら地味に見えるが、しかしそれでいて一目で高級品と判る服を着込み、その上からこれまた上質なウールと思しき生地で作られたコートを羽織った少しばかりクールな印象を持つ10代後半の女の子であった。


 しかもよく見ると、女の子の後ろには肩口辺りで綺麗に切り揃えた銀髪をひっつめ、キリリとした表情の執事服を着用した男装の麗人が黒い外套を羽織った状態で女の子に付き従っていた。

 女の子は誰かを探しているのか、店内にいる俺達をグルリと見回す。



「誰?」



 俺がこの場にいる者達に問いかける様にして店内を見回すと、アゼレアや『流浪の風』のメンバーは「わからない」と言わんばかりに首を傾げている。


 しかし、冒険者クラン『早春の息吹』のメンバーだけは違う反応を見せた。

 彼らは一様に苦虫を噛み潰したような表情になり、特にリーダーのアルトリウス君は気分が悪いのか、若干顔を青くしていたのである。



「あれえ? ん〜?」



 最初は初対面かと思っていたが、顔を凝視している内に何処かで会ったような気がして、俺はこの世界に来てからの記憶を辿り始めたが、アゼレアが「もしかしてクリフォード公爵家の?」と呟いた瞬間、記憶が一気に戻って来る。


 あの時はオーガに襲われた所為で衰弱し、目の下にドス黒いクマが出来ていたため判らなかったが、よく見ると、店の出入り口で仁王立ちしているあの女の子はシグマ大帝国の帝都ベルサに次いで2番目に大きい都市であるメンデルを治めるクリフォード公爵家の長女アナスタシアであった。


 そのアナスタシアは店内にいる全員の視線を気にすることなく、店の中を隈なく見渡していると、突如ある一点を見つめてクスリと笑うが、その表情はまるで獲物を見つけた猛獣の様で、戦闘状態のアゼレアほどではないが中々に迫力がある。



「フフフッ……! やっと見つけましたわ。

 もう逃がしませんわよ! 私の未来の旦那様っ!!」



 そう言うと、アナスタシアは明らかに人間の身体能力を超えている動きで、テーブル席に座っていたアルトリウス君目掛けて飛び掛ったのであった。

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